国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

楽器に関するフォーラム型情報ミュージアムの構築

研究期間:2016.4-2018.3/ 強化型プロジェクト(2年以内) 代表者 福岡正太

研究プロジェクト一覧

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

 このプロジェクトは、ザックスとホルンボステルによる楽器分類コードと地域・民族分類(OWC)コードを付与した楽器資料データを母体として、映像資料や音響資料などのデータを関連付けた統合的データベースを構築し、音楽関連研究機関、研究者および楽器使用者等が共同して情報を付与して知識を深めることのできる、楽器を例としたフォーラム型情報ミュージアムの構築を目的としている。楽器資料に2種のコードを付すことにより、地域・民族的視点および通文化・比較的視点の双方から諸機関や個人が所蔵する楽器資料を関連付けて、それぞれがもつ情報を有機的に共有するとともに、映像資料や音響資料など、世界の音楽についての研究が蓄積してきた異なる種類の資料を関連付けて、世界の音楽文化を総合的にとらえることを目指す。

プロジェクトの内容

(1)基礎となる楽器データの作成
 本プロジェクトで構築するシステムを利用して、館内外の専門家の協力を得て楽器資料に情報を付与するモデルケースとして、神戸市在住の立田雅彦氏所有の世界の楽器コレクションの提供を受けることとし、平成28年度に当該コレクションの主だった部分を民博に運搬した。その過程で、コレクションは当初の想定をはるかに超える規模であることが判明したため、平成29年度は、これらの楽器資料に基本的な情報を付与することに重点をおくこととする。小型の笛をはじめとする小さな楽器や楽器を演奏する人形なども多数含まれており、資料点数は1000点を超える可能性がある。1.整理番号の付与、2.写真撮影、3.資料データの作成(楽器分類番号、分類名、推定使用地域、寸法等)をおこない、民博所蔵の楽器資料データとあわせて、平成28年度に開発したデータベースシステムの基礎データとする。また、奈良市の故大西尚明氏の楽器コレクションからも70点の提供を受け、平成29年3月中に民博に楽器を運搬する予定であり、同コレクションについても同様の整理と情報の作成をおこなう。なお、両コレクションについては、基礎的なデータが付与された時点で、民博における寄贈受入提案をおこなう予定である。
(2)データベースの設計開発
 平成28年度には、民博の標本資料データベースを基に、楽器資料のためのデータベース・システムを設計開発した。このシステムでは、民博の標本資料データに加えて、楽器分類コード、分類名称等の項目が加えられ、さらにウェブ上でディスカッション等をおこなうインターフェースを備えている。平成29年度には、このシステムの運用を通じて改善点を探るとともに、民博館内で公開している音楽・芸能の映像データベース等と連携して、楽器資料と映像音響資料を関連付けることのできるシステムの設計開発をおこないたい。
(3)共同による楽器データ作成の試み
 上記(1)で触れた楽器資料について、フォーラム型情報ミュージアムのシステムを利用して、コレクション関係者と研究者等の協力を得て楽器データの充実をはかる。コレクション関係者、特に立田雅彦氏と姪の村岡のぞみ氏、および故大西尚明氏の子の大西由利子氏からは、楽器の入手経路等の情報を、また研究者からは社会・文化・音楽的背景の知識に基づく楽器に関する情報の提供を期待している。

期待される成果

 このプロジェクトで構築する楽器データベースは次のような特色をもつ。(1)楽器分類コードと地域・民族分類コードを付与することで、2つの視点から楽器資料の関連を探ることができる、(2)映像音響資料を関連付けることで、その楽器が奏でる音楽についても知ることができる、(3)異なる機関等が所蔵する楽器データを統合的に扱い、共同で情報を付与できるようにすることで、相互に情報を充実することができる。民博は日本国内において有数の楽器コレクションをもっているが、楽器学に基づく分類等がされていなかったため、民博の楽器コレクションから体系的に世界の楽器について知ることは難しかった。このプロジェクトにより、世界の音楽文化についての理解を深めるための楽器コレクションとしての意義は飛躍的に増し、他機関等が所蔵する楽器の情報の充実にも貢献することができる。また、研究機関・博物館等の間で所蔵楽器に関する情報の共有を進めることで、単独の機関では実現の難しい研究や展示等を実現することにつなげたい。

 

成果報告

2017年度成果
1. 今年度の研究実施状況

 楽器資料についてのデータを研究機関間で共有し、共同でデータの付与や修正をおこなえるようにすることを目指し、以下の作業を進めた。
(1)基礎となる楽器データの作成
 近い将来の寄贈受入を想定している2つの楽器コレクションについて、データ作成をおこなった。奈良市の故大西尚明氏のコレクション75点と神戸市の立田雅彦氏のコレクション約1,300点について、1.整理番号の付与、2.写真撮影、3.資料データの作成(楽器分類コード、分類名、現地名、推定使用地域、寸法等)をおこなっており、平成29年度中に基礎的データを完成させた。ただし、どちらのコレクションも研究者の収集によるものではなく、収集時の調査データに欠けている。このプロジェクトにより作成したシステムにより、プロジェクト終了後も専門家の協力を得て、データを充実させていく予定である。
(2)データベースの設計開発
 民博内外の複数の研究者等の協働によるデータ作成を可能とするため、オンラインでデータ入力を可能とするインターフェースを平成29年度内に開発する予定で、現在最終的な仕様をまとめた。
(3)共同による楽器データ作成の試み
 上述の大西コレクションおよび立田コレクションについて、データの充実をはかるため、収集者とそのご家族にはデータのとりまとめを依頼している。また、平成30年度秋に民博で開催を予定している南アジアの弦楽器をテーマとした企画展のデータとりまとめにもこのシステムを利用し、関係者の協力を得てデータの充実をはかる予定である。いずれも、上述(2)のインターフェースが完成した時点で、フォーラム機能を利用してネット上でのオンライン入力を開始する。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 このプロジェクトでは、民博が所蔵する楽器資料に対し、ザックスとホルンボステルによる楽器分類コードと地域・民族分類(OWC)コードを付与した楽器データベースを作成することで、楽器資料を体系的に検索できるようにした。このことにより、一定の地域や民族の楽器を網羅的に調査したり、同種の楽器の広がりを調査したりすることが容易となり、所蔵資料を音楽文化の研究に活用する可能性を大きく広げることができた。
 またフォーラム機能により、インターネット上で研究者等が協働してデータ入力をおこなうインターフェースを開発することにより、多くの研究者等の知識をデータベース上に蓄積していくことが可能となる。これは楽器の分布と関連、材質や構造、演奏法など、多様な観点からの比較研究をうながして楽器研究を一層深めていくことを可能にするとともに、展示活動や資料の保存管理に研究者等の知識を生かしていくことにもつながるだろう。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

「楽器資料のフォーラム型情報ミュージアム構築の試み」東洋音楽学会第68回大会発表、沖縄県立芸術大学当蔵キャンパス、303教室(2017.11.12)
「新世紀ミュージアム 浜松市楽器博物館」『月刊みんぱく』41(11):16-17(2017.11.1)
「楽器の分類とデータベースの作成」『民博通信』158:10-11(2017.9.29)

2016年度成果
1. 今年度の研究実施状況

 楽器資料についてのデータを研究機関間で共有し、共同でデータの付与や修正をおこなえるようにすることを目指し、以下の作業を進めた。
(1)データ共有と共同でデータの付与や修正をおこなうシステムの開発
ウェブ上でデータを共有し、登録ユーザー間で情報の交換をできるシステムの開発を進めている。平成28年度内に開発できる予定である。
(2)民博所蔵楽器のデータ作成
民博が所蔵する楽器資料の約5400点について、以前作成した楽器データベースから楽器分類コードのデータを移行し、さらに楽器学上の名称(日・英)を付与する作業を進めている。また、まだ楽器分類コードが付与されていない楽器資料約800点について、コードの付与を進める。平成28年度内に終了する予定である。
(3)関係研究機関等との連携
データの共有と共同でのデータ付与・修正のため、浜松市楽器博物館と協力関係を築いた。2019年9月に開催予定の世界博物館大会において、成果を発表することを目標として、さらに関係機関に協力を呼びかけていくこととした。
(4)寄贈受入予定の楽器資料の調査および運搬
神戸市の立田雅彦氏所有の楽器コレクション等を、関係機関間で情報を共有しながらデータ付与を進めるモデルケースとするため、寄贈受入を目標として話し合いおよび楽器の調査をおこなった。大量のコレクションであるため、民博に楽器を運搬し、フォーラム型情報ミュージアムのシステムを利用して、リスト化、データ付与等をおこなうこととした。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 楽器データの共有と共同でのデータ付与については、その実現を目指したシステムの開発を進めており、年度内に核となるシステムが開発できる予定である。共有を目標とするデータのうち民博所蔵楽器資料については、順調にデータ作成を進めている。他機関等の楽器データの共有については、楽器資料データベースを作成公開している機関が少ないこともあり、今後の課題として残っている。引き続き、情報収集、協力呼びかけをおこなっていく。共同でのデータ付与については、モデルとする楽器コレクションが当初の見込み以上に大量であるため、2年度に分けて運搬し、基本システムの稼働後2年度目の当初から着手する予定である。特定のテーマに沿って楽器データのコレクションを作成し、映像音響資料等を関連づけるシステムについては、2年度目に開発をおこなう予定である。ただし、前述の楽器コレクションの受け入れとデータ作成に、当初想定した以上の資源を割くことが必要であるため、計画の変更をおこなう可能性もある。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

 特になし