国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

中国ムスリムと食

(2)庶民の味  2020年8月8日刊行

奈良雅史(国立民族学博物館准教授)


蘭州拉麺店の店内の様子=中国浙江省義烏(ぎう)市で2019年9月、筆者撮影

ハラール(イスラ-ム法的に合法な)料理と聞いて、中国をイメージする人はあまりないかもしれない。しかし、中国でハラール料理はムスリムに限らず日常的に食される庶民の味のひとつだ。

中国のハラール料理でおそらく最もポピュラーなものは、最近日本でも人気のある蘭州拉麺だろう。牛骨スープに手で伸ばした小麦粉の麺を入れた料理だ。そこにパクチーやラー油、黒酢などを入れて食べる。蘭州拉麺店では、その他に炒飯などの料理も安価に手早く食べられる。

ただし、その手軽さに加え、ハラールであるということも蘭州拉麺店が広く受け入れられてきた重要な要因だ。中国では食の安全がよく問題となる。例えば、地溝油(排水溝に溜まった油を再利用した油)の流通が10年ほど前から問題視されている。そのような中、ムスリムではない中国の友人たちもハラール食堂は安全だと言って安心して食事をしていた。ラードを含む地溝油は使われないと考えられているためだ。

また、ハラール食堂は他の飲食店に比べ清潔だとみなされている。イスラームでは清潔さが重視されることもあり、ハラール食堂は常に綺麗に清掃されている傾向があるためだ。

中国のファストフード店ともいえる蘭州拉麺店。その人気の秘密は「やすい、はやい、うまい」だけでなく、「きれい」にもある。

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