国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

セネガルにおける諸民族文化の映像記録を題材とする情報強化

研究期間:2020.4-2022.3 / 強化型プロジェクト(2年以内) 代表者 三島禎子

研究プロジェクト一覧

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

本館の情報プロジェクトで採択された2017年の映像資料収集において、セネガルのソニンケ民族が主体となる「文化週間」についての映像を記録した。その成果についてはビデオテーク番組4本(H30年度)やみんぱく映像民族誌(R1年度)の製作によって発表した。これらの番組のおもな目的は、主体者や運営形態などに焦点をあて「文化週間」の全体像を描くことに絞られ、限られた時間内では取り上げることができなかった映像資料が膨大に残っている。とくに20カ村でおこなわれた民族文化を紹介する演目のひとつひとつは貴重な情報をもっているにも関わらず十分な考察をするにいたらなかった。
本プロジェクトは上記の民族文化を紹介する各演目の映像資料をデータベースの土台にして、それぞれに詳細な文字情報を補足するものである。これによって、民族文化についてのより詳細な知見を得るとともに、その保全と現地への還元という目的を果たすことをねらっている。

プロジェクトの内容

データベースは20カ村でおこなわれた民族文化をテーマとする舞台の演目が基本になる。各舞台では結婚式や職人文化などをテーマにした演目の披露のみならず、伝統的な祭りにつきもののグリオ(伝統的楽師)たちの朗誦、人々の踊りをはじめ、主催側、招待側のあいさつなどが繰り広げられる。データベースでは、まず演目の内容についての正確な情報や文化的背景が追加すべき主要な項目である。そこには人々が残したいと思う民族文化や慣習、伝統などが現れている。それに加えて、さまざまな立場の主体者へのインタビュー内容、またグリオがどんなことを朗誦するのかといった音声に由来した情報と、それがどんなタイミングでおこなわれ、それに対して人々がどのように対応するかといった視覚に由来した情報がある。このような情報を複合的に補足することによって、舞台をとりまく民族文化的な背景をより深く理解することができる。
本プロジェクトの第一段階では、すでにある映像を20の演目と、インタビューや演目の前後に繰り広げられるグリオの朗誦や人びとの踊りなどに分割して、携帯端末などでも閲覧可能な適切なデータ量に加工する作業が必要である。第二段階では20件のデータをもとに情報の項目を設定し、それらについて基本的な情報の追加をおこなう。第三段階では、舞台で聞こえてくるソニンケ語、バンバラ語、フルベ語など現地語の逐語訳と欧米語と日本語への翻訳をおこなう。そのためには現地でのワークショップを開催し、それぞれの話者や歴史を語り継ぐ伝統的楽師の協力を得てデータベースを整える。
本プロジェクトは運用段階で、音声によるコメント機能を利用したい。対象社会における文化の継承者たちの多くは読み書きのできない人々である。本データベースは、人々の記憶にしかとどまらなかった情報を音声というかたちでも残すことを可能にし、利用者がそれを文字情報に転換して、より汎用性の高い情報にする手段として活用することを想定している。

期待される成果

第一に映像取材で撮影した映像資料の包括的かつ効果的な利用が可能である。それによって、現地の人々が継承したいと考えている民族文化についての深い理解を得ることができる。
第二に映像資料の現地への還元、および現地からの文字と音声によるコメント機能により、資料の保存のみならずより広い活用につながる。
第三に現地の関係者にとっての実質的な文化の保全に寄与できる。また、従来、記憶によってのみ紡がれていた民族文化の伝統や歴史を、新しい形態での継承の仕方を現地に提供することにもなる。
最後に、データベースを研究機関と現地の関係者との相互アクセス可能なフォーラムの場とすることによって、フォーラム型ミュージアムの実現に寄与できる。