国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

スタッフの紹介

新免光比呂
新免光比呂SHINMEN Mitsuhiro
超域フィールド科学研究部・准教授
専門分野
  • 宗教学・東欧研究
各個研究
  • コンスタンティン・ノイカの思想とその影響
個人ホームページ

略歴

  • 東京大学大学院人文科学研究科博士課程終了。東方研究会専任研究員、横浜国立大学非常勤講師、帝京大学非常勤講師を歴任。
  • 1993年より民博。

専門分野

宗教学、東欧研究

研究のキーワード

ルーマニア、マラムレシュ、ルーマニア民族、宗教学

現在の研究課題

ファシズム運動における宗教的要因の比較研究

所属学会

東欧史研究会、宗教と社会学会

主要業績

2000
『祈りと祝祭の国 ─ ルーマニアの宗教文化』淡交社
1999
「社会主義国家ルーマニアにおける民族と宗教-民族表象の操作と民衆」『国立博物館研究報告』24巻1号 pp.1-42
1998
『比較宗教への途2 人間の社会と宗教』北樹出版(保坂俊司、頼住光子との共著)
1997
「農村の宗教対立を通してみた転換期のルーマニア社会」『博物館研究報告』22巻1号 pp.93-123
1994
『比較宗教への途1 人間の文化と宗教』北樹出版(保坂俊司、頼住光子、佐藤貢悦との共著)

経歴詳細

学歴
  • 早稲田大学政治経済学部政治学科卒(1983)
  • 東京大学大学院人文科学研究科修士課程終了(1986)
  • 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学(1992)
職歴
  • 1992年4月 帝京大学非常勤講師(~1993年3月)
  • 1992年4月 横浜国立大学非常勤講師(~1993年3月)
  • 1992年4月 東方学院研究員(~1993年3月)
  • 1993年4月 国立民族学博物館第三研究部助手(~1998年3月)
  • 1998年4月 国立民族学博物館民族社会研究部助手(~2000年3月)
  • 2000年4月 国立民族学博物館民族社会研究部助教授(~2004年3月)
  • 2000年4月 総合研究大学院大学文化科学研究科助教授併任(~現在)
  • 2004年4月 国立民族学博物館民族社会研究部准教授(~2007年3月)
  • 2007年4月 国立民族学博物館民族文化研究部准教授(~2017年3月)
  • 2017年4月 国立民族学博物館超域フィールド科学研究部准教授(~現在)
学位
  • 文学修士(東京大学大学院人文科学研究科 1986)
  • 文学博士(筑波大学大学院人文社会科学研究科 2019)

研究詳細

ルーマニアにおける宗教と政治
 本研究はルーマニアにおけるルーマニア正教会をはじめとする宗教集団と政治との関係を考察するものである。
 研究対象地域とするルーマニアにおいて特徴的なのは、民衆に作用するルーマニア正教会の圧倒的な影響力と知識人を深く絡めとった強力な民族表象である。言い方を変えると、第二次世界大戦前の王国であれ、第二次世界大戦後の社会主義体制であれ、社会体制がどのように変化しようとも、日常における慣習的な生活実践の柱として機能してきたキリスト教および知識人と民衆の実践を巻き込んできた民族表象にもとづくイデオロギーが、近代ルーマニア社会の変わらぬ顕著な傾向である。
 ルーマニア正教会の特徴は、民衆と生活感覚を共有すると同時に、民衆の欲求にこたえる責務を担っているということであり、とくに農村では村人が司祭のもつ個人的人格の影響を受ける。そこで経験される宗教は、神学的に純化されたものではなく、占いや呪いなども排除しない民衆文化のなかを生きている宗教といえる。キリスト教と呪術を同時に生きているルーマニアの民衆にとっての宗教的リアリティとは何かを問うことが研究の一つの課題である。
 他方、ルーマニア知識人をとらえてきた民族表象は、ルーマニアの歴史と深くかかわっている。古代ルーマニアに影響を与えたローマ帝国以後、遊牧民の侵入による混乱で中世前期までの歴史資料に乏しい。しかし、中世後期から近代にかけてのハプスブルク帝国、オスマン帝国からの支配下で、ギリシア・カトリック司祭によってヨーロッパとつながるローマ帝国に由来するルーマニア起源論が発見され、ルーマニア・ナショナリズムの理論的支柱となった。ルーマニア知識人たちは、こうしたヨーロッパ性と伝承と慣習からなる民衆文化をもって歴史の欠如を補完しようと努めてきた。
 ナショナリズムを活性化した近代化と西欧化は、ルーマニアにおいてもアイデンティティーをめぐる大きな問題を生み出した。近代国民国家の建設は西欧思想の洗礼をあびた知識人たちの運動からはじまったし、その後の制度構築はフランス、イタリアなどの議会政治、資本主義制度の模倣の上に行われた。いずれにせよ、近代を迎えてルーマニアは否応なく西欧的制度を導入せざるを得ず、またバルカン特有の事情として長期にわたるオスマン帝国の圧迫をはねのけるためにも、西欧志向はルーマニア人にとっての不可避の選択となった。
 だが、ヨーロッパ辺境における西欧化は、やがてルーマニア人とはなにかという精神的な危機をもたらす。政治的支配者であるオスマン帝国を文化的に否定するために対置されたヨーロッパ性も、ルーマニアの歴史文化と同一視することが困難になる。さらにルーマニアの歴史を担ってきた正教信仰は、ローマカトリック、プロテスタントを中心とするヨーロッパからはルーマニアを他者として排除する結果になる。そのなかでの自己肯定は、正教会信仰にもとづく民族の独自性という観念と結びついた戦間期の右翼急進主義的なレジオナール運動として現れたが、それがルーマニア最高レベルの知識人を飲み込んでいくなかでナチズムやファシズムの模倣的性格を示したことは、ここでもやはりヨーロッパへの追随という近代ルーマニアの宿命をみてとることができる。ルーマニア性への回帰そのものが西欧化を前提としており、それはソ連に対抗するルーマニア民族主義にのって権力を盤石なものとしたチャウシェスク大統領による個人独裁などにも、歴史的悲劇となって現れたのである。

業績詳細

著書
2005
『比較宗教への途3 人間の文化と神秘主義」北樹出版(保坂俊司、吉村均、頼住光子との共著)
2000
『祈りと祝祭の国 ─ ルーマニアの宗教文化』淡交社
1998
『比較宗教への途2 人間の社会と宗教』北樹出版(保坂俊司、頼住光子との共著)
1994
『比較宗教への途1 人間の文化と宗教』北樹出版(保坂俊司、頼住光子、佐藤貢悦との共著)
論文等
2020
「戦間期ルーマニアの知識人と歴史表象」平藤喜久子編『ファシズムと聖なるもの╱古代的なるもの』pp.170-196、札幌:北海道大学出版会
2019
(学位論文)『キリスト教・ファシズム・社会主義を「民族」とともに生きる : ルーマニア知識人と民衆の歴史的実践と「農村世界」』、博士(文学)、筑波大学
2018
「悪魔祓い騒動からレジオナール運動まで―—ルーマニア社会の変動と連続性」池澤優・藤原聖子・堀江宗正・西村明編『世俗化後のグローバル宗教事情』pp.80-101,東京:岩波書店
2014
「ルーマニアにおける二つの指導者崇拝―—コドレアヌとチャウシェスク」韓 敏編『近代社会における指導者崇拝の諸相』(国立民族学博物館調査報告127):79-95,大阪:国立民族学博物館。
2011
「謎の移動民族ヴラヒをおって―—バルカン地域研究と近代文明の意義」梅棹忠夫監修・比較文明学会関西支部編『地球時代の文明学2』pp.219-227、京都:京都通信社
2011
「ポスト社会主義期ルーマニアにおける語りと現在―—調査地で『聞き取る』ということ」小長谷有紀・後藤正憲編『社会主義的近代化の経験―—幸せの実現と疎外』pp.287-316、東京:明石書店
2010
「ナエ・ヨネスクとミルチャ・エリアーデ―1930年代のルーマニア知識人サークルとレジオナール運動―」竹沢一郎編『宗教とファシズム』、pp.101-124、東京:水声社
2007
「ルーマニア宗教事情――西欧の影響と宗教対立」ほか、六鹿茂夫編『ルーマニアを知るための60章』(エリア・スタディーズ 66)、pp.142-162ほか、東京:明石書店
2007
「周辺国家の悲哀――ルーマニアの教会合同にみる西欧化の圧力」『季刊民族学』123:pp.18-22
2006
「ルーマニアにおけるファシズム運動と知識人──レジオナール運動とフォークロア研究からみた1930年代」竹沢尚一郎編『宗教とモダニティ』pp.157-190,東京:世界思想社
2004
「聖職者と信者の宗教的実践の差異と相互関係」森明子編『ヨーロッパ人類学―近代再編の現場(フィールド)から』、東京:新曜社
2002
「旧東欧・ソ連における二つのギリシア・カトリック教会ー社会主義体制下での西欧の影響と宗教」『福音と文明化の人類学的研究』国立民族学博物館調査報告31、pp.85-95
2002
「二つの再聖化のゆくえ-ルーマニアにおける宗教復興と西欧回帰」杉本良男編『宗教と文明化』、pp.220-232、東京:ドメス出版、
1999
「社会主義国家ルーマニアにおける民族と宗教-民族表象の操作と民衆」『国立民族学博物館研究報告』24巻1号、pp.1-42
1998
「木の家はあたたかい」佐藤浩司編『住まいにいきる』pp.155-170、東京:学芸出版社
1997
「東欧における宗教とナショナリズム」中野毅他編『宗教とナショナリズム』pp.28-50、東京:世界思想社 
1997
「農村の宗教対立を通してみた転換期のルーマニア社会」『国立民族学博物館研究報告』22巻1号、pp.93-123
口頭発表等
2019
「ルーマニア近代の知識人と民衆――民族主義、正教信仰、社会主義のなかで」第497回みんぱくゼミナール(11月16日) 
2017
「歴史の欠如と民族の聖化―—ルーマニア知識人の課題と苦悩」パネル「聖と古代のファシズム」、日本宗教学会「第76回学術大会」(9月16日)
2017
「西欧化とマネーレ―—ゆらぐルーマニアのアイデンティティ」国際フォーラム『東欧演歌と東アジアのポップフォーク』(International Forum “Pop-folk genres in East Europe and East Asia: Parallel Phenomena on Both Sides of Eurasia),大阪大学21世紀懐徳堂スタジオ・広報・社会連携活動(2月15日)
2016
「アルフォンス・ミュシャの生きた東欧世界―—宗教と民族を中心として」、堺市アルフォンス・ミュシャ館(5月14日)
2014
「Towards the reflective comparison-Political and religious movements in Japan and Romania」ルーマニア・アメリカ大学ルーマニア日本研究センター、ブカレスト大学歴史学部、ルーマニアアカデミー世界経済研究所、ルーマニア日本語教師会共同開催シンポジウム「日本とルーマニア―—差異、類似、重複」(5月5日~6日)
2013
「ヨーロッパのキリスト教とファシズム―ルーマニア・レジオナール運動を中心に」第416回みんぱくゼミナール(1月19日)
2013
「Soseki Natsume and Haruki Murakami: Two Intellectuals and the Japanese Modernization」、エレヴァン教育大学(10月15日)
2013
「ヨーロッパのキリスト教とファシズム――ルーマニア・レジオナール運動を中心に」第416回みんぱくゼミナール(1 月19日)
2012
「神への祈りと喜びの舞曲―—バッハからバルトークへ」民博研究公演(9月2日) 
2012
「ヨーロッパにおけるキリスト教―—地域・民族・生活の視点から」民博公開講演会「ヨーロッパと日本の宗教ー問いなおされる救済のかたち」民博、毎日新聞社主催(3月16日)
2011
「Far East Asia and South East Europe―—地域としての極東アジアと東南欧」(日本語での発表で通訳あり、英語での質疑応答)シンポジウム「Linguistic and Cultural Identity in Japan」、ブカレスト大学日本文化研究センター(3月4日~6日)
2010
「Transhumance to Transnational Commerce: The Survival Strategy of Vlachs Living Multiple Identities in Balkan」第2回スラブ・ユーラシア研究東アジア学会発表(The 2nd East Asian Conference for Slavic Eurasian Studies, 4–5, March, Seoul, Korea)、ソウル(3月4-5日)
2009
「変わる宗教:キリスト教2000年と共産主義」平成21年度北海道大学スラブ研究センター公開講座「世紀を超えて:東欧革命後の20年を振り返る」北海道大学スラヴ研究所(5月15日)
2007
「社会主義と宗教―—旧ソ連とルーマニアの比較から」第348回「国立民族学博物館友の会」講演会(6月2日)
2005
「ヨーロッパ周縁のキリスト教芸術―—ルーマニアのイコン」「民族学への招待―—くらしのなかの芸術文化」芦谷市公民館(5月27日)
2001
「ルーマニアと日本をつなぐもの ─ マラムレシュ地方の木造文化 ─」第497回みんぱくゼミナール(11月16日)
展示活動
2018
開館40周年記念特別展「太陽の塔からみんぱくへ――70年万博収集資料」実行委員(3月8日~5月19日)
2016
展示イベント「ハチュカル――アルメニアの十字架石碑をめぐる物語」(9月29日~10月11日)
2016
ワークショップ「ハチュカル――拓本づくりでまなぶアルメニア十字架」(10月9日)
2003
地域テーマ展示「クリスマスからイースターへ ─ ヨーロッパにおけるキリスト教と民間信仰