国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本民族学会附属民族学博物館(保谷民博)資料の履歴に関する研究と成果公開

研究期間:2016.4-2018.3/ 強化型プロジェクト(2年以内) 代表者 飯田卓

研究プロジェクト一覧

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

 国立民族学博物館(民博)が1975年に文部省史料館から受けいれた日本民族学会附属民族学博物館(保谷民博)旧蔵資料21,000点を、収集経緯に着目しながら分類する。収集者や寄贈者の氏名、収集のきっかけとなったエクスペディションの名称などを手がかりに資料検索ができるよう、データベースを整備し、同時に個人名やエクスペディション名についての事典的な説明を提供することで、歴史的な学術資料としての価値を高めることが目的である。
 さらには、民博のコレクションが結晶するうえでの核となった保谷民博の資料が、多彩な研究者や民間人によって集められたことを示し、フォーラム的な活動のうえに民博の前史が成りたっていたことの理解をうながす。このことは、長期的にみて、大正・昭和時代の民俗や風俗に詳しい研究者(および、フォーラム型情報ミュージアムが想定するソースコミュニティ)のデータベース活用をうながす効果ももたらす。

プロジェクトの内容

 対象となる資料群は、1910年代に渋沢敬三(1896-1963)とその仲間が集めはじめ、1920年代にはアチックミューゼアムとして知られる多彩な人びとの手によって成長したものである。このコレクションは、1937年に日本民族学会(現 日本文化人類学会、1942年~1964年は「日本民族学協会」に名称変更)附属博物館(保谷民博)に寄贈されるが、アチックミューゼアム時代と同様に、1962年まで多彩な会員の手によって成長を続けた。この資料群は、1962年から1975年まで文部省史料館で保管されてから民博に移管されたため、「旧文部省史料館資料」と呼ばれたこともあるが、コレクションが実際に成長していたのはその前の保谷民博時代(および、その前のアチックミューゼアム時代)である。
 コレクションが形成された時代は、限定されているとはいえ半世紀にわたり、集められた地域もユーラシアを中心に広範にわたる。その全貌を捕らえる手段は、これまでほとんど(通常の民博館員にも)与えられていなかった。現在のところ唯一の手がかりとなるのは、保谷民博が作成した資料管理台帳である。この台帳の記述内容と民博登録資料とを対応させる作業を、本館の近藤雅樹教授(故人)が長年にわたって整理してきた。その成果の一部は、平成29年2月になって初めて『財団法人日本民族学協会附属民族学博物館(保谷民博)旧蔵資料の研究(国立民族学博物館調査報告139)』として刊行されたが、コレクションの情報を研究利用に供するためにはなお多くの整備が必要である。
 初年度には、近藤教授の整理ファイルをもとに、資料の収集者(管理台帳では「採集者」と表現されている)や寄贈者(同じく「寄附者」と表現されている)として挙げられている人名やエクスペディション名称など(以下、「人名」と略記)をデータベース化した。第二年度は、これらの人名の情報を整理して誤記などを正し、公開に適さない私人名を表に出さないなどの加工を加えることで、コレクションに関わった人名からコレクションの性格がわかるようにする。
 また、このデータベースの人名レコードに、各人が収集した資料のリストを表示し、それをさらに標本に関わる2つのデータベースにリンク付けする。リンク先となる2つの資料データベースとは、(1)民博がすでに構築している標本資料詳細情報データベースと、(2)近藤教授が電子化したエクセル形式ファイルをもとにした保谷民博時代の管理原簿データベースである。(1)は館内限定公開となっているが、収集者名や寄贈者名を公開できればレコードごとの公開には問題がない。人名ごとにレコードの公開可否を決定し、公開可能なものを公開するだけで、これまで利用されていなかったリソースが部分的ではあるが広く利用できるようになる。また、(2)にもこれまでほとんど知られていなかった情報が数多く含まれており、民博のデータベースの情報を保管するだけでなく、潜在的に民博で発見される可能性がある資料の詳細も知ることができる。このように、人名データベースをポータルとしてより多くの標本資料情報にアクセスできるシステムを構築し、レコードごとに順次公開していくことが第二年度の作業となる。

期待される成果

 民博コレクションの核となった保谷民博旧蔵資料の全貌を一覧できるようなポータル(玄関口)が構築される。このことにより、20世紀前半における民博コレクションの成長過程が容易に把握できるようになり、研究目的で民博のデータベースを利用するための基盤が整備されることになる。
 また、21,000点にものぼる膨大なレコードの情報を充実させることを目的に、関連する研究者にアクセス権限を与え、データベース公開後にも情報を蓄積できるようになる。真の意味で参加型のデータベース構築を実現するためには、現在よりはるかに大規模な研究者チームを編成しなければならないが、その基礎的なインフラを整えることは期待できる。
 なお、もし1年間のプロジェクト延長が認められるならば、人名データベースの記述を読みやすく編集し、日本民族学発展史を知るうえでの便覧として刊行することも可能である。当初は2年計画の予算で刊行するはずだったが、必要な作業量や予算が当初の予想より多くなったため、インターネットによる公開を優先することにした。書籍刊行については別紙で述べる。

成果報告

2017年度成果
1. 今年度の研究実施状況

 5月21日(日)と12月23日(土)の2回にわたって研究会を開催し、1975年に民博が国文学研究資料館史料館(旧文部省史料館)から受けいれた保谷民博資料のデータベースを公開する準備を実質的に進めていった。昨年度には、保谷民博の資料を収集するなどのかたちで貢献した人物(団体やエクスペディションも含む)についての人名データベースと、保谷民博の資料管理原簿をもとにした資料データベースの2つを構築したが、今年度はとくに、人名データベースを全面的に更新して公開する準備をおこなった。  人名データベースの更新にあたっては、人名の正しい読みかたや生没年を確認するとともに、著作や参考文献などを整理し、事績やコレクションとの関係についても詳細に記述して、インターネットや出版物でも読める体裁に整えていった。また、これらの情報を英語でも読めるよう、翻訳などの段取りも進めていった。いっぽう、資料データベースに関しては、必要最小限の変更を加えるにとどめた。特定の人物が集めた資料は画像でも一覧できるので、英語読者であっても、一定のレベルの情報を得られるようになっている。これらのデータベースは年度末にインターネットでも利用できるよう、最後の作業を進めているところである。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 項目7.で述べるとおり、公開用のデータベースとして、人名データベース(日本語)と人名データベース(英語)、資料データベース(日本語)の3つを完成した。初年度末に構築したデータベースには、公開すると問題が生じかねない人名が含まれる場合があるため、当初は人名や資料の取捨選択をおこなって公開用データベースを構築する予定だったが、人名の検討が進んだ結果、「採集者」欄に登場するすべての人名とすべての資料を公開することにした。ただし、資料に関する記述の一部を伏字にした。この結果、人名324個人24団体を詳しく紹介するようにしたほか、その他の169個人も検索用見出しとして表示するようにし、21,310点の資料(正確には、資料管理原簿の記述件数)についての情報を公開することができた。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

 初年度(平成28年度)の報告書を書き終えた後、年度末になってから、国立民族学博物館調査報告(SER)の一冊として飯田卓・朝倉敏夫(編)『日本民族学協会附属博物館(保谷民博)旧蔵資料の研究』を刊行した。これは、以前におこなっていた研究プロジェクトからひき継いだ作業の成果でもあるが、本プロジェクトが対象としているコレクションのうち、民博に所在していながら登録されていなかった資料634点の履歴を明らかにしたものである。
 2年間のプロジェクト期間を通じて、刊行できたのは上記のみである。公開シンポジウムを開催するには時間が不足していたが、もし許されるのであれば、本プロジェクトをもう1年延長して、データベースの普及も図るようなシンポジウムも開催したいと思っている。

2016年度成果
1. 今年度の研究実施状況

 4月17日(日)、7月17日(日)、12月3日(土)の3回にわたって研究会を開催し、1975年に民博が国文学研究資料館史料館(旧文部省史料館)から受けいれた保谷民博資料のデータベースを充実し公開していく手順を話しあった。その結果、現行の標本資料詳細情報データベースを更新していくことのほか、資料収集の状況がわかるよう収集者や寄贈者の人名データベースを別途構築・公開していくことが必要だという合意を得た。
研究会では、人名データベースと資料データベースのそれぞれについて、仕様や項目立て、運用方針などを話しあった。いずれのデータベースも平成28年度中に運用を開始し、メンバーがコメントを書きこむというかたちで公開にむけての準備をおこない、平成29年度にはコメントを参照しながら公開対象となるレコードを取捨選択する方針を決定した。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 上記の研究会での話しあいにもとづいてシステム構築をおこない、まずはメンバー間でデータベースのひな型を共有して、それぞれが持つ情報をコメントとしてデータベースに書きこめるようにした。人名データベースはすでに平成28年12月に運用を開始し、コメントが蓄積されつつある。ここに書きこまれたコメントは、平成30年3月頃におこなうデータベース更新において反映される予定である。また、資料データベースは平成29年3月に運用を開始する予定である。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

飯田卓・朝倉敏夫(編)『日本民族学会附属民族学博物館(保谷民博)旧蔵資料の研究』(国立民族学博物館調査報告として刊行予定)