国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

モビリティと物質性の人類学

研究期間:2019.10-2022.3 代表者 古川不可知

研究プロジェクト一覧

キーワード

身体、インフラストラクチャー、マテリアリティ

目的

グローバル化の進展にともなって、人々の移動はますますその規模と多様性を増している。本研究の目的は、生業活動から観光まで、現代世界の人々が地球上を移動してゆく様々なあり方について知見を集積するとともに、人間の移動には不可避的に伴う物質的な側面を特に焦点化しながら比較分析することである。本研究ではまず、人々の移動を共通項として研究を続けているメンバーの事例をもとに、a.身体、b.インフラストラクチャー、c.マテリアリティを鍵概念としてそれぞれの移動に固有の物質的側面を検討する。そのうえで事例間の共通性と差異を、①地域(アジア、ヨーロッパ等)、②移動背景(難民、観光等)、および③移動手段(徒歩、自動車等)の三つを軸に比較分析する。本研究では人々の移動を、人とモノと環境がその都度の状況に応じて個別的な関係を取り結ぶ実践として捉え、上記の作業を通じてそこに内在する様々な物質性(matelialities)の諸相を明らかにしてゆく。

2020年度

本年度は4回の研究会開催を予定している。今年は昨年度の議論を踏まえつつ本共同研究の可能性を拡張することに重点を置き、各回3~4名のメンバーが各地の事例に基づいて研究発表をおこなう。具体的には移動の直接的な物質的側面にとどまらず、移動とインフラが備える時間性、人の移動とモノの移動とが相互に影響する様相、技術の導入が移動パターンや乗り物の素材に及ぼす影響などを広く検討する。また特別講師として、生態心理学の専門家およびハンディキャップを持つ方を講師として招聘し、移動をめぐる視点を多角化する予定である。

【館内研究員】 八木百合子
【館外研究員】 左地亮子、高木仁、土井清美、中野歩美、難波美芸、西尾善太、橋爪太作、片雪蘭、村橋勲、中野真備、寺尾萌、萩原卓也
研究会
2020年7月18日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ会議併用)
片雪蘭(関西学院大学)「北インド・ダラムサラにおけるチベット難民の移動/滞留と物質性」(仮)
中野真備(京都大学)「インドネシア・バンガイ諸島におけるサマ/バジャウの海と道」
「全体討論と今後の進め方について」
2020年10月31日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
左地亮子(東洋大学)「「ジプシー巡礼祭」における身体・モビリティ・マテリアリティ-- -ストーリーを横切る「空間の偶然性」に着目して」
萩原卓也(京都大学)「走るたびに感じる身体の居場所――ケニアにおける自転車競技選手の浮遊と沈殿」(仮)
「全体討論と今後の進め方について」
2021年1月23日(土)13:30~18:00(ウェブ会議)
西尾善太(京都大学)「インフラストラクチャーをケアする日常実践:マニラ首都圏におけるジープニーの修理とメンテナンスの事例から」
中野歩美(関西学院大学)「地続きの移動/定住―北西インドの移動民における野営の技術と物質性―」
「全体討論と今後の進め方について」

2019年度

初年度(2019)は2回の研究会を開催する。初回は代表者による趣旨説明ののち、メンバー全員が5分程度の発表をおこなって事例と問題意識を共有し、共同研究全体と個別調査の方針を検討する。第2回にはメンバー4名がそれぞれ1時間程度の研究発表を実施し、討議をおこなって議論を深める。発表者のあいだには、地域・移動背景・移動手段の三つの比較軸に共通点と差異がともに含まれるように構成し、移動という現象の多様性を浮き彫りにすることを目指す。

【館内研究員】 八木百合子
【館外研究員】 左地亮子、高木仁、土井清美、中野歩美、那木加甫、難波美芸、西尾善太、橋爪太作、片雪蘭、村橋勲
研究会
2019年11月2日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
古川不可知(国立民族学博物館)「趣旨説明と研究動向紹介」
全員「研究テーマの共有」
難波美芸(一橋大学)「インフラで考える巡る時間と流れる時間――ラオス北部ルアンナムタ県の流れ橋と鉄道建設」
全体討論および今後の進め方について
2020年2月1日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
村橋勲(京都大学)「国境地帯のモビリティーズ ――南スーダン-ウガンダ間の紛争と交易(仮)」
高木仁(国立民族学博物館)「東ニカラグア・低湿地インディアンのモビリティーに関わる物質文化」
総合討論および次年度の研究計画について
研究成果

初年度となる本年は、共同研究の趣旨を共有したうえで今後のおおまかな方針を策定した。またメンバーがそれぞれの調査地から移動と物質性をめぐる事例を提示して討議をおこなった。具体的には、第1回にラオスの移動インフラ(難波)を、第2回には南スーダン-ウガンダ国境をまたいでおこなわれる難民の経済活動(村橋)とニカラグアの漁労民の水上移動(高木)を取り上げ、それらの移動を可能とする物質的基盤や、移動パターンが成立・変化した歴史文化的背景、環境条件に応じた移動媒体の素材の差異とその変移などを比較検討した。またインフラの季節性/時間性など、二年目の検討課題とすべきいくつかの新たなトピックを抽出することができた。