国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

物質文化から見るアフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略に関する比較研究

研究期間:2016.10-2020.3 代表者 縄田浩志

研究プロジェクト一覧

キーワード

物質文化、沙漠社会、移動戦略

目的

本研究では、アフロ・ユーラシア乾燥地全域を対象としつつ、とりわけサハラ沙漠、ナイル河岸、紅海沿岸、アラビア半島、イランに位置する5つの異なるオアシスにおける生活の持続と変容について、物質文化に焦点をあてて検証することにより、沙漠社会の移動戦略の比較研究を推進する。注目する物質文化は、(1)ラクダと船に関わるモノ(陸域と海域の連続性)、(2)飲料と食料に関わるモノ(食品保存と運搬性)、(3)衣装と住居に関わるモノ(熱帯と温帯・寒帯の対称性)である。これらの物質文化の検討をもとに、人類の進化と適応、社会組織の可変性と開放性、物質加工の技術と担い手の交流という3つの観点から沙漠社会の移動戦略を解明する。並行して、片倉もとこ(文化人類学者/地理学者)によるアラビア半島に関する現地調査資料(1968-2008)、小堀巌(地理学者)によるアルジェリア・サハラ沙漠に関する現地調査資料(1968-2010)といったおよそ半世紀前に記録・収集された学術資料を活用して、生活空間・物質文化・移動戦略の関係性とその変化についても検証していく。

研究成果

初年度2016年度には、物質文化の中から、沙漠に接する海域に関わるモノとして船と黒サンゴそして水の利用に焦点をあて「陸域と海域の連続性」について行った議論を皮切りに、2年度目2017年度には、飲料と食料に関わるモノ、衣装と住居に関わるモノに焦点をあてて、「食品保存、運搬性、移動戦略」「技術の継承、職人の移動、モノの交流」「日寒暖差、日陰、女性の生活」について議論を行った。3年度目2018年度には、ベランダとベール、衣装と住居に関わるモノに焦点をあてて、アラビア半島のオアシスを舞台とした事例研究をもとに議論を行い、最終年度2019年度は、対象としてきた物質文化について、アラビア半島とマグレブ、イラン地域とを比較することにより、各地域の物質文化とオアシスの特質を「人類の進化と適応」、「社会組織の可変性と開放性」、「物質加工の技術と担い手の交流」という3つの観点から再定置した。このようなプロセスを通じて、中心テーマ「物質文化から見るアフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略」に関する議論を深化することができた。その議論をベースとして「沙漠への適応と生活世界の変容:文理共創的視点から考える現代中東地域研究」と題して、よい大きな枠組みにおける研究会を組織した。 その一方、初年度から、国立民族学博物館の標本資料目録にある所蔵品を本館バックヤードにおいて研究メンバー全員で実見しながら、片倉もとこによるアラビア半島の現地調査資料の活用について検討を開始し、2~3年度目には広く中東地域全般の民博所蔵資料について検討し、およそ半世紀前に記録・収集された学術資料を活用して、生活空間・物質文化・移動戦略の関係性とその変化について検証していった。 主な研究成果は、以下の3点にまとめられる。(1)本研究会の成果をもととして、企画展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年:「みられる私」より「みる私」」(2019年6月6日~9月10日)また同巡回展(横浜ユーラシア文化館、2019年10月5日~12月22日)を開催した。(2)本研究会の主要な成果として書籍『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年:「みられる私」より「みる私」』(河出書房新社、縄田浩志編、2019年6月6日)を出版した。(3)本研究会メンバーが中心的役割を担って、国際シンポジウム「サウジアラビアと日本をつなぐ文化交流のこれから」(横浜情文ホール、2019年11月17日)を開催した。

2019年度

最終年度4年度は、以下のような物質文化を対象として、中心研究テーマごとに議論を深化させていく。また、片倉もとこ収集資料の実見に基づき本研究会の成果発表の一環として開催する企画展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年」(2019年6月6日~9月10日)また同巡回展(横浜ユーラシア文化館、2019年10月5日~12月22日)の開催期間中に合わせて、特別講師の参加も経て、まとめとなる研究会を実施していく。
◇研究会/対象物質文化/中心研究テーマ
・H31第1回/マグレブ地域との比較/オアシス農業の形態、技術交流
・H31第2回/イラン・中央アジアとの比較/熱帯と温帯・寒帯の対称性
・H31第3回/アラビア半島の特質/物質文化全般、移動戦略

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 石山俊、遠藤仁、片倉邦雄、河田尚子、郡司みさお、児玉香菜子、坂田隆、中村亮、縄田浩志、西本真一、原隆一、藤本悠子、古澤文、渡邊三津子
研究会
2019年7月20日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
石山俊(国立民族学博物館)「サハラ・オアシスにおけるナツメヤシ灌漑農業の現代的変容」
質疑応答
企画展示内容見学、展示ギャラリートーク:縄田ほか
縄田浩志(秋田大学)「モロッコの自然環境、農業、物質文化:ナイル河岸、アラビア半島との比較の視点から」
コメント:齋藤剛(神戸大学)
質疑応答
2019年7月21日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第1演習室)
西川優花(大阪大学大学院)「イラン・ザーヤンデルード下流域における河川の重層的利用と生業の弾力性」
コメント:原隆一(大東文化大学)
質疑応答
賀川恵理香(京都大学大学院)「現代パキスタンにおけるヴェール着用実践:都市部の女子大生を事例として」
コメント:竹田多麻子(横浜ユーラシア文化館)
総合討論「土地利用と物質文化の地域間比較:マグレブ、アラビア半島、イラン」
打ち合わせ:研究成果のまとめについて
2019年11月17日(日)12:45~17:00(横浜情報文化センター情文ホール)
サウジアラビアの歴史文化遺産と観光資源
サウジアラビアの歴史文化遺産の新たな価値を求めて:日サ合同調査隊の取り組み
2020年1月25日(土)13:30~17:30(国立民族学博物館 第4演習室)
縄田浩志(秋田大学)「アフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略」
質疑応答
坂田隆(石巻専修大学)「ヒトは暑さに強いか:ヒトの暑熱対応と水消費」
コメント:佐藤 麻理絵(京都大学)
質疑応答
2020年1月26日(日)10:00~15:30(国立民族学博物館 第4演習室)
西尾哲夫(国立民族学博物館)・竹田多麻子(横浜ユーラシア文化館)・藤本悠子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)・縄田浩志「企画展示「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年」に対する一般来館者の反応」
コメント:原 隆一(大東文化大学)
総合討論「物質文化から見るアフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略」
打ち合わせ:学会発表準備(中東学会、文化人類学会、ロンドン国際会議)、成果出版(沙漠研究、中東学会年報、国立民族学博物館調査報告)ほか、研究成果のまとめについて
研究成果

最終年度4年度は、対象としてきた物質文化について、アラビア半島とマグレブ、イラン地域とを比較することにより、各地域の物質文化の特質を、人類の進化と適応、社会組織の可変性と開放性、物質加工の技術と担い手の交流という3つの観点から再定置した。その上で、中心テーマ「物質文化から見るアフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略」に関する議論を深化させていった。 主な研究成果は、以下の3点にまとめられる。(1)本研究会の成果をもととして、企画展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年:「みられる私」より「みる私」」(2019年6月6日~9月10日)また同巡回展(横浜ユーラシア文化館、2019年10月5日~12月22日)を開催した。(2)本研究会の主要な成果として書籍『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年:「みられる私」より「みる私」』(河出書房新社、縄田浩志編、2019年6月6日)を出版した。(3)本研究会メンバーが中心的役割を担って、国際シンポジウム「サウジアラビアと日本をつなぐ文化交流のこれから」(横浜情文ホール、2019年11月17日)を開催した。

2018年度

30年度は、以下のような物質文化を対象として、中心研究テーマごとに議論を深化させていく。また、片倉もとこ収集資料の実見を継続しつつ、中東地域全般の民博所蔵資料について実見を行う。
◇研究会/対象物質文化/中心研究テーマ
・H30第1回/ベランダとベール/女性と男性の空間、内と外
・H30第2回/衣装と住居/イラン、中央アジア、熱帯と温帯・寒帯の対称性
・H30第3回/オアシスと都市/排泄物の利用・処理と循環、水資源の分配

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 石山俊、遠藤仁、片倉邦雄、河田尚子、郡司みさお、児玉香菜子、坂田隆、真道洋子、中村亮、西本真一、原隆一、藤本悠子、古澤文、渡邊三津子
研究会
2018年8月6日(月)13:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
石山俊(国立民族学博物館)「ワーディ・ファーティマのオアシス農業について」
渡邊三津子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「ワーディ・ファーティマの景観・土地利用の変化について」
遠藤仁(秋田大学)「ワーディ・ファーティマの物質文化:ジュムーム社会開発センター収蔵品から」
郡司みさお(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「ワーディ・ファーティマにおける女性の衣装・服飾・装身具について」
藤本悠子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「ワーディ・ファーティマの女性たち:半世紀をへて」
質疑応答
2018年8月7日(火)10:00~15:00(国立民族学博物館 大演習室)
縄田浩志(秋田大学)「ワーディ・ファーティマで撮影された半世紀前の写真からわかること」
竹田多麻子(横浜ユーラシア文化館)「男性の視点から蒐集した西アジア服飾品―横浜ユーラシア文化館所蔵品を通して」
質疑応答
総合討論「女性と男性の空間、内と外」
2018年9月30日(日)13:15~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
縄田浩志(秋田大学)・河田尚子・郡司みさお・藤本悠子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「“見られる女”より“見る女”―サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年」
西本真一(日本工業大学)「マシュラベーヤの役割」
質疑応答
総合討論「女性と男性の空間、内と外」
2018年10月1日(月)10:00~15:00(国立民族学博物館 第1演習室)
坂田隆(石巻専修大学)「ヒトの暑熱対応の性差」
質疑応答
総合討論「女性と男性の空間、内と外」
2019年2月22日(金)13:00~16:10(国立民族学博物館 第4セミナー室)
西尾哲夫 開催趣旨説明
坂田隆(石巻専修大学)「ヒトの暑熱対応の性差:衣への理学的アプローチ」
西本真一(日本工業大学)「マシュラベーヤの役割:住への工学的アプローチ」
石山俊(国立民族学博物館)「オアシス農耕の現在:食への農学的アプローチ」
縄田浩志(秋田大学)「コーヒー文化の起源・伝播・拡散:適応への人文学的アプローチ」
辛嶋博善(国立民族学博物館)コメント
松尾瑞穂(国立民族学博物館)コメント
窪田順平(人間文化研究機構)コメント
総合討論「沙漠への適応と生活世界の形成」
2019年2月23日(土)10:00~15:00(国立民族学博物館 第1演習室)
藤本悠子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)・郡司みさお(早稲田大学)・渡邊三津子(奈良女子大学)・遠藤仁(秋田大学)「半世紀前に写しこまれた被写体の氏名・親族関係の同定をめぐる諸課題:ワーディ・ファーティマ古写真の利用許諾をめぐって」
討論「沙漠社会における古写真の活用」
研究成果

本共同研究3年度目の平成30年度には、物質文化の中でも、ベランダとベール、衣装と住居に関わるモノに焦点をあてて、サウジアラビアのオアシスを舞台とした8つの事例報告をもとに議論を行った。他方、「沙漠への適応と生活世界の変容:文理共創的視点から考える現代中東地域研究」と題して、よい大きな枠組みにおける研究会を組織した。初期人類の誕生と拡散の舞台でもあった中東・北アフリカの沙漠において、人間はどのような適応戦略のもと生活世界を形成してきたのか、衣食住を中心とした物質文化に関する文理協働の研究成果に基づき、議論した。本研究会の成果として『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』をまとめた(縄田浩志編、河出書房新社、2019年6月出版予定)。とくに沙漠への適応戦略として、衣に対しては「暑熱と寒暖差への対応」「女性と男性の体温調整」(50~53頁)において、食に対しては「水くみの道具にみる半世紀の変化」「アラビア・コーヒーを淹れる」「アラビア・コーヒーや紅茶を飲む」(118~123頁)において、住に対しては「家屋のタイプ:移動と定住」「家屋の空間:女性と男性、内と外」「ラウシャンの機能:光と風を調整する」(53~59頁)における考察は、本研究会における理学、工学、農学、人文学的アプローチの統合による研究成果である。

2017年度

2年度は、以下のような物質文化を対象として、中心研究テーマごとに議論を深化させていく。また、片倉もとこ収集資料の実見を継続しつつ、中東地域全般の民博所蔵資料について実見を行う。
◇研究会/対象物質文化/中心研究テーマ
・H29第1回/飲料と食料/ナイル河岸と紅海沿岸、食品保存と運搬性
・H29第2回/職人と技術/技術の継承、職人の移動、モノの交流
・H29第3回/衣装と住居/イラン、中央アジア・モンゴル、熱帯と温帯・寒帯の対称性

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 石山俊、遠藤仁、片倉邦雄、河田尚子、郡司みさお、児玉香菜子、坂田隆、真道洋子、中村亮、西本真一、原隆一、藤本悠子、古澤文、渡邊三津子
研究会
2017年7月22日(土)10:30~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
渡邊三津子(千葉大学)「中央アジアの食品保存と運搬性」
縄田浩志(秋田大学)「西アジア・北東アフリカのコーヒー文化にみる移動戦略」
石山俊(総合地球環境学研究所)「サハラ・オアシスのナツメヤシ文化」
2017年7月23日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第3演習室)
総合討論「食品保存、運搬性、移動戦略」
2017年9月30日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
原隆一(大東文化大学)「イランにおけるバラ水利用」(仮)
真道洋子(東洋文庫)「バラ水蒸留とガラス器」(仮)
2017年10月1日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第2演習室)
遠藤仁・縄田浩志(秋田大学)「エジプト、ハーン・ハリーリにおける黒サンゴ及び木製数珠製作工房とその技術」
総合討論「技術の継承、職人の移動、モノの交流」
2018年3月10日(土)10:30~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
西本真一(日本工業大学)「古代エジプトにおける建築様式と男女の空間」(仮)
郡司みさお(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「イスラームの建築様式と男女の空間」(仮)
総合討論「日寒暖差、日陰、女性の生活」
研究成果

本共同研究2年度目の平成29年度には、物質文化の中でも、飲料と食料に関わるモノ、衣装と住居に関わるモノに焦点をあてて、7つの事例報告をもとに「食品保存、運搬性、移動戦略」「技術の継承、職人の移動、モノの交流」「日寒暖差、日陰、女性の生活」について議論を行った。
例えば、スーダンの沙漠(コーヒー栽培化の起源地に隣接し、初期の伝播・拡散にも一定の役割を果たした)において、ラクダなどで長距離移動する時には、コーヒーを作るためのセットが必ず持参される事例が示された。暑い乾燥地では水そのままを飲むよりも、コーヒー豆を焙煎し粉砕した粉を直に煮出して香辛料入りで飲む方が、少量の水を効率的に摂取できる。原料のコーヒー豆・香辛料は保存がきき、道具もいたって軽量で、持ち運ぶ水の量も少なくて済む。そのような観点から、「沙漠・乾燥地での移動戦略・適応戦略としてのコーヒー文化」という新しい着眼点が導き出された。

2016年度

初年度は、以下のような物質文化を対象として、中心研究テーマごとに議論を深化させていく。また、片倉もとこ収集資料から始めて中東地域の民博所蔵資料について実見を行う。
◇研究会/対象物質文化/中心研究テーマ
・H28第1回/全般/研究目的と研究テーマについての議論
・H28第2回/ラクダと船/ネットワークと結節点、陸域と海域の連続性

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 石山俊、遠藤仁、片倉邦雄、河田尚子、郡司みさお、児玉香菜子、坂田隆、真道洋子、中村亮、西本真一、原隆一、藤本悠子、古澤文、渡邊三津子
研究会
2016年10月7日(金)13:20~16:30(国立民族学博物館 第2演習室)
縄田浩志(秋田大学)「みんぱく資料概要説明」
展示準備室にて片倉もとこ収集資料200点の実見
2016年10月8日(土)10:00~15:00(国立民族学博物館 第2演習室)
縄田浩志(秋田大学)「研究会の目的」
中村亮(国立民族学博物館)「ダウ船からわかること」
研究会メンバー自己紹介とこれからの研究会について議論
2016年11月25日(金)14:00~17:00(国立民族学博物館 第3セミナー室)
縄田浩志(秋田大学)開催趣旨説明
ムハンマド・アフマド・ムハンマド・スリマーン(エジプト考古省近代遺跡局長)「イスラーム時代アレクサンドリアの水システム(621-1952)」
縄田浩志(秋田大学)「紅海産黒サンゴのお数珠としての利用」
深見奈緒子(日本学術振興会カイロ研究連絡センター長)コメント
総合討論
2016年11月26日(土)10:00~15:30(国立民族学博物館 第1演習室)
片倉邦雄、藤本悠子、古澤文(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「文化人類学者・片倉もとこが遺したモノ」
河田尚子(片倉もとこ記念沙漠文化財団)「文化人類学者・片倉もとこが著した世界」
郡司みさお(早稲田大学国際情報通信研究センター)「サウジアラビアの女性の生活と物質文化」
総合討論
研究成果

本共同研究初年度の平成28年度には、物質文化の中でも沙漠に接する海域に関わるモノとして船と黒サンゴそして水の利用に焦点をあてた。また、国立民族学博物館の標本資料目録にある所蔵品を本館バックヤードで研究メンバー全員で実見しながら、片倉もとこによるアラビア半島の現地調査資料の活用について議論した。
例えば「H0100191/漁船/アラブ首長国連邦/1982年」に注目した。片倉もとこ記念沙漠文化財団に残されている漁船収集当時のアラブ首長国連邦のシャルジャの造船場での現場写真、購入経緯がわかる通関書類、その社会的背景に関する資料と照合した。残念ながら2013年3月には漁船本体は廃棄処理がなされていたことがわかったが、廃棄前に撮影された写真、解体した際の観察等の資料調査記録を参照することができたため、船体の形状や特徴から20世紀後半アラビア湾にて使用されていた木造漁船としての学術的価値を確認できた。アラビア湾で20世紀後半に使用されていた木造漁船の構造を「インド洋海域世界」で比較研究することで、物質文化の視点から海上ネットワークをつうじた沙漠社会の交流史と移動戦略を再検証していく視点を獲得できた。