国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ユーラシアと日本―交流とイメージ

研究期間:2004.4-2009.3 / 研究領域:人類学的歴史認識 代表者 塚田誠之(先端人類科学研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的
本研究は、ユーラシアと日本との関係史について、「交流とイメージ」を柱にすえながら、具体的には、人口移動、交易、権力システム、そして表象の4つのテーマを柱にすえて研究していく。形態は国立民族学博物館と国立歴史民俗博物館を主体とする機構内連携研究とする。国際シンポジウムを平成17年度以降毎年開催し、討議を行い成果を出版するという形態をとる。研究の最終年度に当たる平成21年度には総括のための国際シンジウムを行う。
研究方法として、民族学(文化人類学)と歴史学からの学際的研究に重点を置き、個人や集団の記憶としての伝承を掘り起こし、文字媒体・非文字媒体によるものの双方に目配りし、また諸民族の歴史認識や解釈のありかたについても民族側の視点に留意しながら進める。

研究成果の概要
第一に、本研究は、国立民族学博物館と国立歴史民俗博物館を主体とする機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」に連動する研究である。その目的にそって、ユーラシアと日本との相互交流に関する諸問題について、交流(交易、人口移動)、人口移動、権力システム、表象を共有テーマとし、既存の学問分野を超えて新しい歴史分析をおこなった。連携研究は120余名もの研究者が集結し多くの成果を挙げて注目を集めたが、この連携研究との連動について、本研究は連携研究の準備段階から終了まで6年間、研究計画の策定、毎年行われた国際シンポジウムの共催、シンポジウムの実績報告書の刊行をはじめ、外国人研究者の招へい(18・20年度)など、連携研究を支える機能を果たした。
第二に、平成22年3月20日(土)・21日(日)には、国立民族学博物館にて、機関研究「人類学的歴史認識」国際シンポジウム「東アジアの民族イメージ:前近代における認識と相互作用」(機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」と共催)を開催し、東アジアにおける中央と周縁との相互認識と相互関係について、国民国家の形成以前の時代にさかのぼって議論を行った。
第三に、笹原が中心となって民博制作映像番組「奄美大島の八月踊り」に関する上映・意見交換会を奄美(19年度)、喜界島(20年度)、鹿児島・徳之島(21年度)で実施した。隣接する地域の人々が同種の民俗芸能をどのように認識しているのかの違いを明らかにし、映像を素材とした文化領域の問題を解明した。
その他として、海外・国内で研究打ち合わせを数回行った。たとえば、海外についていえば、塚田による中国広東省における移住史に関する打ち合わせ(20年度)、笹原によるベトナムにおけるギター音楽の受容・定着・展開の過程に関する意見交換(20年度)などである。さらに、小長谷がモンゴル社会主義をめぐる政治闘争に関する証言の邦訳を行った。
全体として、研究目的にそった、多彩かつ充実した研究活動の円滑かつ迅速な進行を支える基盤として大きな役割を果たした。


研究成果公表計画及び今後の展開等
機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」については実績報告書4冊を刊行した。「奄美大島の八月踊り」に関する意見交換会については報告書を3冊刊行した。機関研究「人類学的歴史認識」国際シンポジウム「東アジアの民族イメージ:前近代における認識と相互作用」については、成果報告書を準備中である。
本研究は日本とユーラシア大陸を対象とした民族学(文化人類学)と歴史学による学際的研究の進行を支える上で大きな役割を果たしたが、民族の歴史認識・解釈の重要性がますます注視されている現在、本研究を踏まえて民族学・歴史学の学際的研究を一層深化させるような展開が要請されるであろう。

2008年度成果

■ 研究実施状況

人口移動について、平成20年12月14-24日に塚田が中国広東省に赴き、広東省西部、雷州・高州を中心としたに移住史とそれにともなう地域文化の形成について雷州市・高州市の民族宗教事務局などで打ち合わせを行った。表象について、平成20年12月4日、笹原が鹿児島県喜界島の喜界町役場コミュニティホールにおいて、同島の八月踊りの演者などの関係者を対象に、国立民族学博物館製作映像番組「奄美大島の八月踊り」(1時間17分、2007年)の上映及び意見交換会を実施した(日本学術振興会人文・社会科学振興プロジェクト研究事業の一環として開催)。その際の、番組の制作意図・解説・意見交換などの内容を掲載した報告書「『奄美大島の八月踊り』を喜界島で見る」を作成、刊行した。交流と表象について、さらに笹原が、平成21年2月5日~2月11日に、ベトナム・ハノイに赴き、ベトナム革命博物館、ベトナム民族学博物館、Vietnam Institute for Musicology、ベトナム歴史博物館を訪問し、ベトナムの民衆音楽において、欧米的影響、特に、ギター音楽がどのように受容され、定着し、その後どのように展開し、どのようなイメージを人びとに喚起するに至ったか、ベトナムの伝統的な弦楽器の演奏家や演奏技法といかなる関係をもちつつ受容・定着・展開したか意見交換・情報収集を行った。平成21年3月28-29日に国立歴史民俗博物館にて機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」班平成20年度国際シンポジウム「パフォーマンスと文化――ユーラシアと日本における交流と表象」を開催し、報告者の一人としてリチャード・ウルフ教授(ハーバード大)を招聘した。

■ 研究成果概要

本研究は、国立民族学博物館と国立歴史民俗博物館を主体とする機構内連携研究に連動する研究である。その目的はユーラシアと日本との関係史について、「交流とイメージ」を柱にすえながら、人口移動、交易、権力システム、表象の4つのテーマを柱にすえて研究していくことにある。人口移動について、塚田は中国広東省に赴き、雷州・高州で打ち合わせを行ったが、異なる系統の民族の移住によって歴史的に文化層や方言地域が形成されてきたことが明らかになり、多民族による接触交流の複雑な歴史を経てきた中国において人口移動の文化に及ぼした影響の一面を把握した。表象について、笹原が喜界島にて八月踊りの演者などの関係者を対象に、国立民族学博物館製作映像番組「奄美大島の八月踊り」の上映及び意見交換会を行い、報告書「『奄美大島の八月踊り』を喜界島で見る」を刊行した。さらに、笹原は、ベトナム・ハノイに赴き意見交換を行い、ベトナムにおけるギター音楽の受容・定着・展開の過程を把握した。この外、機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」平成19年度国際シンポジウム実績報告書『いまなぜ国民国家か──国民国家の過去・現在・未来』を刊行した。同連携研究については平成21年3月28-29日に国立歴史民俗博物館にて平成20年度国際シンポジウム「パフォーマンスと文化――ユーラシアと日本における交流と表象」を開催し、リチャード・ウルフ教授(ハーバード大)を招聘した(同氏は南インドの地域的・民俗的コミュニティにおける音楽のパフォーマンスについて報告を行った)。

■ 公表実績

報告書
●機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」平成19年度シンポジウム実績報告書
『いまなぜ国民国家か──国民国家の過去・現在・未来』(A4・148P・550部)
●報告書「『奄美大島の八月踊り』を喜界島で見る」(A4・40P・500部)

2007年度成果

■ 研究実施状況

2008年1月26-28日に、笹原が奄美大島(奄美市立奄美博物館、奄美市笠利地区、瀬戸内町古仁屋地区)へ、2007年11月に実施した連携研究寺田・笹原班研究会と民博作成ビデオ番組「奄美大島の八月踊り」上映会の報告書作成のため出向いた。笹原のほか久万田晋(沖縄県立芸術大学附属研究所教授)、辻本香子(総合研究大学院大学文化科学研究科院生)が同行した。さらに、その成果として、報告書「映像で八月踊りを記録する」(A4版51頁、500部)を刊行した。2008年3月15-16日に、塚田が、平成19年度リーダーシップ支援経費「研究成果公開プログラム」等による国際シンポジウムで招聘した中国人研究者(覃溥・李黔濱・謝沫華・呉偉峰)に同行し、学習院大学文学部史学科にて武内房司教授とシンポジウムの成果公開に関する研究打ち合わせを行った。塚田のほか長沼さやか(総合研究大学院大学文化科学研究科院生)が同行した。2008年3月27日、28日に佐々木が、東北芸術工科大学教授田口洋美他3名を招聘して、東北地方の狩猟文化の歴史的位置づけに関する研究打ち合わせを行った。

■ 研究成果概要

本研究は、国立民族学博物館と国立歴史民俗博物館を主体とする機構内連携研究に連動する研究である。その目的はユーラシアと日本との関係史について、「交流とイメージ」を柱にすえながら、人口移動、交易、権力システム、表象の4つのテーマを柱にすえて研究していくことにある。本年度は、表象の研究として笹原が「奄美大島の八月踊り」上映会の報告書作成のため出向き、報告書を作成した。表象について、塚田が西南中国の少数民族の文化資源の現状について中国側研究者と成果公開のための打ち合わせを行った。ユーラシアと日本の交流について、佐々木がユーラシア大陸東北部と日本との狩猟文化の相違について研究を行った。なお、中国の文化資源の問題は、文化の展示と解釈という表象の側面のみならず、明代に少数民族の銀製装身具への嗜好が発達したという(李報告)「創られた伝統」や、少数民族文化の多様性・多層性が諸民族が接触するなかでいかに形成されたか(謝報告)という文化交流史の側面、文化資源を国家がどう保護するか(覃報告)など本研究の多くの問題にわたっている。

■ 公表実績

報告書
●「映像で八月踊りを記録する」(A4版51頁、500部)
シンポジウム
●人間文化研究機構連携研究「ユーラシアと日本」国際シンポジウム
「いまなぜ国民国家か―国民国家の過去・現在・未来」(2008年3月1日-2日)

2006年度成果

■ 研究実施状況

本研究のコアメンバー全員が関わる機構連携研究「ユーラシアと日本:交流と表象」班の国際シンポジウム「境界の形成と認識――移動という視点」を3月3日・4日に歴博で開催した。それに塚田・佐々木・笹原が2日間とも出席した。また、そのシンポジウムにロベルト・ガルフィアス教授(カリフォルニア大学アーバイン校)を招聘した。さらに、塚田誠之教授が2月26日から28日まで歴博等へ、笹原亮二助教授を3月27日から31日まで奄美大島・沖縄へ国内出張を行った。また、昨年度に塚田教授が中国で行った報告の一部を中国語に翻訳した。

■ 研究成果概要

民博機関研究を母体の一つとする機構連携研究班が2007年3月3日・4日に国際シンポジウム「境界の形成と認識――移動という視点」を機構内公開で開催したが、そこでは「移動の原動力」「移動とアイデンティティ」という2部構成で計8本の研究報告が行われ、その後総括討論が行われ、ユーラシア、あるいはユーラシアと日本の間での人口移動とその結果形成される境界に関わる諸問題が報告・議論され、そうした問題への理解が深まった。なお、当該シンポジウムにロベルト・ガルフィアス教授(カリフォルニア大学アーバイン校)を招聘し、会場で英語の通訳をつけた。同氏は世界各地の民族音楽の調査研究で国際的に著名な研究者で、本連携研究の研究成果の面で大きな貢献をなしてきており、今回の来日を通して今後一層の成果を挙げることが期待される。このほか、2月26日から28日まで塚田教授が歴博等に赴き、ユーラシアと日本との交流史に関する打ち合わせや中国の人口移動に関する文献調査を行った。さらに、3月27日から31日まで笹原助教授が奄美大島・沖縄へ出向き、民俗芸能に関する資料収集や情報交換を行った。それら人口移動や芸能はユーラシアと日本との交流の研究に欠かせない課題であり、その課題に対する理解を深めた点で研究に進展がみられた。加えて、昨年度に塚田教授が中国で行った報告の一部を中国語に翻訳したが、その論文は中国で公表される予定であり、これを機に中国の研究機関との交流がいっそう深まることが期待される。

2005年度成果

■ 研究実施状況

4月27日、8月2日、8月31日に東京で歴博側のユーラシア・プロジェクトメンバーと会合をもち、研究体制の整備・研究内容の見直しについて討議を行った。のち10月に連携研究「日本とユーラシアの交流に関する総合的研究」のうち「交流と表象」班として正式に採用され、11月から民博側・歴博側あわせて1総括班・9研究班をもつ研究組織としてスタートした。本機関研究はその連携研究班の母体をなすものとして機能することとなった。のち当該連携研究班は合同で3月18日・19日に民博で国際シンポジウム「ユーラシアと日本:交流と表象の現状と課題」を開催した。
また、3月に塚田教授を1週間ほどの日程で中国に派遣し課題にそくし中国の人口移動に関する現地討議・現地調査を行った。
くわえて、モンゴルの社会主義時代の実態を明らかにするため、モンゴルの社会主義をめぐる政治的闘争に関する証言についてモンゴル語の邦訳を行った。

2005年度成果

■ 研究実施状況

民博機関研究を母体の一つとする機構連携研究班が2006年3月18日・19日に国際シンポジウム「ユーラシアと日本:交流と表象の現状と課題」を開催した(機構内公開)。連携研究班代表の趣意説明に続いて3部構成で計9本の研究報告が行われた。
また、3月22日から29日まで塚田教授が中国に赴き、広州の中山大学で中国の人口移動に関する意見交換を行ったほか、仏山市南海区にて少数民族の出稼ぎ労働者の調査を実施し、中国国内の人口移動の最新の状況を把握した。
さらに、「人類学的歴史認識」の課題にそくした「社会主義下での近代化経験に関する歴史人類学的研究」の一環として、モンゴルの社会主義時代の実態を明らかにするため、小長谷教授が責任者となって、モンゴルの社会主義をめぐる政治的闘争に関する証言についてモンゴル語の邦訳を行った。

2004年度成果

■ 研究実施状況

本年度は初年度ゆえ、民博と歴博のコアメンバーが4回の打ち合わせ(2004年7月29日、11月1日、12月13日、3月28・29日)を経て向こう6年間の研究計画を策定し、また2005年2月6日、国立民族学博物館で問題提起のためのプレ・シンポジウムを行なった。これらの活動を通して研究の大枠が定まった。途中から機構連携研究として扱われ、新規参入を希望する班が名乗りを挙げたが、その調整はもっか鋭意進めている。また3月28日・29日には民博と歴博のコアメンバーが打ち合わせを行うとともに、研究テーマのうち「交易」に深くかかわる歴博の企画展示を見た上で、ユーラシアと日本との交易・交流に関する諸問題を議論した。

■ 研究成果概要

ユーラシアと日本との関係史について、「交流とイメージ」を柱にすえながら、具体的には、人口移動、交易、権力システム、そして表象の4つのテーマを柱にすえて研究していくこと、国際シンポジウムを平成17年度以降毎年開催し、討議を行い成果を出版するという形態をとること、研究の最終年度に当たる平成21年度には総括のための国際シンジウムを行うなど研究計画の大枠を策定した。そして2005年2月6日には、プレ・シンポジウムを開催し、中国南部における人口移動、権力システム、表象、中国北東部における表象、日本の19世紀における権力システムと表象に関する研究発表を行い、問題点の提起をし、研究の方向性に関して討議を行なった。

■ 公表実績

プレ・シンポジウム「ユーラシアと日本:交流とイメージ」(2005年2月6日)