国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2007年5月31日(木) ~6月1日(金)
《機関研究成果公開》国際シンポジウム「東アジアにおけるトランスナショナルな移住―比較の視点から見た日本」

  • 期日:2007年5月31日(木)~6月1日(金)
  • 場所:国立民族学博物館 2階 第4セミナー室
 

趣旨

本国際シンポジウムは、機関研究「トランスボーダーの人類学」の成果発表の一つとして、日本におけるさまざまなトランスナショナルな移住(人の移動)に関する民族誌的研究を報告して議論するとともに、中国、韓国における移住との比較を通じて、その相違と東アジアにおける国際人口移動の特質を明らかにすることを目的とする。日本における移出、移入民についての人類学的研究の進展が確認できるうえに、中国、韓国における移民研究との比較により、東アジア地域というレベルで国際人口移動の動態が解明できる意義がある。

期待される成果として、東アジア三国における移出、移入民の性格、現状、その背景となる出入国管理政策、労働人口の減少と少子・高齢化の進展などを比較することで、これまでの一国の研究を超えた新たな知見がえられると予想される。また、機関研究「トランスボーダーの人類学」の一つの成果を英文報告書(SERを検討中)として出版し、研究成果を公開することができる。

 

シンポジウム実行委員会

南真木人(研究戦略センター・准教授)
庄司博史(民族社会研究部・教授)
陳天璽(先端人類科学研究部・准教授)
山下晋司(東京大学大学院総合文化研究科・教授)
David Haines (Associate Professor, George Mason University, Virginia, US)
 

シンポジウム参加者一覧

館内(4人)
SHOJI, Hiroshi (National Museum of Ethnology) 庄司博史
CHEN, Tien-shi (National Museum of Ethnology) 陳天璽
TAKEZAWA, Shoichiro (National Museum of Ethnology) 竹沢尚一郎
MINAMI, Makito (National Museum of Ethnology) 南真木人
館外(11人)
YAMASHITA, Shinji (University of Tokyo) 山下晋司
HARAJIRI, Hideki (Ritsumeikan University) 原尻英樹
SASAKI, Koji (University of Tokyo) 佐々木剛二
SUZUKI, Nobue (Nagasaki Wesleyan University) 鈴木伸枝
KAWAKAMI, Ikuo (Waseda University) 川上郁雄
KUDO, Masako (University of Tokyo) 工藤正子
MOCK, John (University of Tsukuba) ジョン・モック
MIYAZAKI, Koji (Tokyo University of Foreign Studies) 宮崎恒二
ONO, Mayumi (University of Tokyo) 小野真由美
KOIZUMI, Junji (Osaka University) 小泉潤二 <ディスカッサント>
Jerry S. EADES (Ritsumeikan Asia Pacific University, Ooita) ジェリミー・イーズ <ディスカッサント>
海外(5人)
XIANG Biao (University of Oxford)
JEONG, Jong-Ho (Seoul National University) 
HAINES, David W. (George Mason University)
TOYOTA, Mika (Asia Research Institute, National University of Singapore) 豊田美佳
YAMANAKA, Keiko (University of California, Berkeley) 山中啓子

 

主なスケジュール

5月31日(木)
8:50 受付開始
9:20 シンポジウム開始
17:40 第一日終了 夕食
11:10-11:30 休憩
6月1日(金)
9:30 第二日開始
17:00 シンポジウム終了

成果報告

セッション1ではトランスナショナルな移住を比較するフレームワークが提示され、東アジアの移住現象の比較研究は、欧米のそれとの比較研究にも大きな意義をもつこと、世界の人類学者が新たな人類学の地平を構想する格好の共通テーマとなることが主張された。セッション2と3は、日本におけるトランスナショナルな移民の民族誌的な報告がなされた。対象となったのは、コリアンの新旧移民の比較、老華僑と新華僑の差異と協力の動向、ブラジル日系人移民をブラジル側から捉える分析、アメリカ文化の伝達者から「女性化した」労働者の移入に変化してきたフィリピン人、ベトナム難民のホスト国の差異に基づく葛藤、ネパール人にみられる減少する超過滞在者と増加する「技能」在留資格者、である。

移民の増加とその性格の多様性が確認できたところで、それに応じて日本は多文化的になってきたのかを検討したのがセッション4である。ここでは言語(多言語主義)、宗教(パキスタン人と結婚し改宗した日本女性)、教育(秋田県を例に日本の根源的な多文化性)が取り上げられた。他方、セッション5では、日本社会の高齢化に伴う移住現象として、年金生活者の海外移住(「長期滞在」観光)と外国人看護・介護従事者の移入問題が報告された。後者では、日本の取り組み(日本フィリピンFTA)は既に他の先進諸国に後れており、高度な人材の確保がますます困難になっていることが指摘された。セッション6は比較研究として、東アジアの移民、韓国の事例、移入国日本の20年の歴史、ヨーロッパの国民国家論が議論された。また、ディスカッサントからは、文化やアイデンティティについての発表が多かったが、移住問題は経済の理解を抜いては議論できないことがガテマラの事例を通して具体的に提起された。2日間で18の発表を聞き討論するシンポは、体力的にきついものであったが、どのセッションにおいても刺激的で活発な議論が展開された。

南 真木人 山下晋司
David Haines 陳 天璽
佐々木剛二 鈴木伸枝
川上郁雄 南 真木人
庄司博史 工藤正子
MOCK, John 宮崎恒二
小野真由美 豊田美佳
XIANG Biao JEONG, Jong-Ho
山中啓子 竹沢尚一郎
参加者 小泉潤二