国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ニュー・ミュージオロジーの構築に向けての実践的研究―文化資源の活用における倫理・論理・技術

研究期間:2004.4-2008.3 / 研究領域:新しい人類科学の創造 代表者 吉田憲司(文化資源研究センター)

研究プロジェクト一覧

研究の目的
 本研究は、次代の博物館・美術館に求められる倫理・論理・技術についての総合的研究を通じて、従来の博物館学を超えた、ミュージアムをめぐる新たな学問体系の確立を目的とするものである。本研究では、民博を核としつつ、文科系・自然系の別を問わず、広く博物館の問題に関心を寄せる研究者を横断的に組織し、文化人類学、歴史学、美術史学から自然系基礎科学にいたるまでの、ミュージアムに所蔵される資料についての学と、保存科学・文化財学・教育学・博物館情報工学といった資料の利用についての学を、「人類の無形・有形の文化資源の、文化と時代を超えた共有化」という視点から総合的に再編して、ミュージアムという装置を用いた世界の認識・構築の学としての新たなミュージオロジーの創生をめざす。その作業は、これまで個別に研究が進められてきた諸科学を、ミュージアムという一点においてあらためて集約するという意義も有している。

研究成果の概要
機関研究「ニュー・ミュージオロジーの構築にむけての実践的研究」は、実践的博物館活動を通じて、ミュージアムをめぐる新たな学問体系の確立をめざすものであるが、5年におよぶ研究期間中、一貫して「博物館学集中コース」の運営を通じ、世界各地の博物館の現状と課題についての情報の収集と分析をおこなった。さらに、他のプロジェクトと連携することで、各年度に国際シンポジウムやフォーラムを実施し、理論的な考察を進めた。
とくに、平成17年度から平成19年度にかけては、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」との連携により、各年度にコロキアム=フォーラムを開催して、アフリカ諸国の研究者とともに、アフリカの文化遺産の保護・継承・表象という具体的課題に対する対応を検討し、地域の実情に根差した博物館学の在り方を考究した。本研究ではまた、これらの機会を用いて、アフリカ諸国の研究者とともに、民博のアフリカ展示の改修にむけて、現行展示の評価、改修計画の検討を進めた。この作業は、展示の対象となる文化の担い手の意見を常設のアフリカ民族誌展示に反映する、わが国では初めての試みであり、新たなミュージオロジーの核心をなすものである。
平成19年度には、大阪、東京、パリで、連続シンポジウム「文化資源という思想」を開催した。そこでは、文化資源という概念との関わりにおいて、博物館の使命と活動を原理的なレベルからを改めて問い直し、旧来の博物館の枠を超えた、文化資源の発見と活用の装置としてのミュージアム像についての展望を得ることができた。
最終年度には、民博の本館展示改修、特にアフリカ展示の改修と、平成20年度の民博特別展として実施したアジア・ヨーロッパ・ミュージアム・ネットワーク(ASEMUS)国際巡回展「Self and Other アジアとヨーロッパの肖像」において、上記の一連の活動で得られた知見を実践に移し、検証をおこなった。いずれも、本研究計画の推進と並行して準備を行ってきた事業であり、二つの展示は、本研究計画の推進と同時に成果公開の両方の意味を兼ね備えている。民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」には、運動体としての巡回展の提案、博物館と美術館の区別を乗り越える試み、大規模な借用による資料・作品の「所有」からの脱却の試み、多声的展示など、ニュー・ミュージオロジーのキー概念となるいくつもの挑戦が含まれている。
また、民博常設展「アフリカ展示」の改修も、特別展の場合と同様、ネットワーク型の博物館展示構築・運営を提言・実現したものである。これらの活動は、いずれも、ネットワーク型ミュージオロジーの提唱と実践という新たな視点を含んでおり、欧米を中心に作り上げられてきたこれまでの博物館学とは異なる、文字通りのニュー・ミュージオロジーを具体的・実践的に提示できたものと考えている。

研究成果公表計画及び今後の展開等
「実践的研究」と題した本研究においては、一連の活動が、常に研究の実践であり、同時に成果の公開であるという側面をもっている。これまでに実施した研究成果の公開を列挙すれば、以下のとおりである。
《平成16年度》
  • 国際フォーラム「ミュージアムと新たな公共空間」2004年10月12日 @国立民族学博物館
    (ASEMUS国際委員会、JICA博物館学集中コースとの連携)
  • 【出版】Steering Committee for Intensive Course on Museology (ed.)
    Co-operation:Newsletter of the Intensive Course on Museology 2004 , National Museum of Ethnology. 2005
    (上記、国際フォーラム「ミュージアムと新たな公共空間」の報告を所収、英文)
《平成17年度》
  • コロキウム「アフリカにおける文化遺産の継承―ニュー・ミュージオロジーの構築に向けての実践的研究」 2006年2月28日-3月4日 @国立民族学博物館
    (日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度-18年度)との連携)
《平成18年度》
  • コロキウム「アフリカにおける文化遺産の継承Ⅱ―ニュー・ミュージオロジーの構築に向けての実践的研究」 2007年2月28日-3月4日 @国立民族学博物館
《平成19年度》
  • 研究フォーラム「文化資源という思想―21世紀の知・文化・社会」※1 2007年11月23日-24日 @国立民族学博物館
    2007年11月25日 @東京大学(東京大学と共催)
    2007年12月20-21日 @パリ日本文化会館(人間文化研究機構と共催)
  • 総括研究フォーラム「アフリカにおける文化遺産の継承―記憶の保存と歴史の創出」 2008年2月29日-3月3日 @国立民族学博物館
    (日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度-18年度)との連携)
  • 【電子媒体】Cyber Museum of African Civilizations.
    (アフリカ諸国の博物館を結ぶ共有データベース。日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度-18年度)との連携成果)
《平成20年度》
  • 平成20年度民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」(ASEMUS国際共同巡回展) 2008年9月11日-11月25日
    (国内では、平成20年度中に、国立国際美術館、福岡アジア美術館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立近代美術館〈葉山〉へ巡回)
  • 民博本館常設展示・アフリカ展示場(2009年3月26日公開)
  • シンポジウム「博物館と大学―知の装置の連携と協働」
    2008年7月19日 @国立民族学博物館 
    (人間文化研究機構総合推進事業研究計画「大学共同利用機関における博物館」と連携)
  • 国際シンポジウム「自己の表象、他者の表象―肖像/展示の詩学と政治学」※2
    2008年9月27日-28日 @国立民族学博物館
    (人間文化研究機構総合推進事業研究計画「大学共同利用機関における博物館」と連携)
  • 【出版】吉田憲司、ブライアン・ダランズ他編/Yoshida, Kenji and Brian Durrans et.al. eds
    『アジアとヨーロッパの肖像/Self and Other: Portraits from Asia and Europe』 朝日新聞社/Asahi Shimbun 2008
    (上記、民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」の展示図録)
  • 【出版】Yoshida, Kenji and John Mack (eds)
    Preserving the Cultural Heritage of Africa. Oxford: James Currey Publishers. 2008
    (上記、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度-18年度)との連携成果。一連のシンポジウム活動の報告)
  • 【出版】人間文化研究機構・人間文化研究総合推進事業・研究計画「大学共同利用機関における博物館」
    『博物館と大学―知の装置の連携と協働 2008年シンポジウム報告書』2008
    (上記、シンポジウム「博物館と大学―知の装置の連携と協働」の報告書)
◎今後の研究成果公表計画
これまでに開催したシンポジウム、フォーラムについて、成果刊行物がまだ刊行されて いない研究フォーラム「文化資源という思想―21世紀の知・文化・社会」(※1)と、国際シンポジウム「自己の表象、他者の表象―肖像/展示の詩学と政治学」(※2)については、今後、それぞれSER,SESにおいて公刊すべく、作業を進めている。 ニュー・ミュージオロジーの実践としての民博特別展=ASEMUS国際共同巡回展「アジアとヨーロッパの肖像」については、その省察を吉田の単著として出版(岩波書店刊の予定)するほか、各分野、各開催館にまたがる共著報告書を出版する予定である。
◎今後の展開
本研究を通じて獲得された新たなミュージオロジーをめぐる知見や手法は、民博の関係各専門部会での議論を通じて、今後の本館展示改修、特別展示・企画展示、さらには収集・保存活動等、民博の博物館活動に逐次反映されていくことが期待される。ニュー・ミュージオロジーの実践的研究としてのASEMUS国際共同巡回展は、今後数年をかけてアジア、ヨーロッパを巡回する予定であり、各開催地では、展示だけでなく、表象/肖像をめぐるシンポジウムを逐次開催することとしている。こうした巡回を通じて蓄積される表象をめぐる新たな知見と経験は、巡回先での刊行物を通じて順次公刊するとともに、最終的には、全体をまとめた英文報告書を刊行すべく、シンガポールの出版社と交渉中である。
アフリカを事例としたニュー・ミュージオロジーの実践的研究は、平成21年度より4年間の予定で採択された科学研究費補助金による基盤研究(A)「物質文化を通じた新たなアフリカ像の構築―国際協働による在来知と外来知の体系的検証」を通じて、さらに展開させるとともに、その成果は、上記のアフリカ諸国の博物館を結ぶ共有データベース'Cyber Museum of African Civilizations'に隋時蓄積し共有化を図る。
2008年度成果
■ 研究実施状況
本年度は計画の最終年度であり、A文化表象論(論理)B表象関係論(倫理)C文化資源活用論(技術)の3つの研究軸の成果を総括するものとして、以下の3件のシンポジウムを実施した(1件は実施予定)。
●国際シンポジウム「自己の表象、他者の表象―肖像/展示の詩学と政治学」
2008年9月27日・28日 於:国立民族学博物館 第4セミナー室
●シンポジウム「博物館と大学―知の装置の連携と協働」
2008年7月19日 於:国立民族学博物館 第4セミナー室
●ワークショップ「日本の博物館・前史―明治初期の言葉と物」
2009年3月13日 於:国立民族学博物館 第6セミナー室(予定)
また、一連の研究成果を実践に反映した活動として、以下の2件の展示を実現した。
●平成20年度民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」(9月11日-11月25日)
同展は、国立国際美術館、福岡アジア美術館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立近代美術館へ巡回。さらにASEMUS国際共同巡回展として、平成21度以降、アジア、ヨーロッパ系5カ国へ巡回予定。
●民博本館常設展示・アフリカ展示場を全面改修・公開(2009年3月26日、予定)
2008年7月19日 於:国立民族学博物館 第4セミナー室
■ 研究成果概要
民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」(ASEMUS国際共同巡回展)は、その準備を通じて、文化資源活用の論理・倫理・技術を総合し、文字通り「新たなミュージオロジー」の構築を進めてきたものであり、本研究の到達点として位置づけられる。そこには、運動体としての巡回展の提案、博物館と美術館の区別を乗り越える試み、大規模な借用による資料・作品の「所有」からの脱却の試みなど、ニュー・ミュージオロジーのキー概念となるいくつもの挑戦が含まれていた。また、民博常設展「アフリカ展示」の改修も、特別展の場合と同様、ネットワーク型の博物館展示構築・運営を提言・実現したものであり、やはり本研究の達成と位置づけられる。
本年度に開催したシンポジウムのうち、国際シンポジウム「自己の表象、他者の表象」は、特別展「アジアとヨーロッパの肖像」の経験に基づきながら、表象の論理・倫理・技術を批判的に検討する機会となった。ワークショップ「日本の博物館・前史―明治初期の言葉と物」は、日本における博物館という装置と制度の構築期にさかのぼり、日本の博物館の問題と可能性を検討するものであり、本研究の目指すニュー・ミュージオロジーの史的位置づけという性格をもっている。そして、シンポジウム「博物館と大学―知の装置の連携と協働」は、大学と博物館の連携の事例の比較検証を通じて、大学共同利用機関である民博に求められる博物館活動について検討したものであるが、それはニュー・ミュージオロジーの実践の場としての民博の具体的なあり方の指針を示すものとなった。
一連の作業を通じて、ニュー・ミュージオロジーの具体的な姿を提示することができたと考えている。
■ 公表実績
展示
●平成20年度民博特別展「アジアとヨーロッパの肖像」(ASEMUS国際共同巡回展)2008年9月11日-11月25日
●民博本館常設展示・アフリカ展示場(2009年3月26日公開予定)
シンポジウム
●シンポジウム「博物館と大学―知の装置の連携と協働」
2008年7月19日 於:国立民族学博物館 第4セミナー室(人間文化研究機構総合推進事業研究計画「大学共同利用機関における博物館」と連携)
●国際シンポジウム「自己の表象、他者の表象―肖像/展示の詩学と政治学」
2008年9月27日・28日 於:国立民族学博物館 第4セミナー室(人間文化研究機構総合推進事業研究計画「大学共同利用機関における博物館」と連携)
出版
●吉田憲司、ブライアン・ダランズ他編集
2008『アジアとヨーロッパの肖像』朝日新聞社
2007年度成果
■ 研究実施状況
本年度はまず、「文化資源という思想―21世紀の知・文化・社会」に関する一連の研究会および研究フォーラム(開館30周年記念)を開催し、博物館の使命と活動を原理的なレベルから検討しなおす作業をおこなった。また、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」の総括共同研究・公開フォーラムと連携し、過去2年間、共同で研究を進めてきたマリ、ナイジェリア、カメルーン、ザンビア、南アフリカ、マダガスカルの計6カ国の拠点機関・協力機関の研究者を日本に招聘して、その成果の総括をおこなった。さらに、こうした研究活動の成果の応用と検証の場として、民博常設展(とくにアフリカ展示)の改修案の策定、ASEMUS国際共同巡回展(平成20年度民博特別展)「アジアとヨーロッパの肖像」の準備作業を進めた。
■ 研究成果概要
「文化資源という思想―21世紀の知・文化・社会」に関する一連の研究会および研究フォーラム(開館30周年記念)では、文化資源という概念とのかかわりにおいて博物館の活動を改めて問い直し、旧来の博物館の枠を超えた、文化資源の発見と活用の装置としてのミュージアム像についての展望を得ることができた。
一方、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」の総括共同研究・公開フォーラムでは、アフリカ全体を視野に入れた上で、各地における文化遺産の置かれた状況とその課題を明らかにすることができ、さらにその課題の克服のため、これまでに構築したアフリカ内外を結ぶ学術協力ネットワークを活用した、将来に向けた行動計画も策定するに至った。
また、今回の総括共同研究・セミナーでは、民博のアフリカ展示の改修にむけ、展示プロジェクト・チームが作りあげた原案をアフリカの研究者とともに評価・点検するという作業をおこなった。この作業は、展示の対象となる文化の担い手の意見を常設のアフリカ民族誌展示に反映する、わが国では初めての試みであり、今後の館全体の研究=博物館活動の指針を得たという点でも大きな意義をもつ。
研究活動の成果の応用と検証は、このアフリカ展示の改修案の策定ばかりでなく、ASEMUS国際共同巡回展(平成20年度民博特別展)「アジアとヨーロッパの肖像」の準備作業を通じても実施した。
これら上記の一連の活動は、いずれも、ネットワーク型ミュージオロジーの提唱と実践という新たな視点を含んでおり、欧米を中心に作り上げられてきたこれまでの博物館学とは異なる、文字通りのニュー・ミュージオロジーの構築に大きく貢献する成果と言えるものである。
■ 公表実績
研究フォーラム
●研究フォーラム「文化資源という思想―21世紀の知・文化・社会」
平成19年11月23日-24日 於・国立民族学博物館(11月25日・東京大学、12月20-21日・パリ日本文化会館は、それぞれ東京大学、人間文化研究機構の事業として実施。)
●総括共同研究・フォーラム 「アフリカにおける文化遺産の継承」
平成20年2月29日-3月3日 於・国立民族学博物館(日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業との連携)
出版
●Yoshida, Kenji and John Mack (eds) in press
Preserving the Cultural Heritage of Africa. Oxford: James Currey Publishers.(3月末日までに刊行)
電子媒体
Cyber Museum of African Civilizations.(関係者への限定で公開)
2006年度成果
■ 研究実施状況
本年度は、民博において、館内コアメンバーによるミュージオロジーをめぐる研究集会を随時実施するとともに、「博物館学集中コース」の運営を通じて、世界各地の博物館の現状と課題についての情報の収集と分析をおこなった。また、ASEMUS国際共同巡回展「アジアとヨーロッパの自己像と他者像」の準備作業を通じて、実践的に新たな博物館像の構築をすすめた。さらに、平成19年1月18日から21日にわたっては、コロキアム「アフリカにおける文化遺産の継承II―ニュー・ミュージオロジー構築に向けての実践的研究」を実施した。このコロキアムは、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」と連携し、同事業の予算を用いて、アフリカの研究者2名を招聘し、国際研究集会として実施したものである。
■ 研究成果概要
今年度は、ASEMUS国際共同巡回展「アジアとヨーロッパの自己像と他者像」の準備作業を通じ、国家や環境の壁を超えて文化遺産を共有するための具体的技術の開発をおこなった。実際の技術は、平成20年度の特別展示で公開することになる。今年度はまた、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」と連携し、アフリカの文化遺産の保護・継承・表象という具体的課題と向き合うことで、その学的体系の整備を進めた。
コロキアムでは、昨年の南アフリカ、ザンビア、カメルーン、ナイジェリアに続き、マリとマダガスカルにおける文化遺産についてその現状と課題を把握することで、結果として広くアフリカ全域を視野に入れた文化遺産と博物館の新たな関係についての展望を得ることができた。それは、ヨーロッパに起源をもつ博物館という装置を相対化し、次なる展開の端緒を見出したという点で、ニュー・ミュージオロジー構築に向けての大きな前進と評価できる。
なお、今回のコロキアムでも、昨年に引き続き、民博のアフリカ展示の改修にむけて、現行展示の評価をおこない、さらには今後の改修に向けた課題の抽出をはかった。民博の常設展示の改修は、それ自体が、新たなミュージオロジー構築の実践的研究活動そのものと位置づけられる。今回のコロキアムを通じ、アフリカ展示をひとつの具体例として、その作業を実質的に進めることができたばかりでなく、今後の館全体の研究=博物館活動の指針を得たという点でも大きな意義をもつ。
■ 公表実績
コロキアム
「アフリカにおける文化遺産の継承II―ニュー・ミュージオロジー構築に向けての実践的研究」平成18年2月28日-3月4日(関連分野の研究者への公開)
*同コロキアムでの報告論文は、上記、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度―18年度)終了時に、他の報告論文とあわせて、英文出版をすることを予定し、すでに編集作業を開始している。
出版
●Yoshida, Kenji and John Mack (eds) in press
Preserving the Cultural Heritage of Africa. Oxford: James Currey Publishers.
●Steering Committee for Intensive Course on Museology (ed.) 2007
Co-operation:Newsletter of the Intensive Course on Museology 2006, National Museum of Ethnology.
電子媒体
Cyber Museum of African Civilization.(関係者への限定で公開)
2005年度成果
■ 研究実施状況
本年度は、民博において、館内コアメンバーによるミュージオロジーをめぐる研究集会を随時実施するとともに、「博物館学集中コース」の運営を通じて、世界各地の博物館の現状と課題についての情報の収集と分析をおこなった。また、平成18年2月27日から3月4日にわたって、コロキアム「アフリカにおける文化遺産の継承―ニュー・ミュージオロジー構築に向けての実践的研究」を実施した。このコロキウムは、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」と連携し、同事業の予算を用いて、アフリカの研究者4名を招聘し、国際研究集会として実施したものである。
■ 研究成果概要
機関研究「ニュー・ミュージオロジーの構築にむけての実践的研究」は、実践的博物館活動を通じて、ミュージアムをめぐるあらたな学問体系の確立をめざすものであるが、今年度は、とくに日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」と連携し、アフリカの文化遺産の保護・継承・表象という具体的課題と向き合うことで、その学的体系の整備を進めた。
コロキアムでは、ナイジェリア、カメルーン、ザンビア、南アフリカの博物館関係者が、それぞれの国における文化遺産の管理の状況と課題について報告をおこない、それを基に、その課題の克服に向けた具体的方策を検討した。この作業を通じて、地域の実情に応じた博物館の多様なあり方を構想することができた。それは、ヨーロッパに起源をもつ博物館という装置を相対化し、新たな展開の端緒を見出したという点で、ニュー・ミュージオロジー構築に向けての大きな一歩を踏み出したものと評価できる。
なお、今回のコロキアムでは、また、民博のアフリカ展示の改修にむけて、現行展示の評価をおこない、さらには今後の改修に向けた課題の抽出をはかった。民博の常設展示の改修は、それ自体が、新たなミュージオロジー構築の実践的研究活動そのものと位置づけられる。今回のコロキアムを通じ、アフリカ展示をひとつの具体例として、その作業を進める基礎が定められたことになり、今後の館全体の研究=博物館活動の指針を得たという点でも大きな意義をもつ。
■ 公表実績
コロキアム
「アフリカにおける文化遺産の継承―ニュー・ミュージオロジー構築に向けての実践的研究」平成18年2月27日-3月4日(関連分野の研究者への公開)
*同コロキアムでの報告論文は、上記、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承」(平成17年度-18年度)終了時に、他の報告論文とあわせて、英文出版をすることを予定し、すでに編集作業を開始している。
出版
●Yoshida, Kenji and John Mack (eds) in press
Preserving the Cultural Heritage of Africa. Oxford: James Currey Publishers.
●Steering Committee for Intensive Course on Museology (ed.) 2006
Co-operation:Newsletter of the Intensive Course on Museology 2005, National Museum of Ethnology.
2004年度成果
■ 研究実施状況
本年度は、館内の研究プロジェクトメンバーのあいだで準備研究会を重ねたのち、2004年10月12日に民博において国際フォーラム「ミュージアムと新たな公共空間」を実施した。同シンポジウムには、館内のメンバーのほか、国外からの参加者として上記5名の博物館関係者が参加するとともに、当時民博で開催中の「博物館学集中コース」の参加者10名も加わり、さらに一般のオブザーバーも加えて、新たな公共空間の構築という視点から、ニュー・ミュージオロジーの構築に向けた議論を交わした。
■ 研究成果概要
今年度の活動は、国際フォーラム「ミュージアムと新たな公共空間」の開催と、その成果とりまとめを中心として推進した。同フォーラムは、ICOM(国際博物館会議)世界総会がソウルで開催されたのを機に、その参加者の一部と、同時期に民博で開催中の「博物館学集中コース」の参加者が集い、開かれた公共空間の構築に向けて、博物館・美術館がいかに貢献できるかを考究する目的で開催された。
当日は、英国のブライアン・ダランズが、自らの所属する大英博物館での経験をもとに、世界全体を対象としたワールド・ミュージアムの果たす役割について論じ、エルトリアのハイレ・ベルヘが、独立後6年という同国のナショナル・アイデンティティを築き上げるため国立博物館が果たしている役割を報告した。一方、吉田憲司は、先住民族をはじめとするマイノリティとマジョリティの共存に向けて博物館が果たせる役割について論じ、コロンビアのアナ・マリアは、地域コミュニティと結びついたコロンビア国立博物館のさまざまな活動を紹介して、コミュニティを構築する装置としての博物館の可能性を考察した。
結果的に、これらの報告を通じて、コミュニティ・レベル、民族レベル、国家レベル、世界レベルという、それぞれに異なる次元で、多様性を許容する新たな公共空間の創造に向けて、博物館・美術館が現在、実際に果たしている役割と、今後の可能性について展望することが可能となった。新たなミュージオロジー構築に向けての、重要な基礎の一つを固めることができたと考えている。
■ 公表実績
本機関研究の一環として実施した国際フォーラム「ミュージアムと新たな公共空間」は、それ自体を公開とし、博物館関係者、博物館人類学関係者や学生、一般市民のオブザーバーとしての参加も得た。
このフォーラムの成果は、博物館学集中コースで刊行している Co-operation: Newsletter of the Intensive Course on Museology 2004 に各報告(英文)を掲載し、公表した。