国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

チベット仏教古派及びポン教の護符に関する記述研究

研究期間:2015.10-2019.3 代表者 長野泰彦

研究プロジェクト一覧

キーワード

チベット仏教古派、ポン教、護符

目的

1979年に国立民族学博物館は「チベット仏画コレクション」を購入した。その内容は実は仏画ではなく、千点を超すチベット仏教古派及びポン教の護符とそれを刷るための版木である。チベット仏教とポン教は独自の教義・哲学・論理体系を作り上げ、東洋人の思惟方法を語る上で主要な柱の一つになっている一方で、民間信仰をも貪欲に受け入れ、独特の「行」を発展させてきた。チベットの精神文化基層においては、超越的な原理と世俗的な経済原理とが絡み合っており、その二つを有機的に結びつけるための仕掛けとして「呪力観ないし呪物」が働いていると思われる。仏教やポン教の大蔵経論部の一定のポーションが「呪法」や「脱呪法」に割かれているのはそのことと密接な関連がある。護符はそこに機能する呪物の身近なモノの一つである。
我々は、チベットに広く行われている護符に注目し、一般の人々の目線に立って、それらの内容・意味・用途の記述、文献学的裏付け、護符の加持・聖化(パワーの付与)に関する儀礼、その経済的仕組み、チベット人でない人々を含む民衆の間での現代的意味などを様々の角度から調査研究し、護符というモノを通じてチベットの宗教実践の有り様と宗教文化基層の一端を明らかにすることを目標としているが、本共同研究ではその第一歩として民博が蔵する護符の図像とそこに書かれるマントラを含む文を記述・解析することを試みたい。

研究成果

① 本標本資料には購入時に売り主が提供したデータがある。それは国立民族学博物館の旧「情報カード」プロジェクトによって整理が続けられており、館内の関係者のみが館内で閲覧できる状態になっている。このデータは購入当時の状況を知る上ではある程度の意味があるが、図像の内容に関する記述(主尊、用途、使用法、など)はなく、付随する写真データも精細度が極端に低いため、研究上も一般公衆への公開という観点からも公表できる状況にない。このような状況に鑑み、上記の共同研究会ではあらためてタイトル(標本名)、ジャンル、図像の概説(主尊、脇侍などを含む)、用途・使用法、書かれている文字列の翻刻、文献学的根拠、レファランス、等を記述し直した。このことにより、国立民族学博物館の持つ資料が館外の研究者の共同利用に供せられるとともに、一般公衆の閲覧にも耐えうるものとなる。
② このような状況に鑑み、全研究期間を通じて上記の記述を充実させるとともに、同定の根拠となる真言やマントラ(その源流であるヤントラを含む)の特定と、Douglas、Sukorupski、田中公明などの先行研究及び関連する資料との対応関係を精査した。
③ 共同研究国際展開プロジェクトの予算を得て、2018年11月初旬に「行」を日常的に行っているニンマ派学僧NorbuTsering 師をネパールから招聘し、各共同研究員が記述上困難であった図像に関して共同で解明に当たった。また、幾つかの護符を実際に作成する加持のプロセスを再現してもらい、映像に記録した。

2018年度

(1) 前年度に引き続き、「チベット仏画コレクション」を図像と機能の観点からカテゴリー別に整理し、N. Douglas:Tibetan Tantric charms and amuletsとの異同を検証しつつ、各標本の記述を充実させる。
(2) 図像解析、文の解読、文献の裏付けの3班が小人数で記述作業を行う。作業部会を3回予定している。
(3) 上記の成果をDBとしてとりまとめる準備を行う。

【館内研究員】 三尾稔
【館外研究員】 大羽恵美、川﨑一洋、菊谷竜太、倉西憲一、スダン・シャキャ、立川武蔵、津曲真一、村上大輔、森雅秀、脇嶋孝彦
研究会
2018年6月2日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の記述研究
2018年10月6日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
護符の記述研究
2018年11月1日(木)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
ニンマ派学僧との護符の共同研究
2018年11月2日(金)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
ニンマ派学僧との護符の共同研究
2018年11月3日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
ニンマ派学僧との護符の共同研究
2018年11月4日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
ニンマ派学僧との護符の共同研究
2018年11月5日(月)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
ニンマ派学僧との護符の共同研究
2019年1月11日(金)12:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
共同研究成果発信に向けての検討
2019年2月11日(月)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
成果刊行の打ち合わせ
研究成果

1)前年度に引き続き、図像資料の記述の精緻化、特に同定の根拠となる真言やマントラ(その源流であるヤントラを含む)の特定と、Douglas、Sukorupski、田中公明などの先行研究及び関連する資料との対応関係を精査した。
2)共同研究国際展開プロジェクトの予算を得て、2018年11月初旬に「行」を日常的に行っているニンマ派学僧NorbuTsering 師をネパールから招聘し、各共同研究員が記述上困難であった図像に関して共同で解明に当たった。また、幾つかの護符を実際に作成する加持のプロセスを再現してもらい、映像に記録した。
3)成果公表の手段として最重要と考える本資料のデータベースにつき、Forum型データベース作成のための情報プロジェクトを申請し、内定を得た。本年度中に作業が終わり、年度内公表を目指している。 4)成果公表の2番目として、各共同研究員による個別資料に関する論考を1冊にまとめる準備に着手した。2019年度中に商業出版により上梓する。

2017年度

(1) 図像と機能の観点からカテゴリー別に整理し、N. Douglas:Tibetan Tantric charms and amuletsとの異同を検証する。
(2) 図像解析、文の解読、文献の裏付けの記述作業を行う。新メンバーを含む7名程度の作業会をのべ4回予定している。

【館内研究員】 三尾稔
【館外研究員】 大羽恵美、川﨑一洋、菊谷竜太、倉西憲一、スダン・シャキャ、立川武蔵、津曲真一、村上大輔、森雅秀、脇嶋孝彦
研究会
2017年6月25日(日)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の同定・記述作業
2017年8月9日(水)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の同定・記述作業
2017年10月21日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
護符の同定・記述作業
2017年11月23日(木・祝)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
成果とりまとめの打ち合わせ
2018年1月26日(金)10:00~16:00(国立民族学博物館 第2演習室)
研究成果とりまとめの打合せ
2018年2月17日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
護符の記述研究
2018年2月24日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の記述研究
研究成果

①標本資料の記述を引き続き行い、宗教図像の内容、主尊、用途などを特定した。
②N. DouglasのTibetan Tantric Charms and Amulets に掲げられている図像との異同を確認し、そこでの記述の不備を補った。
③本標本資料のデータベース作成の準備に着手した。

2016年度

(1)27年度に引き続き、「チベット仏画コレクション」を図像と機能の観点からカテゴリー別に整理し、N. Douglas:Tibetan Tantric charms and amuletsとの異同を検証する。
(2)図像解析、文の解読、文献の裏付けの3班が小人数で記述作業を行う。数名規模の作業部会を3回予定している。

【館内研究員】 三尾稔
【館外研究員】 大川謙作、小西賢吾、小松和彦、大羽恵美、武内紹人、立川武蔵、津曲真一、那須真裕美、別所裕介、三宅伸一郎、村上大輔、森雅秀、脇嶋孝彦
研究会
2016年5月21日(土)9:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
護符の同定・記述作業
2016年7月13日(水)9:00~16:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の同定・記述作業
2016年8月24日(水)9:00~16:00(国立民族学博物館 第1演習室)
護符の同定・記述作業
2016年12月3日(水)10:00~16:00(国立民族学博物館 第2演習室)
護符の同定・記述作業
2017年1月29日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
護符の同定・記述作業
2017年2月9日(木)9:30~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
研究内容「ポン教護符の記述作業」
研究成果

①護符の記述作業及びその大蔵経論部などとの同定作業を、仏教文献班とポン教班に分けて引き続き行った。
②ポン教関係の護符については、他の財源による調査の機会を利用して、カトマンズのポン教寺院において、本資料の原収集地サムリン出身のラマについてフィールド調査を行った。

2015年度

(1)2015年秋から2016年3月まで、本館の「チベット仏画コレクション」を図像と機能の観点からカテゴリー別に整理し、N. Douglas:Tibetan Tantric charms and amuletsとの異同を検証する。
(2)同時に図像解析、文の解読、文献の裏付けの3班が小人数で記述作業を行う。具体的な共同研究会は下記の予定で行う。
 11月12日、13日(国立民族学博物館)
 12月7日、8日(国立民族学博物館)
 2月1日、2日(国立民族学博物館)

【館内研究員】 立川武蔵、三尾稔
【館外研究員】 大川謙作、大羽恵美、小西賢吾、小松和彦、武内紹人、津曲真一、那須真裕美、別所裕介、三宅伸一郎、村上大輔、森雅秀、脇嶋孝彦
研究会
2015年10月10日(土)11:00~17:00(国立民族学博物館 収蔵庫展示準備室)
護符の同定・記述作業
2015年10月11日(日)9:00~16:00(国立民族学博物館 収蔵庫展示準備室)
護符の同定・記述作業
2016年1月9日(土)9:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
護符の同定・記述作業
2016年1月10日(日)9:00~16:00(国立民族学博物館 第4演習室)
護符の同定・記述作業
2016年2月18日(木)9:00~17:00(国立民族学博物館 収蔵庫展示準備室)
護符・白描図像の記述作業
2016年2月19日(金)9:00~16:00(国立民族学博物館 収蔵庫展示準備室)
護符・白描図像の記述作業
研究成果

① 護符及び白描による尊像図がチベット宗教のどの宗派に関わるものであるかを検討し、用途とともにカテゴリー化を図った。
② N. Douglas: Tibetan Tantric charms and amuletsとの異同を検証した。
③ 本館で既に公開されている標本資料情報カードの記述を検証し、記述の問題点を抽出した。