国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

開発と先住民族

共同研究 代表者 岸上伸啓

研究プロジェクト一覧

目的

世界各地において各国の政府援助機関やNGOによる開発援助が実施されている。開発援助は各地の住民の生活の質を向上させる一方で、それによって被害を被っている人々もいる。この研究会では、世界各地で誰が主体となって、いかなる政策(方針)のもとに、どのような開発援助が実施されているのかについて情報を集める。そのうえで、それらの開発援助とそこに住む先住民族や少数民族の問題をとりあげ、国家の中に取り込まれた先住民族や少数民族が開発とどのようにかかわり、どのような影響を受けているかに関して、世界各地の事例に基づいて比較検討する。

研究成果

本研究会では、アフリカや北アメリカ先住民社会、南アジア・東南アジア、シベリア先住民社会の開発問題、NGOの国際協力、人権、ジェンダー、海洋資源の開発、医療協力、欧米の国際協力などをテーマとして検討を加え、次のような成果を得た。

(1)日本政府によるアフリカ開発援助には、国の外交政策のみならず明治以降に醸成された日本人のアフリカ観が強く影響しており、歴史的・社会的背景を踏まえたうえでの現状理解と評価が求められる。

(2)開発援助の国際的な流れは、貧困削減戦略文書によって大きく変わりつつある。この流れは、包括的な開発アプローチと被援助国側の構造改革を要請するとともに、援助国側の援助政策の再編と相応して、プロジェクト型からプログラム型への移行など、方法論の根本的転換を促しており、開発援助と社会科学との関係に質的な変化をもたらしている。

(3)先住民(アイヌ民族)や法律家、開発NGOの職員、国際協力機構の職員、大学や研究所に属する研究者、医療従事者の間で各回のテーマについて異なる立場からの報告、意見交換、交流が行なわれ、「開発協力」に関して多角的に検討することができた。

(4)研究者と実践家(JICAや医療従事者)との間に協力や情報交換のためのネットワーク形成に貢献することができた。

(5)先住民の開発にはさまざまな立場のアクターがさまざまな利害をもちながら関与しているので、それらのアクターが会して、開発について話し合うフォーラムの場の形成が必要であるとの結論に達した。文化人類学者は、先住民をはじめとする関係者間の仲介者や調整者としての役割を果たすことができる。

(6)欧米の先進国では開発の教育や研究、実践において文化人類学や社会学は重要な役割を果たしていることが判明した。日本の文化人類学者は先住民をめぐる開発状況をより詳細に把握し、国際協力や先住民の開発に貢献するべきだという認識が共有された。

2007年度

本年度は、研究会を5回、実施する。第5回目には、これまでの成果を総括する共同研究会を実施する。
第1回 「アジアの開発」(7月を予定)
第2回 「開発とジェンダー」(9月を予定)
第3回 「オランダの国際社会研究所と開発」(11月予定)(「国際ワークショップ:オランダの開発研究と実践」に参加)
第4回 「ラテンアメリカの開発」(12月予定)
第5回 「先住民族と開発」(1月予定)

【館内研究員】 石田慎一郎、菅野(小河原)美佐子、白川千尋、信田敏宏、南出和余
【館外研究員】 石川真由美、岩崎まさみ、大曲佳世、貝澤耕一、風間計博、柴田佳子、杉田映理、苑原俊明、滝村卓司、立川陽仁、縄田浩志、深山直子、細川弘明、真崎克彦、増田研、門司和彦、吉田睦
研究会
2007年7月7日(土)13:00~18:00 / 8日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
ミニ・シンポ 「南アジア・東南アジアの開発」
→ プログラム等詳細
2007年7月7日(土)
南出和余「開発にまきこまれる「子ども」たち―バングラデシュの事例から」
菅野美佐子「村落社会にみる「ジェンダーと開発」―北インド農村の事例から」
藤倉達郎「開発実践と社会運動の交錯点―ネパールのカマイヤ労働者解放運動」
真崎克彦「開発協力と「持続」する時空―ネパールとブータンを事例として」
子島進「開発を通してイスラーム的な価値観を考える――パキスタン・インドの事例から」
2007年7月8日(日)
 
信田敏宏「「開発」の風景―マレーシア先住民の事例」
金沢謙太郎「サラワクのプナン人を研究するということ」
玉置泰明「政策・立法から見たフィリピンの開発と先住民族」
増田和也「森林開発と先住民社会―インドネシア・リアウ州を事例として」
福武慎太郎「地域住民はNGOをどのようにみているのか?――東ティモールにおけるNGOマネジメントの経験をもとに」
2007年10月13日(土)13:00~17:30 / 14日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
2007年10月13日(土)
13:00~13:15 開会、趣旨説明 滝村卓司(JICA)
13:15~13::55 ジェンダーと開発:JICAの取組み 鈴木陽子(JICA)
13:55~14:05 質疑応答
14:05~14:45 ジェンダーと開発:NGOの取組み ―スリランカと東チモールの事例からー 井上礼子(PARC)
14:45~14:55 質疑応答
14:55~15:20 休憩
15:20~16:00 ジェンダーと開発:アカデミックのアプローチ(仮題) 倉光ミナ子(天理大学)
16:00~16:10 質疑応答
16:10~16:40 コメンテーターによるコメント 織田由紀子
16:40~17:30 総合討論 滝村卓司(JICA)
2007年10月14日(日)10:00~15:00
10:00~10:10 事務連絡、趣旨説明 滝村卓司(JICA)
10:10~10:50 「アフガニスタンにおける女性支援」 柴田裕子(PWJ)
10:50~11:00 質疑応答
11:00~11:40 "「JICAの技術協力プロジェクトにおける取り組み:アフガニスタンとネパールの事例より」" 小林花(元JICA専門家)
11:40~11:50 質疑応答
 
11:50~12:20 コメンテーターによるコメント 熊谷圭知
12:20~13:30 昼食
13:30~15:00 総括討論 滝村卓司(JICA)
2007年12月1日(土)10:35~17:00 / 2日(日)10:30~14:45(国立民族学博物館 第4セミナー室)
「オランダの社会研究所(ISS)とNGOsおよび世界銀行の国際協力」
→ プログラム等詳細
2008年1月13日(日)10:30~17:30(第4セミナー室)
10:30~(10分間程度)はじめに-ソ連/ロシアの開発とシベリア先住民(吉田睦)
10:40~11:40 吉田睦「西シベリアにおける石油・ガス開発とトナカイ牧畜民」
11:40~12:40 高倉浩樹「牧畜から狩猟への生業変化とエネルギー開発:ポスト社会主義下のヤクーチア北西部エベンキ社会と民族郡誕生をめぐって」
昼休み
13:40~14:40 小野智香子「カムチャツカ先住民の言語にみられるロシア化の影響」
14:40~15:40 佐々木史郎「極東ロシア南部における森林開発と先住民族―イマン、ビキン、ホル、アニュイのウデヘ民族の動向」
休憩
16:00~17:00 丹菊逸治「サハリン開発とニヴフ民族の現状」
17:00~17:30 全体討論
研究成果

平成19年度は、「南アジア・東南アジアの開発」、「ジェンダーと開発」、「シベリアの先住民と開発」をテーマとする共同研究会を開催するとともに、第5回国際開発協力ワークショップ「オランダの社会研究所(ISS)とNGOsおよび世界銀行の国際協力」に共同研究会のメンバーが共同開催者として参加した。これらの共同研究会では、昨年度までと同様に、開発NGOの職員、国際協力機構の職員、大学や研究所に属する研究者、先住民(アイヌ民族の参加者)の間で各回のテーマについて異なる立場からの報告や意見交換が行なわれ、「開発協力」に関して学際的かつ実践な関連から検討することができた。アジアやシベリアの先住民族の中には資源開発から恩恵を受けている少数のグループが存在する一方で、多くのグループは環境破壊など開発による被害を受けていることが判明した。また、一度は重点課題とされた「ジェンダー」の問題が、近年の開発援助では優先課題ではなくなりつつあるという問題点が開発の実務家から指摘された。さらに、オランダでは開発について学際的な教育や研究が実施されているが、その中で、文化人類学や社会学は重要な役割を果たしていることおよびオランダでは1990年代から国際NGOが決め細やかな国際協力を担うようになってきたことが判明した。これらの研究会から、日本の文化人類学者は先住民をめぐる開発状況をより詳細に把握し、国際協力や先住民の開発に貢献するべきだという認識が共有された。

2006年度

報告予定者の都合などを考慮して、当初は平成19年度に実施する予定であった内容で、研究会を5回、実施する。
第1回 「開発とNGO:日本のNGOの開発援助活動を中心に」(5月27日開催)
第2回 「北アメリカ先住民社会の開発」(6月24日~25日開催予定)
第3回 「開発と人権問題:アイヌ民族を中心に」(8月5日予定)
第4回 「医療援助と文化人類学」(10月13日)
 (長崎大学で開催される「第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会」合同大会のセッションとして共催参加)
第5回 「ノルウェーの開発援助:ベルゲン大学とノルウェー開発援助庁」(11月23日~24日を予定)
 (第5回国際開発援助ワークショップに共催者として参加)

【館内研究員】 信田敏宏、岩崎まさみ(客員)、白川千尋
【館外研究員】 青木アンヘリカ、石川真由美、石田慎一郎、大曲佳世、貝澤耕一、風間計博、菅野美佐子、柴田佳子、杉田映理、苑原俊明、滝村卓司、立川陽仁、縄田浩志、深山直子、細川弘明、真崎克彦、増田研、南出和余、門司和彦、吉田睦
研究会
2006年5月27日(土)13:00~(第5セミナー室)
「開発とNGO」
 →プログラム等詳細
滝村卓司「草の根技術協力と人間の安全保障(事例報告)」
秋吉恵「住民を信頼するということ:ブラジルアマゾン地域保健強化プロジェクト」
金丸智昭「コーヒーという接点を通して」
永岡宏昌「ケニア=ムインギ県での学校地域社会に着目したこどもと大人へのエイズ教育事業の経験から」
2006年6月24日(土)13:00~ / 25日(日)10:00~(第4セミナー室)
「北アメリカ先住民の開発」
 → プログラム等詳細
岸上伸啓「問題提起」
青柳清孝「アメリカ・インディアン保留地のカジノ」
谷本和子「ナヴァホ社会における経済開発の諸相:クリーン・エネルギーと観光開発は持続可能な発展をもたらすか」
岡庭義行「かわりゆく人々」から「自立する先住民」へ―アラスカ・チムシアンとダンカン・ソサイエティ・モデル―」
齋藤玲子「北西海岸先住民と観光―サケとトーテムポールを資源に」
伊藤敦規「日本市場を通してみるホピ・ジュエリーの現代的諸相―グローバル化するアメリカ先住民美術工芸品市場における知的財産権保護という開発に向けて―」
岸上伸啓「「カナダ・イヌイット社会における社会・経済開発―ヌナヴィク地域の事例を中心に―」
立川陽仁「カナダ太平洋沿岸におけるサケの養殖業の展開と先住民―バンクーバー島北部を事例として―」
玉山ともよ「ニューメキシコ州における先住民の被曝問題」
井上敏昭「アラスカにおける地下資源開発と先住民:石油開発をめぐるグィッチン社会の事例から」
2006年8月5日(土)13:00~(第4セミナー室)
「開発と人権」
 → プログラム等詳細
苑原俊明「開発と先住民族の人権-自由かつ事前のインフォームド・コンセントの原則-」
貝沢耕一「アイヌ民族と開発」
岩崎まさみ「先住民族と開発事業に伴う影響評価の手法について」っ
総合討論
2006年10月13日(金)9:00~(長崎市ブリックホール)
第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会
シンポジウム:「文化人類学は医療協力の役に立つのか?:医療従事者と人類学者の対話にむけて」
 → プログラム等詳細
門司和彦 大会長講演「熱帯医学と国際保健における生態人類学的アプローチ」
松園万亀雄 特別講演「文化人類学と開発援助 ― グシイの家族計画を中心に ―」
シンポジウム:「文化人類学は医療協力の役に立つのか?:医療従事者と人類学者の対話にむけて」
 座長 関雄二・尾崎敬子
 岸上伸啓・関雄二「シンポジウムの趣旨」
 報告1:井家晴子「ハイリスク妊娠/出産と人々の「異常」概念
      ― モロッコ農村部における母子保健政策と住民の葛藤 ―」
 コメント1:尾崎敬子
 報告2:杉田映理「ウガンダにおける病因論と下痢症削減対策への示唆」
 コメント2:増田研
 報告3:大橋亜由美「国際医療協力、人類学、対象地域のはざまで
      ― インドネシア・スラウェシ地域医療開発プロジェクトの事例より ―」
 コメント3:岸上伸啓
 報告4:白川千尋「医療協力における文化人類学の二つの役割?」
 コメント4:池田光穂
パネル・ディスカッション/全体討論
 座長 佐藤寛
 パネラー:白川千尋、杉田映理、井家晴子、大橋亜由美、池田光穂
2006年11月18日(土)13:00~ / 19日(日)10:00~(第6セミナー室)
「先住民族と海洋資源の開発:利用・流通・管理」
 → プログラム等詳細
2006年11月18日(土)13:00~
 研究打ち合わせと事務連絡
 岸上伸啓「総論と問題提起」
 橋村修「回遊魚資源をめぐる流通と管理―アジア、太平洋のシイラを追って」
 浜口尚「カナダ大西洋岸地域における商業アザラシ漁―その歴史と現況―」
 手塚薫「アラスカ・コディアック島の先住民による商業サケ漁」
 岩崎まさみ「北西海岸先住民社会における伝統的食文化と近年の変化」
 渡部裕「カムチャツカ先住民社会とサケ資源の分配・流通」
 谷本一之「海に開かれた北の先住民の交易と儀礼」
 大島稔「コメント」
2006年11月19日(日)10:00~(第6セミナー室)
 岸上伸啓「カナダ・イヌイット社会における海洋資源の流通と管理」
 井上敏昭「アラスカ・ユーコン川における先住民の生計漁撈」
 鹿熊信一郎「アジア太平洋島嶼域における海洋保護区と破壊的漁業」
 赤嶺淳「ナマコ資源管理に関する流通業者の役割―「ナマコ危機」打開へのこころみ」
 竹川大介「ヴァヌアツにおける伝統的資源管理システムと交換―タブーとはなにか」
 松本博之「コメント」
 参加者全員「全体討論」
2006年11月23日(木)10:30~ / 24日(金)10:00~(第4セミナー室)
「ノルウェーの開発援助:ベルゲン大学とノルウェー開発援助庁」への参加
研究成果

平成18年度は、「開発とNGO」、「北アメリカ先住民の開発」、「開発と人権」、「先住民族と海洋資源の開発」をテーマとした共同研究会を開催するとともに、「ノルウェーの開発協力」と「医療協力」に関するシンポジウムに共同研究会の一部のメンバーが参加した。これらの共同研究会やシンポジウムでは、先住民や法律家、開発NGOの職員、国際協力機構の職員、大学や研究所に属する研究者、医療従事者の間で各回のテーマについて異なる立場からの報告、意見交換、交流が行なわれ、「開発協力」に関して学際的にかつ実践との関連で検討することができた。また、この共同研究会を通して、研究者と開発の実践家との間に協力や情報交換のためのネットワークが形成しつつある。さらに先住民の開発にはさまざまな立場のアクターがさまざまな利害をもちながら関与しているので、それらのアクターが会して、開発について話し合うフォーラムの場の形成が必要であるとの結論に達した。

2005年度

【館内研究員】 信田敏宏、岩崎まさみ(客員)
【館外研究員】 青木アンヘリカ、石田慎一郎、大曲佳世、貝澤耕一、風間計博、菅野美佐子、柴田佳子、杉田映理、苑原俊明、滝村卓司、立川陽仁、縄田浩志、深山直子、細川弘明、南出和余、門司和彦、吉田睦
研究会
2005年10月8日(土)13:00~(第6セミナー室)
岸上伸啓「問題提起:開発と先住民族」
 → レジュメ [PDF]
縄田浩志・石田慎一郎「第2回共同研究会(アフリカ地域における開発)の概要について」
全員「今後の予定と意見交換」
2005年11月12日(土)10:00~/13日(日)10:00~(第4セミナー室)
「第4回国際開発援助ワークショップ」への参加による情報収集
2005年12月3日(土)13:30~ / 12月4日(日)10:30~(第4セミナー室)
 → 趣旨説明・プログラム
青木澄夫「近代日本におけるアフリカ認識:援助や研究の前提として」
花谷厚「貧困削減戦略(PRSP)体制下におけるアフリカ開発援助:わが国の対応と地方開発事業に対するインプリケーション」
若月利之「西アフリカにおける水田開発:ナイジェリア・ヌペとガーナ・アシャンテにおける経験から」
箱山富美子「ユニセフの開発援助プロジェクトの実例:スーダンとモーリタニアにおける女性支援・教育・衛生」
縄田浩志「開発援助事業に対する人類学の実践的貢献:スーダンにおける砂漠化対処プロジェクトと伝統的知識の重要性」
研究成果

本年度は、第1回目に代表者が問題提起を行い、第2回目は国際開発援助ワークショップに参加した。第3回目は「アフリカの開発援助」に関する研究会を実施し、次のような結論を得た。日本政府によるアフリカ開発援助には、国の外交政策のみならず明治以降に醸成された日本人のアフリカ観が強く影響しており、歴史的・社会的背景を踏まえたうえでの現状理解と評価が求められる。また、貧困削減戦略文書は、包括的な開発アプローチと被援助国側の構造改革を要請するとともに、援助国側の援助政策の再編と相応して、プロジェクト型からプログラム型への移行など、方法論の根本的転換を促しており、開発援助と社会科学との関係に質的な変化をもたらしている。以上の見解を踏まえたうえで、ガーナやスーダンなどの事例を検討し、開発援助における人文・社会科学の活用の可能性について検討した。アフリカの開発援助に関する研究成果は『国立民族学博物館調査報告(SER)』において平成18年度中に出版する予定である。