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政治的暴力・コンフリクトと民族(2026.4-2029.3)

テーマ区分:民族と暴力

代表者:丹羽典生

研究期間:2026.4-2029.3

プロジェクトの目的・内容

20世紀の後半以降グローバル化と称される時代のなかでコンフリクトの形態に変化が生じたとされる。主権国家間の戦争から非対称的な非国家的主体との紛争へと転換したこと、また国家という単位から民族や宗教といった人々のアンデンティティの政治に関わる側面が前面化していることが指摘されている。コンフリクトに関わる論点で近年さらに注目されているのは、新たな情報メディアの介在の様態であろう。オンライン上での情報発信を含めた排外主義活動の展開や、あるいは逆に各セクターの正義を求める運動のありようは、昨今の国内外の政治のみなれた情景とさえなりつつある。これらは、従来型の国家の宣伝やプロパガンダから広い意味での民衆暴動や社会運動による社会的課題への取り組みと地続きでありながら、情報のトランスナショナルな拡散や広がりのスピードという点、あるいはそこから浮き彫りにされる民族や宗教などの人々の集合的属性のありかたにおいて、やはり現代的な特徴を色濃く映し出していると考えられる。フェイクニュースや情報の真偽性などが、同時代的に世界各地で懸念材料とされていることは、理由がないことではないのだ。

そこで、本プロジェクトでは特別研究のなかでも「民族と暴力」に焦点をあてることで、暴力・コンフリクト及びそれらを媒介する言説やコミュニケーションという視点から現在的な民族に関わる諸事象の検討を行いたい。この際に、暴力とは物理的な暴力から人や物のあいだに境界を引く認識的なそれをふくめている。暴力やコンフリクトなどの政治的イベントは、もともと一般に人間の情動を揺さぶる側面がある。言説やメディアなどのコミュニケーションを媒介とするオンライン上の情報ツールの発達は、そうしたイベントをひろく社会の人々に発信・喚起して、問題点を共有したうえで、合理的な討議に付すことに役立ってきた。しかし同時に人々の突発的な感情を駆り立て、第三者には非合理的に見えるような、時には暴力的な行動に駆り立てる要因ともなる。

本プロジェクトでは、こうした世界の例を微視的に分析すると同時に、これらが人々のあいだにどのような集合性を喚起し、また分断をもたらしているのかを分析していく。世界各地でおきている同時代的な社会的課題として分析を行うと同時に、現在に至る歴史的な変化も視野に入れて研究プロジェクトをすすめていくことをもくろんでいる。本シンポジウムでも、こうした研究プロジェクトの方向性について考えていきたい。

期待される成果

期待される成果としては、以下の2点にまとめることができる。

一つ目は、現代社会に於ける民族と暴力にまつわる諸事象を、緻密なフィールドワークに基づき民族誌的に記述することにある。これまでの研究が捉えてきたような対面的な対立から、オンライン上の言説やメディアが介在した対立まで、個人の情動を揺さぶり、特定の集団属性を浮き彫りにする動態を、具体的な文脈から捉える。物理的暴力のみならず、境界設定・解除する認識的暴力が立ち現れる現場を解明する。

二つ目は、そうした世界各地の事例を、歴史的背景を踏まえた上で通文化的に比較検討することにある。情報のトランスナショナルな拡散が、異なる文化圏においていかなる集合性を喚起し、あるいは固有の分断をもたらすのか。そこに従来の民族に基づく区分がいかにかかわってくるのかを、それらのメカニズムを比較分析することで、グローバル化時代におけるコンフリクトの特質の一端に迫る。