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東西ユーラシア 食の境目 胃袋から見たイランの異彩

2026年5月4日刊行
黒田賢治(国立民族学博物館准教授)

米が好きだ。ジャポニカ種でもインディカ種でも、米が好きだ。塩気のある米料理も好きだ。炊き込みご飯も好きだし、混ぜご飯も好きだ。

わたしが足しげく通ってきた中東のイランでも塩味の米料理がある。炊き上げた米料理は、総じてポロウと呼ばれる。そうポロウはお察しの通り、ピラフの語源の一つである。

レンズマメの入ったアダス・ポロウ、インゲンマメが入ったルービヤー・ポロウなどが代表だろうか。ニンジンが入ったハビージュ・ポロウなんていうのもある。ポロウの種類をあげれば、枚挙にいとまがない。

だが、イランのポロウは、同じくインディカ種の料理である南アジアのプラオ、アラビア半島のマンディーやカブサ、あるいは中央アジアで食べられるプロフとは少し違う。なんなら、同じくポロウを冠するアフガニスタンのそれとも違う。筆者はどれも好きだが、イランのポロウとの違いは食感と香辛料だ。

ワークショップで中央アジア料理「プロフ」をつくる筆者(右)=大阪府吹田市の国立民族学博物館で

ワークショップで中央アジア料理「プロフ」をつくる筆者(右)=大阪府吹田市の国立民族学博物館で

先にあげたイラン以外の米料理は、スープと具材に生米を入れて炊き上げられる。しかしイランのポロウは、塩と油を入れて一度芯が残る程度にゆでたあと、具と米を重ねて弱火で蒸して炊き上げる。そのため米はパラっとしているものの、少しやわらかい。また具の味付けにサフランなどの香辛料も使われるが、それほど際立ってはいない。だから、イランのポロウはなんとなく優しい。

よくよく考えてみれば、イランを境目に食が大きく変わるのは米料理に限ったことではない。中国新疆ウイグル自治区や中央アジア諸国、南アジア北部には、ラグマンと呼ばれる小麦の麺と野菜や肉の具を混ぜた料理がある。中央アジアでは卵を混ぜこみ、伸ばして渦巻き状にした生地に油をしみこませ、それを手で細く伸ばした麺をつかう。

一方、新疆流のラグマンの麺は、わたしの故郷、奈良県桜井市三輪名産の手延べの太そうめん「糸すだれ」を思い起こさせてくれる。新疆では、蘭州牛肉麺よろしく、卵は使わず、小麦に油を混ぜ込んだ生地を手延べ麺のごとく延ばしていくのだ。

ところが、イランになると手延べ麺料理が姿を消してしまう。あんを小麦粉の皮で包むような料理も消えてしまう。中央アジアには、ざく切りの羊肉や牛肉と玉ねぎをあんとするマンティがあるし、コーカサス地方にもジョージアのヒンカリがあり、トルコにも小さなラビオリ状のマントゥがある。やはりイランでは見かけなくなる料理だ。なんなら、中央アジアにはある「蒸す」という調理法すら消えてしまう。ええい、イラン、お前はいったい何者だ。

東西ユーラシアのあいだで異彩を放つイラン。中東情勢の緊迫で図らずも耳目を集めているが、その奥深さを胃袋からも考えてもらいたい。