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(8)故人への思いから生まれた明器  2015年3月12日刊行
韓敏(国立民族学博物館教授)

中国安徽省蕭県で出土した漢代の副葬品、陶製の竃=2014年7月、筆者撮影

1999年~2001年にかけて、私が調査をした中国安徽省蕭(しょう)県では、高速道路(東の江蘇省連雲港から西の新疆カジカスまで)の建設工事が行われた。工事現場から石と、石・煉瓦(れんが)混合の151基の墓が出土された。省文物考古研究所調査の結果、漢代のものと判明され、今、その一部は蕭県博物館で展示されている。

私が惹(ひ)かれたのは、玉、木や泥・陶磁などの日常品を模した副葬品である。死者を神明(神)とする中国では、副葬品は明器と呼ぶ。食器から二階建ての家屋、豚小屋まで人間味がぷんぷんとしている。墓に納めた副葬品の数や素材がまちまちであり、貴族から庶民まで明器の伴う埋葬が盛んだったとわかる。展示品の中で食関連のものが多く、例えば、陶製の竃(かまど)は、釜、穀物を蒸すこしき、煙突もついている。食を天となす中国では、あの世でも食は大事なのだ。

この風習は新石器時代から見られ、漢代以後盛んになり、唐に至って流行を極めた。北宋以降、紙製のものが流行し、現在に至る。今、電気炊飯器、北京ダック、テレビ、車などの明器も登場している。あの世で不自由のない暮らしをしてほしいという故人への思いは明器を進化させている。

 

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