国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

島世界における葬送の人類学――東南アジア・東アジア・オセアニアの時空間比較

研究期間:2019.10-2022.3 代表者 小野林太郎

研究プロジェクト一覧

キーワード

葬送、島嶼域、時空間比較

目的

アフリカ大陸で誕生した私たち現生人類=ホモ・サピエンスは、約5万年前頃までにはアジアやオセアニアの島嶼域への移住を開始した。一方、人類による葬送行為も私たちホモ・サピエンス以降に活発化し、発展してきたと考えられている。その萌芽的な痕跡はアフリカ大陸や西アジアで確認されているが、アジア・オセアニアへの島世界へと移住した人類集団も、その初期から墓葬や埋葬行為を行っていた痕跡が、各地で発見されつつある。本研究の目的の一つは、人類史的には大陸部で誕生したと考えらえる葬送行為や墓葬文化が、島世界という独特な環境への移住後、どのように変容し現在に至るのかという時間軸による検討を行うことにある。ついで二つ目の目的は、アジア~オセアニアの島嶼域を大きく東南アジア・台湾・日本の南西諸島・オセアニアという4つの地域に分けたうえで、その地域性を人類の島嶼適応や移住といったテーマを軸とする人類史的な視点から検討することにある。また時間軸による検討では、アジア・オセアニアにおける現生人類の歴史と重なる5万年程度の幅の長期的な考古学的時間軸と同時代を含む約100年程度の幅の民族誌的時間軸を比較の準拠枠とする。本研究では、考古学と文化人類学を軸に分野横断的な比較検討を行うことで、島世界の葬送や墓葬にみられる普遍性、歴史性、地域性を明らかにしたい。

2020年度

本年度は計3回の研究会開催を計画している。地域的には(1)日本の南西諸島と(2)台湾を対象とした研究会を5月に開催する方向で計画中である。また9月には(3)東南アジアと(4)オセアニアの事例を軸とした2回目の研究会を開催する計画である。3回目の研究会では、本研究で対象としている地域のうち、より議論が必要と認識された地域の事例をさらに検討するほか、地域横断的な比較の議論を発展させる予定である。また2回目の研究会では、東南アジア、オセアニア地域における民族誌時代の葬送儀礼に詳しい専門家を特別講師として招き、発表してもらう計画である。

【館内研究員】 池谷和信、野林厚志、丹羽典生
【館外研究員】 秋道智彌、印東道子、片岡修、片桐千亜紀、後藤明、新里貴之、鈴木朋美、角南総一郎、竹中正巳、田中和彦、前田一舟
研究会
2020年8月1日(土)13:20~18:00(第3セミナー室 ウェブ会議併用)
小野林太郎(国立民族学博物館)「第三回研究会の趣旨説明と目的の紹介」
竹中正巳(鹿児島女子短期大学)「古人骨からみた南九州・奄美群島地域の地域の再葬」
新里貴之(鹿児島大学埋蔵文化財調査センター)「琉球列島先史時代の葬墓制」
小野林太郎・片桐千亜紀(沖縄県立埋蔵文化財センター)「ウォーレシアにおける初期金属器時代の再葬:比較の視点から」
総合討論
2020年11月28日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第7セミナー室[予定] ウェブ会議併用)
小野林太郎(国立民族学博物館)「第4回研究会の趣旨説明と目的の紹介」
印東道子(国立民族学博物館)「ミクロネシア・ファイス島の埋葬遺跡と葬法の特徴」
丹羽典生(国立民族学博物館)「民族誌的資料からみるフィジーの葬儀の変化」
後藤明(南山大学)「東南アジア・オセアニアの埋葬法と他界観:民族誌テキスト分析の新手法に触れて」
秋道智彌(総合地球環境学研究所)「海民の葬制――民族誌ノート」(コメンテーター)
総合討論
 

2019年度

2019年度には、まず本研究の趣旨と基本的な比較の枠組み、ならびに四つの島嶼域を対象とした研究の現状や概容の確認を目的とする研究会を2回おこなう。研究会は、考古学的な時間軸と民族誌的な時間軸の二つの時間軸で対象地域を時空間比較ができるよう、下の表に整理した項目にそって組織する。このうち空間面での比較では、東南アジア、オセアニア、台湾、琉球・南西諸島を枠組みとする。

時間軸 / 地域

東南アジア

オセアニア

台湾

琉球・南西諸島

先史・歴史時代

小野・田中・鈴木

印東・片岡

野林

片桐・竹中・新里

民族誌時代

秋道・後藤

丹羽・後藤・秋道

角南

前田

 

各メンバーは、表の位置づけに従い、各担当地域の葬送・墓葬に関する研究・事例報告、ないしは問題提起を行い、参加者からコメントを受ける。2019年度は、代表者による全体的な趣旨、目的に関する発表後、対象とする4つの空間的枠組みのうち、東南アジアと琉球・南西諸島のセットで1回、台湾とオセアニアのセットで1回、メンバーによる発表とそれを踏まえた全体での討論を計画している。

【館内研究員】 池谷和信、野林厚志、丹羽典生
【館外研究員】 秋道智彌、印東道子、片岡修、片桐千亜紀、後藤明、新里貴之、鈴木朋美、角南総一郎、竹中正巳、田中和彦、前田一舟
研究会
2019年11月12日(火)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
小野林太郎(国立民族学博物館)「共同研究の趣旨説明と目的の紹介――島世界における葬送の人類史」
片桐千亜紀(沖縄県立埋蔵文化財センター)「琉球列島における崖葬墓と島世界における人類史」
メンバーによる展示見学
前田一舟(うるま市立海の文化資料館)「近世以降における琉球列島の葬墓と葬送」
ディスカッション・今後の計画についての検討
2020年2月8日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
小野林太郎「第二回研究会の趣旨説明と目的の紹介」
鈴木朋美「ベトナムの二次埋葬と甕棺埋葬」
片桐千亜紀「インドネシア・トラジャ族による風葬・崖葬墓」
総合討論
研究成果

初度に開催した研究会(1回)では、まず、人類学、芸術学、考古学の3分野における、本研究テーマに関わる先行研究とキーワードの確認と議論を行った。その結果、主に3点について明確にすることができた。1)「感覚」については、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感だけではなく、それらが複数あわさった多感覚的経験をも視野に入れる。また、個々の感覚と、社会的に共有されたものの差異にも注目する。2)「制度」については、アートワールドというグローバルな制度に加え、法や規範、政治や経済、教育などの諸制度や、各フィールドでの制度化された慣習や暗黙の了解なども含め、広義に捉える。3)「美」については、「美しいか」と「喚起されるか/魅惑されるか」を相互に置き換えて考察することで、美をめぐる制度的領域と感性的領域の結びつきを検証していく。 このように、次年度から個人発表を進めていくにあたっての重要な概念と理論について議論することができた。