国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2016年3月11日(金) ~3月13日(日)
《機関研究成果公開》国際シンポジウム「無形文化遺産の継承における『オーセンティックな変更・変容』」

チラシダウンロード[PDF:2.4MB]
  • 日時:2016年3月11日(金)~3月13日(日)
  • 場所:国立民族学博物館 第4セミナー室
  • 一般公開(参加無料/要事前申込/定員60名[先着順])
  • 使用言語:英語(日本語同時通訳あり)
  • 主催:国立民族学博物館
  • 参加申込受付アドレス: heritage★idc.minpaku.ac.jp
    メール本文に氏名、所属(もしあれば)、参加希望日を明記しお申込みください。
    ※★を@に置き換えて送信ください。
 

趣旨

ヨーロッパや日本の政府は、19世紀の終わり以降、原則として形を変えないように文化財を保護する制度を整えてきた。こうした制度の根底にあるのは、「上の世代がおこなったことを維持すれば文化財の『オーセンティシティ(正銘性、真正性)』も維持できる」という考えだ。こうした考えは、とりわけ美術作品や建造物にあてはまる。ただし、形は同一でも、その構成要素はかならずしも同一でないことに注意する必要がある。たとえば、劣化しやすい素材でできた美術作品や建造物を維持するうえでは、一部を交換しながら補修したり、極端な場合は定期的に造りかえたりすることがある。
変化と持続のバランスがとりわけ問題となるのが、無形文化遺産である。無形文化遺産は、物理的な補修をつうじて維持されるのでなく、反復的な実演(工芸製作技術の場合は製作実践)をつうじて維持される。しかし、実演の条件は時代によって変わるので、形を維持するためには細部も変えていかなければならない。変えながら伝えることが必要であるために、無形文化遺産は、時とともに変化するすべての生きものになぞらえて「生きている遺産」とも呼ばれる。無形文化遺産が本来と異なる条件において実演されることは、けっしてめずらしくない。
こうした新しい条件下での実演は、新しい鑑賞者を発掘したり演目の芸術性を高めたりするなど、因習的な反復にない効果をもつことがある。また東日本大震災のときにも、地域の共同体の神事としておこなわれていた芸能を被災者たちが全国各地の他の場所で上演する例が数多くみられたが、このときには地域経済と社会関係の復旧が目的だった。このように、伝統の「モディフィケーション(修正、修飾、モード化)」は、肯定的に希求されることがある。
もちろん、変化が無秩序に陥ってはいけない。本来と異なる条件において実演がおこなわれれば、その意味が失われ、聴衆からも不評を買ってしまうかもしれない。たとえば、あらたに外部の観客を楽しませようとして神事の場所を変えてしまうと、コミュニティにもたらされる精神的効果が台なしになる。また、生活の用を満たすためのもの作りを商品化してしまえば、作品の質の低下につながるおそれがある。本来の形の痕跡すら残さないような劇的な修正をほどこしながら古式だと主張するなら、深刻な問題を招く。
ただし、オーセンティシティと変化がトレードオフ関係にあると考える必要はない。逆に、多くの伝統においては、変化こそオーセンティックな属性である。競争にもとづくイノベーションは品質維持と矛盾しないという、身近な事実を思いだしてほしい。
遺産の同一性と活力を同時代的条件に合わせて保持するために、遺産の担い手たちはなにを目ざし、何を必要としているのだろうか。無形文化遺産の現代的課題を理解できれば、その解決に研究者は資することができるのだろうか。本シンポジウムでは、担い手に寄りそいつつ調査を続けてきた研究者たちが、神事・芸能と工芸製作を題材として上記の問題を討議する。

 

プログラム

第1日(3月11日(金)) 日本の無形遺産
13:00 – 13:10 開会挨拶:須藤健一(国立民族学博物館長)
13:10 – 13:30 開会挨拶、趣旨説明:飯田卓(国立民族学博物館)
13:30 – 16:40 セッション1  日本の無形文化財
・文化保護の継承――日本の無形文化財保護制度の60年:岡田万里子(桜美林大学)
・人間国宝と重要無形文化財(工芸技術)における職人と芸術家:濱田琢司(南山大学)
(途中、休憩15分)
・文化財/文化遺産としての民俗芸能の理解の実践的転換:俵木悟(成城大学)
・職人技を極めるとは――民俗技術の観点から:小谷竜介(東北歴史博物館)
・コメント:大西秀之(同志社女子大学)
16:40 – 18:20 セッション2  現代日本の「伝統」
・指定と支援のはざまで――鵜鳥神楽が経験した東日本大震災以降:橋本裕之(追手門学院大学)
・伝統的工芸品産業における近代工業化――20世紀後半を中心に:外山徹(明治大学)
・コメント:川田牧人(成城大学)
第2日(3月12日(土)) 象徴性と芸術的創造性
10:30 – 12:10 セッション3  生きられる文化と操作される文化
・生活空間から舞台へ――非物質文化保護運動における儀礼の考察:劉正愛(中国社会科学院)
・「生活工芸」とは何だったのか:鞍田崇(明治大学)
・コメント:松井健(東京大学名誉教授)
13:40 – 15:10 セッション4  継承者の多様化
・インド、「カルベリア・ダンス」の立役者たち―――革新者グラビ・サペラとコミュニティの文化遺産:岩谷彩子(京都大学)
・プロの刺青師をアマチュアと区別するもの――現代タヒチの事例から:桑原牧子(金城学院大学)
・コメント:岩崎まさみ(北海学園大学)
15:25 – 17:05 セッション5  遺産の体系的性格
・音楽伝統の保護への介入――合衆国メリーランド州伝統局における「オーセンティシティ」と変化:ミシェル・ステファノ(メリーランド州芸術会議)
・文化の再生医学――マダガスカル、ザフィマニリの木彫り知識からの展望:飯田卓(国立民族学博物館)
・コメント:海野るみ(お茶の水女子大学)
第3日(3月13日(日)) 地域社会のための遺産、全人類のための遺産
10:30 – 12:10 セッション6  よそ者の参画
・カンボジアの無形文化遺産、クメール芸能:サムアン・サム(国立民族学博物館)
・ダヤク人の絣織り伝統の「オーセンティックな」復興における外部者の役割:クリスティナ・クレプス(オレゴン大学)
・コメント:福岡正太(国立民族学博物館)
13:40 – 15:10 セッション7  無形遺産の知的所有権
・文化における一貫性と変化――音楽の変化に関わるコミュニティの舵取り:マリリン・トラスコット(イコモス無形文化遺産委員会前委員長)
・複製か倣いか――知的財産の異なる領域における台湾原住民族工芸の真正性:野林厚志(国立民族学博物館)
・コメント:窪田幸子(神戸大学)、稲賀繁美(国際日本文化研究センター)
15:25 – 17:00 総合討論
ディスカッサント(予定):
長谷川清(文教大学)
加藤幸治(東北学院大学)
飯田卓(国立民族学博物館)