国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

中国の食

(4)この世とあの世つなぐ  2018年7月28日刊行

韓敏(国立民族学博物館教授)


命日の際にあの世の母親に届けたい食べ物=中国・雲南省騰衝市で2001年、筆者撮影

『史記』や『漢書』に、「王以民為天、民以食為天(王は民を最も大切なものと考え、民は食を最も大切なものと考える)」と記述されているように、中国人は食を重んじる民族である。食を第一に考えるのはこの世の人々だけではなく、あの世に行ってしまった故人についてもいえる。あの世で不自由な暮らしをさせてしまうと、故人が不憫なだけではなく、たたりをおこす恐れがあるからである。そのため、あの世へ旅立とうとする故人、あるいはあの世に住んでいる故人に、定期的に食べ物を用意し、届けようとする。

たとえば、死が確認されたら、体を清め、綿入れの寿衣を着せて靴を履かせたあと、空腹では忍びがたいので、死者の口に米や貝などを入れる「飯含(はんがん)」の儀式を行う。また、お正月、清明節、誕生日、命日などの際には、自宅、家の近くの交差点、あるいは墓の前に食べ物を用意し、線香と紙銭もたいて、あの世に届けようとする。

日本人の墓参りは花を供えることが多いが、中国人の墓参りは花より食である。供え物として用意する食べ物は、果物、酒、お茶、まんじゅう、ギョーザ、菓子、あるいは、故人の好きな食べ物など、さまざまである。やはり中国は食を大切にする国であり、この世とあの世も食によって結ばれている。

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