国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本人類学史の研究

共同研究 代表者 山路勝彦

研究プロジェクト一覧

目的

本研究は日本における人類学研究の歴史を考察することを目的にしている。明治期に坪井正五郎が「人類学会」(「東京人類学会」)を設立して以後、日本の人類学は長い歴史を持ってきた。その人類学は、戦前には帝国内の植民地を主な調査地として研究活動を行ってきた。そのため、日本の人類学はどのように植民地主義と関わってきたか、問う必要がある。戦後、人類学は大学で市民権を得たが、その人類学は戦前の人類学の成果を継承しつつ、あらたな方法論に基づいた研究もなされ、調査地も拡大した。戦前と戦後との人類学研究の連続性と悲連続性を明らかにすることは、日本人類学史を考えるうえで大切である。日本の人類学は異文化研究を志すとともに、民俗学との協力で自文化を研究する側面を持ってきた。日本人による異文化研究とともに、文化人類学からする自文化研究の意義は何か、問う必要もある。こうした多角的側面から、日本の人類学の歴史を考察するのが、本研究の目的である。

研究成果

二年半にわたる研究期間で合計13回、および一年の延長期間で2回のわたって行われた共同研究会は、その成果を出版することで終了した。その著書の構成を紹介してみたい。

第1章 日本人類学の歴史的展開 山路勝彦
第一部 植民地における人類学
第2章 台湾原住民族研究の継承と展開 宮岡真央子
第3章 植民地期朝鮮の日本人研究者の評価:今村鞆・赤松智城・秋葉隆・村山智順・善生英助 朝倉敏夫
第4章 朝鮮総督府調査資料と民族学:村山智順と秋葉隆を中心に 崔吉城
第5章 南洋庁下の民族学的研究の展開:嘱託民族学者の研究と南洋群島文化協会の活動を中心に 飯高伸五
第二部 異文化の記述と方法
第6章 近代日本人類学とアイヌ/コロボックル人種表象:坪井正五郎の人種概念の検討から 関口由彦
第7章 土方久功は<文化の果>に何を見たか 三田牧
第8章 馬渕東一と社会人類学 山路勝彦
第9章 日本人類学におけるマルクス主義の影響 中生勝美
第10章 モノを図化すること:図化技術とその教育からみた日本人類学史と植民地 角南聡一郎
第三部 戦後人類学の再建と発展
第11章 民族学から人類学へ:学問の再編と大学教育 三尾裕子
第12章 米国人人類学者の日本人研究者からの影響:一九三〇年代から一九六〇年代までの日本研究 谷口陽子
第13章 東京大学文化人類学教室とアンデス考古学調査:泉靖一を中心に 関雄二
第14章 探険と共同研究:京都大学を中心とした人類学の歴史 田中雅一
第15章 本人類学と視覚的マスメディア:大衆アカデミズムにみる民族誌的断片 飯田卓
第16章 「靖国問題」研究と文化人類学の可能性 波平恵美子
特別寄稿
杉浦健一遺稿講演集 / 解題「杉浦健一遺稿集」 堀江俊一・堀江千加子

2010年度

日本における学説史研究は、今までにも行われ、その成果も公開されてきた。しかしながら、そうした研究は「書誌学」の域をでなかった。本研究会では、こうした反省のうえに立ち、22年度において、成果公開を前提にした原稿を各自、作成し、研究会ではそのドラフトの検討を行い、全員の意見を集約しながら、まとめていきたい。この研究班は多くのメンバーを抱えているので、そのための研究会を10月、11月の2度にわたって開催したい。成果は、出版物として公開する予定である。

【館内研究員】 朝倉敏夫、飯田卓、関雄二
【館外研究員】 飯高伸五、秦兆雄、角南聡一郎、関口由彦、田中雅一、崔吉城、中生勝美、中西裕二、波平惠美子、三尾裕子、三田牧、宮岡真央子
研究会
2010年10月9日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
2010年10月10日(日)9:30~17:30(国立民族学博物館 第4演習室)
《10月9日(土)》
山路勝彦「日本人類学史の研究:展望」
宮岡真央子「台湾原住民の研究の継承と展開」
飯高伸五「南洋庁下の民族学的研究の展開」
《10月10日(日)》
角南聡一郎「モノを図化するということ」
関口由彦「近代日本人類学とアイヌ人種表象」
三尾裕子「戦後の人類学教育の幕開け」
飯田卓「メディアを通した文化人類学の普及」
中西裕二「戦後人類学と構造主義」(仮題)
2010年11月6日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
2010年11月7日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第4演習室)
《11月6日(土)》 田中雅一「京都探検大学の人類学」
波平恵美子「靖国をめぐる議論における文化人類学および民族学の可能性」
関雄二「東京大学文化人類学教室とアンデス考古学調査」
秦兆雄「満鉄調査部による中国調査」(交渉中)
《11月7日(日)》
三田牧「土方久功は<文化の果>に何を見たか」
朝倉敏夫「植民地期朝鮮の日本人研究者の評価」
山路勝彦「日本人類学史の研究に向けて」
2010年12月18日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 客員教授室)
山路勝彦、飯高伸五、関口由彦、角南聡一郎「研究成果報告書の最終的総括・点検と版下作成」
研究成果

本年度の共同研究会は3回、行われた。その開催主旨は、今までに研究会で発表してきた内容をドラフトとしてまとめ、それをもとに討論し、出版に向けて完成原稿を作成することにあった。各人の提出したドラフトは、時代的に研究史を配列すると3種にまとめられる。1、植民地における人類学、2、異文化の記述と方法、3、戦後人類学の再建と発展、である。この作業を通じて、多くの知見が整理され、かつ深められた。出版は関西学院大学出版会に依頼し、そのための版下作りが12月の研究会で行われ、原稿の細部にいたっての修正が試みられた。現在、その成果は印刷中である。

2009年度

研究会の中心活動は、構成員による研究会の開催である。平成21年度は5月、7月、10月、12月、2月に国立民族学博物館で共同研究会を開催する予定である。本年度は最終年度にあたり、報告書執筆を前提とした発表を主としたい。発表者の演題(予定)は次のとおりである。

(1)朝倉「日本人による朝鮮・韓国研究」、(2)秦「戦前日本人による中国研究」、(3)関「アンデス研究の歴史」、(4)関口「アイヌ研究史」、(5)田中「京大人類学の系譜」、(6)崔「日本人による植民地朝鮮の研究」、(7)中西「戦後日本人類学の学的位相」、(8)三尾「植民地台湾における人類学的研究」、(9)宮岡「台湾先住民研究の継承と利用」、以下、中生、飯高、波平、山路の発表が予定されている。

【館内研究員】 朝倉敏夫、飯田卓、関雄二、三田牧
【館外研究員】 飯高伸五、秦兆雄、角南聡一郎、関口由彦、田中雅一、崔吉城、中生勝美、中西裕二、波平惠美子、三尾裕子、宮岡真央子
研究会
2009年5月16日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第4演習室)
2009年5月17日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第4演習室)
飯高伸五「民族誌家としてみた野口正章:旧南洋群島におけるジャーナリズム」
椎野若菜「日本におけるアフリカ研究の始まりとその展開:国際学術研究調査関係研究者データベースを用い、科研による研究チームの系統をさぐる」
中西裕二「文化人類学と民俗学の境界の意味:1970年代から80年代を考える」
2009年7月11日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
2009年7月12日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第1演習室)
朝倉敏夫「日本人類学における韓国研究(2):植民地期日本人の研究に対する評価」
崔吉城「植民地期朝鮮における人類学史的画像・影像の分析」
山路勝彦「馬渕東一と社会人類学:台湾、インドネシアからCIE、そして沖縄へ」
2009年10月17日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
2009年10月18日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第1演習室)
田中雅一「探検と人類学:京都大学の人類学史を振り返る」
関雄二「鳥居龍蔵の南米行き」
中生勝美「マルクス主義と日本の人類学」
2009年12月12日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第1演習室)
2009年12月13日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室)
吉田禎吾「機能主義から構造主義へのシフト:1970年前後の日本人類学」(仮題)
渡辺公三「構造主義と日本の人類学」(仮題)
角南聡一郎「本山桂川の民俗図説」
2010年2月20日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
2010年2月21日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第1演習室)
関口由彦「アイヌ民族をめぐる人種・人間の表象と人類学」
波平恵美子「靖国と日本人の死生観:文化人類学と民俗学は何を提示できるか」
三田牧「土方久功のパラオ表象:日記・文学・作品・学術論文の検討から」
研究成果

本年度の共同研究会は5回にわたり、15人の演者による発表が行われた。その内容は、戦前における人類学研究を主題にした発表が多く、とくに日本の旧植民地で行われた学術調査の位置づけに重点がおかれた発表が見られた。戦後における日本の人類学は世界各地にまたがり、多彩な主題のもとで行われてきたことを反映して、発表内容も拡大し、アンデス調査、探検と学問、物質文化をめぐる諸問題、科学研究費による調査態勢、日本人の死生観など、個別の問題を扱いながら、日本の人類学の展開を視野においた発表が多かった。

今年度の研究会の目標は人類学史のおおよその展望を得ることにあった。これらの発表を整理したうえで各自は原稿を執筆し、次年度においては出版する予定である。

2008年度

研究会の中心活動は、構成員による研究会の開催である。平成20年度は6月、7月、10月、12月、2月に国立民族学博物館で共同研究会を開催する予定である。本年度は昨年度より構成員を増やし、発表内容と領域でいっそうの充実を図りたい。発表者の演題(予定)は次のとおりである。

(1)朝倉「日本人による朝鮮・韓国研究」、(2)秦「戦前日本人による中国研究」、(3)田中「京大人類学の系譜」、(4)崔「日本人による植民地朝鮮の研究」、(5)中西「戦後日本人類学の学的位相」、(6)三尾「植民地台湾における人類学的研究」、(7)宮岡「台湾先住民研究の継承と利用」、(8)関「アンデス研究の歴史」、(9)関口「アイヌ研究史」、以下、中生、飯高、波平、山路の発表が予定されている。

【館内研究員】 朝倉敏夫、飯田卓、関雄二
【館外研究員】 飯高伸五、秦兆雄、角南聡一郎、関口由彦、田中雅一、崔吉城、中生勝美、中西裕二、波平惠美子、三尾裕子、宮岡真央子
研究会
2008年6月14日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第1演習室)
秦兆雄「戦前日本人による中国調査(1)」
関雄二「日本のアンデス考古学調査50年」
2008年7月12日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
2008年7月13日(日)10:30~12:30(国立民族学博物館 第3演習室)
朝倉敏夫「日本人類学における韓国研究:韓国人からのまなざし」
崔吉城「植民地朝鮮民俗学:秋葉隆を中心に」
中西祐二「書き手と読み手:日本の人類学的実践の諸問題」
2008年10月18日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第3演習室)
2008年10月19日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第3演習室)
田中雅一「冒険と探検から見る日本の人類学」
三尾裕子「統治と学問:台北帝国大学成立以前の植民地官僚による台湾研究」
関口由彦「近代アイヌ研究史:エスニシティをめぐって」
加賀谷真梨「<ヲナリ神信仰>の系譜学」
2008年12月13日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
角南聡一郎「人類学と考古学の距離:物質文化をめぐって」
中生勝美「20世紀初頭の人類学:田代安定」
2009年2月21日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第4演習室)
谷口陽子「(家)概念をめぐる論争と人類学の親族研究」
飯高伸五「南洋庁物産陳列の活動にみる物質文化研究と実業教育」
研究成果

本年度の共同研究会は5回にわたり、13人の演者による発表が行われた。その内容は、戦前における人類学研究を主題にした発表が多く、とくに日本の旧植民地で行われた学術調査の位置づけに重点がおかれた発表が多かった。一方、戦後における日本の人類学の歴史を扱った発表もなされた。戦後の研究は世界各地にまたがり、多彩な主題のもとで行われてきたことを反映して、発表内容も拡大し、アンデス調査、探検と学問、物質文化をめぐる諸問題、そして人類学者自身の研究姿勢と位置づけなど、扱った問題は多肢にわたった。

今年度の研究会の目標は人類学史のおおよその展望を得ることにあった。これらの発表を土台にして、3年次はさらに発展させ、広範囲にかつ深く内容を掘り下げていく計画を立てている。

2007年度

平成19年度は10月、12月、3月に国立民族学博物館で共同研究会を開催する。

【館内研究員】 朝倉敏夫、飯田卓
【館外研究員】 飯高伸五、秦兆雄、角南聡一郎、田中雅一、崔吉城、中生勝美、中西裕二、波平惠美子、三尾裕子、宮岡真央子
研究会
2007年10月20日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
2007年10月21日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第3演習室)
山路、中西、宮岡、崔「研究会の基本構想」
中生「帝国日本の植民地と人類学」
2007年12月8日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
飯高伸五「日本統治下南洋群島の学術調査」
波平恵美子「民俗学・宗教学・文化人類学における民間信仰の動向:1950年以降」
2007年12月9日(日)10:00~12:30(国立民族学博物館 第2演習室)
山路勝彦「博覧会と人類学、人類学者:大正ロマンの果て」
2008年3月8日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
角南「考古学者による民族・民俗調査」
飯田「兵站術としての学知:今西錦司」
研究成果

研究会初日の談話会を除いて、本年度は6人の研究発表が行われた。その内容は、戦前における人類学研究の動向と戦後の展開に関わるものであった。戦前の研究を概観した発表では、植民地統治と人類学研究との関連が中心であった。戦後の研究を概観した発表では、メディアや企業との関連が話題とされた。このほか、民俗学、考古学などとの関連で人類学研究史が取り上げられ、幅広い観点からの議論がなされた。これらの発表から、今までの人類学史の大まかな流れが整理され、政治と学問の関係など、研究を遂行するうえでの基本的な姿勢について問題点が指摘された。

これらの発表を土台にして、2年次はさらに広範囲に、かつ深く内容を掘り下げていく必要性が確認された。