国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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韓国に特有のこと

(2)キャッシュレス先進国の気持ち  2020年1月11日刊行

太田心平(国立民族学博物館准教授)


諸外国と同じく、韓国でも、銀行のキャッシュカードは一般的にデビットカードとして発行される=2019年11月17日、筆者撮影

クレジットカード、デビットカード、電子マネーなどを使うことで、現金での取引をしないキャッシュレス決済。日本でもその浸透が推進される今日、よく話題となるのが、韓国のキャッシュレス比率の圧倒的な高さである。96%を越えているとする統計もあるほど。なぜ?

韓国でキャッシュレス決済が普及したのは、2005年だった。消費者がキャッシュレス決済をするたび、誰がいくら使ったかが税務署のデータに入るようになり、年度末には、世帯ごとの年間支出額が算出されるようになった。そして、支出が年収の一定割合を越えると、越えた分の一部が、所得控除の対象になる。

なお、現金決済をする場合も、世帯主の電話番号を告げるなどすれば、現金領収書なるものが発給されて、税務上でカウントされる。ただ、支払いのたびにこの発給作業をレジでおこなうのは面倒。また、徹底して税務管理されているという意識が広まるにつれ、キャッシュレス決済を拒否する店や、現金領収書を発給しない店は、脱税でもしているかのように怪しまれるようになった。

韓国でキャッシュレス決済が普及した理由は、その方がお得だから?

いや、話はもう少し複雑だ。面倒さ、被管理意識、怪しみなど、人びとの気持ちが政策を後押ししたことも、けっして看過できないのである。

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