国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2005年4月23日(土)
《機関研究成果公開》研究フォーラム「インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題」

  • 日時:2005年4月23日(土) 13:00~18:00
  • 場所:国立民族学博物館2階 第5セミナー室
  • 主催:国立民族学博物館・機関研究プロジェクト「災害対応プロセスに関する人類学的研究
  • ※要申込(先着100名)
 

趣旨

2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震による津波は、インド洋沿岸のほぼ全域を襲い、死者・行方不明者数が30万人にも達する甚大な被害を各地にもたらしました。現在、初期の緊急救援活動は一段落し、各国の救援隊も現地から引き上げつつあります。しかし、被災地では、復旧・復興に向けた長い道のりをこれから歩んでいかなければなりません。スリランカでは、内戦からの復興の歩みを始めた矢先の被災であり、インドネシアのアチェ州では、約30年にもわたって続いてきた独立紛争も今回の災害への対応に影響を与えています。沿岸部の漁業だけでなく、農業や商業、そして観光施設も大きな打撃を受け、生存者にとっても今後の生活をどのように再建していくかが大きな課題となっています。
本研究フォーラムは、今回被災地となった地域の、社会や文化について長年研究をおこなってきた研究者による調査報告をもとに、現状の理解を深めると共に、自然災害被災地の調査や支援活動への文化人類学者をはじめとする地域専門家の関わり方についても話し合いたいと思います。

報告者

スリランカ
  高桑史子(東京都立短期大学 文化国際学科)

インド
  杉本星子(京都文教大学 人間学部)
  深尾淳一(拓殖大学・非常勤講師)
  杉本良男(国立民族学博物館 先端人類科学研究部)

タイ
  市野澤潤平(東京大学大学院))

インドネシア
  西芳実(大東文化大学・非常勤講師)
  山本博之(国立民族学博物館 地域研究企画交流センター)
  堀江啓(独立行政法人防災科学技術研究所・地震防災フロンティア研究センター)

コメンテーター

  • 牧紀男(防災科学技術研究所 地震防災フロンティア研究センター)
  • ラジブ・ショウ(京都大学大学院 地球環境学堂)
  • 桑名惠(ジャパン・プラットフォーム モニタリングチーム員)

司会

林勲男(国立民族学博物館 民族社会研究部)

実施報告

開催趣旨を説明する代表者
開催趣旨を説明する代表者
バンダ・アチェの調査報告をする堀江氏
バンダ・アチェの調査報告をする堀江氏
アンダマン、ニコバル諸島の復興支援について語るラジブ・ショウ氏
アンダマン、ニコバル諸島の復興支援について語る
ラジブ・ショウ氏
2005年4月23日(土)午後1時から午後6時半まで第5セミナー室にて、約50人の参加者を得て開催した。研究代表者の挨拶に続き、まず、災害統計データの取り扱いと国際機関の活動に関しての報告があった。次に、津波災害被災国としてスリランカ、インド、タイ、インドネシアを取り上げ、科研費(特別研究促進費)「2004年12月スマトラ島沖地震津波災害の全体像の解明」(研究代表:京都大学防災研究所 河田恵昭)と、科研費「アジア・太平洋地域における自然災害に関する民族誌的研究」(研究代表:林 勲男)による現地調査報告を8名の研究者が行ない、それに対して5名がコメントし、フロアーの参加者も含めた総合討論を行なった。


災害直後から地震・津波工学の専門家や、マスコミ関係者が現地入りして被害状況の把握に努めてきた。しかし、人間や建造物以外への影響や、そこに働く文化的・社会的要因の把握には多くの時間と綿密な調査に基づく分析が求められる。単純に統計処理ができる量的データではなく、質的データが重要となる。被災地域・被災国で長年の社会・文化に関わる調査研究に従事してきた専門家が、自然災害の緊急調査に加わったことは、その調査が短期間のものであったため、おのずと限界があったにもかかわらず、将来への継続的研究に多くの示唆を得ることができ、また、研究成果の社会的還元の点においても、理工学系研究者との連携の必要性の認識が生まれた。


インド洋沿岸部に来襲した津波の波高シミュレーションと、人口統計データの数値をイコノス等の衛星画像と組み合わせることにより、甚大な被害を現地からの報告を待たずして、ある程度の予測把握が可能ではある。しかし、好条件の漁場を求めて行われる季節的移動や、宗教的な巡礼といった大規模な人の移動に関する理解無くしては、予測と現実を大きく乖離させるだけである。さらには、海洋民や観光地の出稼ぎ労働者、後背地の農民への影響なども、今回の研究フォーラムではじめて明らかとされた点である。非常時の緊急調査も、日常の人々の暮らしの理解があってこそ、綿密で正確なデータの収集に結実するとの感を強くした。


科研費(特別研究促進費)によるプロジェクトは2005年3月末で終了し、その報告書は次のウェブサイトで公開されている。
http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/sumatra2004/report.html
<文責:林勲男>