国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

スタッフの紹介

清水郁郎
清水郁郎 SHIMIZU Ikuro
****・外来研究員
専門分野
  • 建築学/建築計画・文化人類学/東南アジア、建築研究
各個研究
個人ホームページ

写真右について:
アカの葬式の一場面。霊の言葉を暗唱する老人たち。

経歴

学歴
  • 芝浦工業大学工学部建築工学科卒(1990)
  • 芝浦工大大学院建設工学専攻修士課程修了(1992)
  • 総合研究大学院大学文化科学研究科地域文化学専攻修了(2001)
職歴
  • 「さくらプロジェクト・タイ(タイ国チェンライ県)」(1993.2-1994.10)
  • 国立民族学博物館リサーチ・アシスタント(1999.6-2000.3)
  • 国立民族学博物館リサーチ・アシスタント(2000.6-2001.3)
  • 国立民族学博物館講師(中核的研究機関研究員)(2001.4-2002.3)
  • 国立民族学博物館非常勤研究員(2002.4-2004.3)
  • 国立民族学博物館外来研究員(2004.4-2006.3.31)
  • 大同工業大学建築学科助教授(2005.11-)

学位

  • 修士(工学・芝浦工大 1992)
  • 博士(文学・総研大 2001)
  • 学位論文:「北タイ・アカの家屋に関する研究 ― 家屋の形式とその変化への視点から ―」総合研究大学院大学(2001)

専門分野

建築学/建築計画
文化人類学/東南アジア、建築研究

研究のキーワード

東南アジア、タイ、北タイ、日本、建築学、建築計画学、空間研究、家の人類学

研究課題

人と住まいの相互構築

東南アジア諸社会の住まいの人類学/建築学的研究

住まいづくりの実践


ひとりひとりの性格も考え方もばらばらなのに、人びとはどうして集まって生き、ときには金太郎飴を切ったように同じかたちの家屋に暮らしていけるのか・・・、もともとそんなところに関心がありました。それで、国内外の離島で漁村や山地の農村を調査するようになったのですが、ここ数年は、北タイの山地に暮らす人びとの生活空間が社会的、空間的、時間的にどのように組織されているのかに焦点を絞って研究してきました。これからは、とくに専門的に調査・研究してきたアカの人びとと住まいのかかわりについての調査と研究を、現在的な視点を加えて継続していきます。

アカの人びとのあいだでは、住まいはつねに生活の中心にあります。ここで中心というのは、それがただ単に生活の舞台であることを意味しません。住まいは、しばしば人びとの語りの対象であり、興味の中心であり、つまりは人びとの意識と強く結びついているのです。わたしたちが一見したところ、アカの人びとの住まいは、それこそ同じようなかたちにしかみえませんし、つくりも簡素です。わたしたちが丁寧に保存された立派な民家を見たときに通常感じるほどの驚きは少ないし、モノとしての価値もあまりないように思えます。しかし、当の住まいをつむぐアカの人びとにとっては、住まいの細部にあらわれるちょっとした違いが話題になり、ときにはそれがどれほど正しいか、あるいはどれほど間違いかといった話にまで広がるのです。それに、アカの人びとがそうした住まいをつくり、維持しようとすることに注ぐ情熱は、わたしたちの住まいの見方を根底から揺さぶるものです。アカの人びとにとって、住まいへの情熱の源泉はなんなのでしょうか。どうしてそこまで住まいに固執し、住まいに縛られるのでしょうか。フィールドワークをおこないながら、その答えをかんがえていきます。

ところで、この日本という国の都市に生きるわたしたちは、なにを頼りに、だれと、どのような住まいに生きることになるのでしょうか。今後は、フィールドワークと平行して、住まいと人びとのかかわりをわたし自身の問題として幅広くかんがえていきます。

いつのまにやら、日本では、住まいは自明に存在するものになったようです。それは、住まいが商品としてのみ存在できることをあらわしているのかも知れません。特別に意識しなくても、住まいでの暮らしは成り立ちます。ましてや、住まいがなくなることなど想像できないし、する必要もありません。「家族」と呼ばれる人びとと空間を共有し、毎日普通に食事をし、夜になればふとんに入って1日が終わります。

タイの山地で暮らす人びとのことをかんがえてみましょう。彼、彼女らにとって、住まいをつくりそこに生きることは、それほど当たり前のことではありませんでした。そもそも土地が国家のものですから、寄生というかたちで山地に暮らしを展開したのでした。しかし、つねに強制退去の可能性がついてまわります。また、住まいを建設するには、その土地の所有者とされる超自然的存在に土地を使う許可を求めなければなりません。

森には人間に悪さをする霊がたくさんいるとかんがえられています。ですから、森に生えている木は、そのままでは建築材料に使えません。人間のための住まいをつくるには、人間が使えるような細工をほどこさなければなりません。そのために、いくつもの儀礼的な手段がとられるのです。住まいが建ちあがった後も、のんきに暮らしていくばかりではありません。子孫を残さなければ、せっかくつくった住まいが終わってしまうからです。かくして、子供は大切に、注意深く育てられます。そして、子孫を残すためにいろいろな方法がとられるのです。

物質として、また空間共有体としての住まいの建設は、人びとが「生きる」ことを意図してはじめられるのです。そして、住まいを維持するための注意深く、また終わりのないプロセスが続けられるのです。そうして、住まいとの日々のかかわりのなかで、人びとには積極的に世界にかかわる契機が生ずるのです。

わたしたちにだって、住まいとそのようにかかわることが不可能なはずはありません。わたしたちと住まいと世界。その関係は固定されていません。わたしたちも住まいも世界もつねに変わりつつあります。さらに、互いに影響を及ぼしあうその関係は、どれかがなくなっても成り立ちません。こうした関係こそが、わたしたちが創造的であるために重要なのです。

このかんがえを、実際の住まいをつくることにつなげていこうと思います。ややもすればただの商品でしかなくなった現在のわたしたちの住まいのあり方について、なにか新しい視点をもたらすことができれば幸いです。

所属学会

日本建築学会、日本文化人類学会

研究業績

論文
2003
「神話のなかの家屋―北タイの山地民アカとその家屋(その2)―」『日本建築学会計画系論文集』570:71-77。
2003
「タイの建築―歴史的建築と歴史のない建築―」林他編『タイを知るための60章』明石書店, pp. 290-292。
2002
「家屋空間と家屋の所有者―北タイの山地民アカとその家屋(その1)―」『日本建築学会計画系論文集』559:103-108。
2000
「山地を旅するバクチ打ち」『まほら』24:18-19。
1999
「建築のフィールドワーク―北タイ・アカの村におけるフィールドワークの経験―」村松伸他編『アジア建築研究』Inax出版, pp. 107-113。
1999
(翻訳)シャムスル・アムリ・バールディン「国家は唯一の創造者であるか」田村克己編『文化の生産』ドメス出版, pp. 113-117。
1999
「家の実測をはじめるまで―アカ族の村でのフィールドワーク体験―」栗原伸治・佐藤浩司編『フィールドワークに何がもとめられているか?―異文化理解のストラテジー―』日本建築学会建築計画委員会・比較居住文化研究シンポジウム資料集, pp. 25-48。
1998
「人と精霊の住まいのかたち」佐藤浩司編シリーズ建築人類学『住まいにいきる』学芸出版社, pp. 27-46。
1995
(共著)「人間関係の諸相と宗教観念からみたアカ族の集落空間について―アカ族の住居、集落の空間構成概念に関する研究その1―」『日本建築学会計画系論文集』472:73-82。
1994
「精霊の社の造形、竹とアニミズム―山に住むアカ族の生活のかたち」『at』96:40-47。
1991
(共著)「タイ山岳民族の住居と集落・」『建築知識』406:215-221。[担当部分「集落の生成と崩壊」(219-221)]
1991
(共著)「集落の復活祭―ミコノスの8日間―」『住宅建築』194:130-158。[担当部分「パルキアの迷宮住居」(138-139)「アギオス・パナハラ教会」(145)「復活の前に(ホーラのパン屋)」(154)「復活の直後に(漁家の食卓)」(155)]
その他
2002
「夢はラフ族の神様の使い」『世界のこども夢気球』毎日新聞10月19日夕刊
2002
「看護婦になって村人を助けたい」『世界のこども夢気球』毎日新聞9月28日夕刊
2002
「早く村に帰って仕事したい」『世界のこども夢気球』毎日新聞3月30日夕刊
調査報告
1994
(共著)「モン族の住居空間と住まい方に関する考察―タイ山岳民族の住居・集落に関する研究(5009)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』17-18。
1994
(共著)「モン族の屋敷構えと集落空間に関する考察―タイ山岳民族の住居・集落に関する研究(5008)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』15-16。
1994
(共著)「血縁組織からみたアカ族の集落空間に関する考察―タイ山岳民族の住居・集落に関する研究(5004)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』7-8。
1992
(共著)「アカ族住居の儀礼空間に関する考察―タイ山岳民族の居住形態に関する研究:その3(5012)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』23-24。
1991
(共著)「アカ族の住居空間と住まい方に関する考察―タイ山岳民族の居住形態に関する研究:その2(5015)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』29-30。
1991
(共著)「アカ族の集落形態に関する考察―タイ・山岳民族の居住形態に関する研究:その1(5014)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』27-28。
1990
(共著)「対馬・鰐浦における住様式の変容に関する研究(5012)」『日本建築学会大会学術講演梗概集』23-24。
1990
(共著)「対馬・鰐浦における集落空間に関する研究―対馬鰐浦における空間構成に関する研究:その3(5011)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』21-22。
1990
(共著)「隠居慣行とヨマ空間について―対馬鰐浦における空間構成に関する研究:その2(5010)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』19-20。
1990
(共著)「集落の構成とその変容―対馬鰐浦における空間構成に関する研究:その1(5009)―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』17-18。
学会発表
2001
「北タイ・アカの家屋に関する研究 ― 家屋の形式とその変化への視点から ―」『日本民族学会関西地区懇談会:博士論文発表会(国立民族学博物館)』。
1999
「家の実測をはじめるまで ― アカ族の村でのフィールドワーク体験 ―」『日本建築学会建築計画委員会・比較居住文化研究シンポジウム:フィールドワークに何が求められているか? ― 異文化理解のストラテジー ―(国立民族学博物館)』。
1998
「北タイ・アカ人の家屋とその継承」『アジア都市建築研究会(京都大)』。
1996
「人と精霊の住まいのかたち ― アカ族の家と集落のインプリケーション ―」『アジア建築文化誌研究会(学芸出版社)』。
1990
「集落の構成とその変容 ― 対馬鰐浦における空間構成に関する研究:その1 ―」『日本建築学会大会(広島大)』。

館外活動(大学教育、社会活動)

  • 家島町(兵庫県飾磨郡)振興計画ブレーン会議(2003.7-)
  • 建築・設計・ワークショップユニット「ドーナツホール」(2003.4-)
  • NGO「インタノン山岳民族開発教育センター計画(タイ国チェンマイ県)」評議委員兼施設計画担当(2002.2-)
  • 財団法人住宅総合研究財団「世界の住まいかた」フォーラム実行委員(2001.7-)
  • 国立民族学博物館共同研究「住まいのパースペクティブ:新しい空間の共有性に向けて」共同研究員(2001年度)

関連ページ

  • みんぱくe-news
  • 死を願う人」『月刊みんぱく』2006年3月号
  • 「熱狂的口琴ファンサイト探訪」(みんぱくe-news18号)