砂漠で食べるウニ 痛風の恐怖と誘惑が綱引き
2026年8月3日刊行
松本雄一(国立民族学博物館准教授)
ペルー共和国の南海岸部に位置するナスカ市。地上絵で有名なナスカ文化(紀元前100年~紀元後600年)が栄えたこの地は世界でも有数の乾燥地帯である。2013年からこの地域で考古学調査を行っているが、毎年過酷な環境に体が悲鳴を上げる。明け方の暗いうちに宿舎を出発し、午前6時過ぎに砂漠の中の遺跡に到着する。涼しいうちに発掘作業を開始するが、すぐに急激に気温が上がり、日陰もない中で直射日光に耐え、ふらふらしながらの調査になる。汗はあっという間に乾くため、じめじめとした不快さはないが、水分補給を意図的にしないと倒れることも経験上知っている。正午を過ぎると、今度は砂を巻き上げる強い風が吹き、作業はできない。目をこすりながら撤収して宿舎に帰ると午後2時、もはや洗濯をする気力すら残らない。
そんな中での楽しみはやはり食事である。ペルーの海岸部といえば、何はなくとも海産物である。平日はサンドイッチでしのぎ、週末はゆっくり寝過ごして近くの海鮮レストランでセビチェとビールが定番である。ペルーの国民食ともいわれるセビチェは、新鮮な生の魚介を塩コショウ、トウガラシ、そしてハーブとライムでマリネした料理で、鮮魚好きの日本人には一度食べてみてほしい。
ウニのセビチェ
=ペルー共和国ナスカ市で2月、酒井恵祐さん撮影
今まで食べてきたセビチェの中には、ウニが添えられているものがあった。そして、痛風持ちの私は、ウニが大好きである。ある週末に、宿舎近くのレストランで、よりによって食後に「グラスのウ二」というものをメニューに見つけてしまった。注文するとカクテルグラスにマリネされたウニがみっしりと詰まっていた。日本で食べたら軍艦巻きいくつ分だろうかなどとさもしいことを考えながら、同僚とともに瞬く間にビールを3本空け、今度来るときはシェアせずに個別に食べようと誓い合ったのである。さらに、帰り際に店員さんに、ウニのセビチェもあるよ、と声をかけられてしまった。うわさでその存在は知っていたが、痛風が気になって、あえて探そうとしてこなかったのに。
迷った末、次の週末に1人でそのレストランを訪れた。意を決して、ウニのセビチェと白ワインのボトルを注文した。出てきたものは大皿に山盛りのウニであった。日本では信じられない量なのだが、辛みとライムのさわやかな味で瞬く間に胃に消えていく。すっかり酔っ払い、満ち足りた気分で宿舎に帰った私は、翌日二日酔いと右足の違和感で目覚めた。現場で石にぶつけたような気もするが、もしかしたら昨日のウニが原因で痛風の発作が起きてしまうのではないか。恐怖でまったく作業に集中できないまま数日が過ぎたが、どうやら発作は起きないでいてくれたようだ。今年も調査が近づいている。果たして誘惑に勝てるだろうか。
