国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

先住民による海洋資源利用と管理

共同研究 代表者 岸上伸啓

研究プロジェクト一覧

2001年度

本研究では、環太平洋地域(熱帯・亜熱帯と寒冷帯・寒帯)および極北地域における先住民が、沿岸および広域回遊性の海洋資源をどのように利用・管理してきたかを明らかにする。特に、生業と商業、先住民権と資源利用、立法と慣習法をめぐる法的な相克、持続的な資源管理と保全、民俗知識と環境問題など、先住民の資源利用をめぐる現代的な諸問題を比較研究を通じて明らかにすることを大きな目的としている。

【館内研究員】 秋道智彌、飯田卓、池谷和信、大島稔(客員)、岸上伸啓
【館外研究員】 赤嶺淳、岩崎まさみ、内山純蔵、大村敬一、スチュアート・ヘンリ、竹川大介、田辺信介、手塚薫、出利葉浩司、長津一史、細川弘明、松本博之、渡辺裕
研究会
2001年5月26日~27日
金沢謙太郎「サラワク・プナン集落における生物多種性消失のポリティカル・エコロジー」
飯田卓「北海道日高地方におけるミツイシコンブの利用と管理 ─ 多層的な利用規約」
岸上伸啓「カナダ周極地域における資源・環境問題 ─ イヌイットの対応を中心に」
2001年6月23日~24日
手塚薫「東洋交易における俵物と毛皮 ─ 18から19世紀を中心に」
苑原俊明「資源・環境問題と先住民の国際活動」
岩崎まさみ「Co-managementの可能性について ─ イヌビアウィットと北西海岸先住民のケース」
2001年7月21日
大島稔「カムチャツカ先住民の海獣狩猟」
全体討論「カムチャツカ・ヴィベンカ村の『解氷と祭り』と『海獣送り』についての調査報告」
2001年9月22日~23日
立川陽仁「クワクワカワクゥによるサケ資源管理」
橋村修「対島暖流域のシイラ漬漁にみられる紛争と資源利用の地域的特徴」
コメンテーター:川野和昭
大村敬一「『大地』とは何か?カナダ・イヌイトの地名にみる環境観と環境管理」
岸上伸啓「特別展『ラッコとガラス玉』について」
2001年11月17日~18日
赤嶺淳「エスノネットワークにおける仲買人の位置づけ ─ フィリピンの干ナマコ流通の事例」
渡部裕「カムチャツカにおけるサケと先住民経済 ─ 流通システムがつくり出す資源対立」
高倉浩樹「サハの土地利用と自然観 ─ 中央ヤクーチアにおけるアラースを中心に」
全員「総合討論」
2001年12月22日~23日
笹倉いる美「海洋資源論からみた特展の意義(1)」
中田篤「海洋資源論からみた特展の意義(2)」
角達之助「海洋資源論からみた特展の意義(3)」
竹川大介「海の権利はどこから生まれるか ─ 宮古島センス業者と観光ダイバーの確執と自然観」
鹿熊信一郎「珊瑚礁海域の地域主体水産資源管理 ─ 沖縄とサモアの事例」
総合討論「だれが海を管理するのか」
2002年1月19日~20日
鯨類資源の利用と管理
ジェームズ・サベール「カナダ極北およびアラスカにおける先史チューレ・エスキモーのホッキョククジラ捕獲戦略について」
平口哲夫「東アジアにおける捕鯨についての民族考古学的検討 ─ 先史-前近代社会にとっての鯨類資源を再考する」
大曲佳世「日鯨研でのクジラ研究のデータベースづくり」
濱口尚「ベクウェイ島、セント・ビンセント島およびグレナディーン諸島国におけるザトウクジラ猟に関する報告」
2002年2月23日~24日
家中茂「『コモンズの海』をめぐって ─ 生成するコモンズ論・環境社会学におけるコモンズ論の展開」
縄田浩志「乾燥熱帯沿岸域における海洋資源の利用とラクダの管理 ─ スーダン領紅海沿岸ベジャ族の事例から」
鹿熊信一郎「沿岸水産資源・生態系のCo-Management ─ 最近のフィリピンの状況」
全員「共同研究会『先住民による海洋資源利用と管理』の3年の総括」
全員「総合討論」
2002年3月21日
岸上伸啓「海洋資源の利用と管理に関する文献データベースの構築」
李善愛「山口大浦の海女漁」
竹川大介「バヌアツにおける海洋資源利用 ─ 観賞用熱帯魚の輸出とフツナ島の伝統的トビウオ漁」
矢野敬生「フィリピン・パナイ島におけるタデアミ漁業について」
研究成果

先住民や漁民が自家消費のために捕獲する水産資源の場合には社会内で消費される以上の資源量は捕獲されない傾向がある一方、販売を目的として捕獲する水産資源の場合には捕獲量と収入が比例すれば、乱獲を引き起こす可能性がある。後者の場合の資源管理においては、地域の外にある地球規模の市場の動向や国益、企業の目的などの要因が加わり、資源管理が困難な場合が予想される。現代の先住民による資源の利用や管理はほとんどの場合、生態学的な条件よりも国家による規制(政治・行政)や商業生産(経済)のあり方と深く係わっている。したがって、水産資源の社会的分配や商業流通とその資源管理との関係を解明し、ありうる資源管理のモデル(複数の選択肢)を提起することが次の重要でかつ緊急の課題のひとつとなる。

2000年度

本研究では、環太平洋地域(熱帯・亜熱帯と寒冷帯・寒帯)および極北地域における先住民が、沿岸および広域回遊性の海洋資源をどのように利用・管理してきたかを明らかにする。とくに、生業と商業、先住民権と資源利用、立法と慣習法をめぐる法的な相克、持続的な資源管理と保全、民俗知識と環境問題など、先住民の資源利用をめぐる現代的な諸問題を比較研究を通じて明らかにすることを大きな目的としている。

【館内研究員】 赤嶺淳(COE)、秋道智彌、大島稔(客員)
【館外研究員】 岩崎まさみ、大村敬一、スチュアート・ヘンリ、竹川大介、長津一史、細川弘明、松本博之
研究会
2000年10月29日
桑山敬己「人類学の世界システム」
大曲佳世「捕鯨問題の現状について」
岸上伸啓「ヌナヴィク・イヌイットのハンター・サポート・プログラムと食物分配」
2000年5月13日~14日
岩崎まさみ「Co-managementへの取り組み ─ イヌビアロウイットのケース」
竹川大介「イルカ漁をめぐる村人たちの言説とリアリティー」
秋道智彌「バリコネクション ─ インドネシアにおけるサンゴ礁資源輸出をめぐる考察」
2001年2月17日~18日
赤嶺淳「マンシ島社会にみる資源利用の変化 ─ 1998年と2000年のちがいから」
大村敬一「TEKを野生生物資源管理に生かす試み ─ ヌナヴト準州の共同管理の場合」
谷村一之「カムチャツカ半島における“海獣おくり”について」
全体討論
松山利夫「オーストラリアにおける先住民の海域囲い込み ─ ノーザンテリトリー、クローカー島の事例」
松本博之「Customary Marine Tenureとトレス海峡条約」
岸上伸啓「全体討論と今後の研究計画」

1999年度

本年度の研究成果の要約は次の通りである。(1)先住民の資源利用に関しては、先住民と国家、先住民とその他の国民、先住民同士、先住民と外国人などの間で紛争や葛藤が発生している。また、資源管理のやり方についても、伝統的な民俗知識と科学的知識の利用の間に対立関係が見られる。(2)残留性有機物質による環境汚染のために、食料となる海洋資源の安全性が問題になりつつある。これまでの資源管理は、数量の持続的な維持に主眼がおかれてきたが、安全性の管理が重要な課題となっている。(3)海洋資源の利用と管理は、地球規模の諸要因と関連しており、一地域や一国家を単位とする資源管理では、不十分である。(4)資源問題の解決は各国家の政治的な要因によって左右されるため、エコ・ポリティクスとでも呼べるような政治動態が存在しており、新たな研究対象となっている。

【館内研究員】 赤峰淳、秋道智彌
【館外研究員】 岩崎まさみ、大村敬一、竹川大介、松本博之
研究会
6月12日
全員「全体の研究構想の打ち合わせ」
秋道智彌「海洋資源論」
6月13日
岸上伸啓「資源をめぐる人類学的研究の可能性」
6月22日
大村敬一「カナダ・イヌイットの資源獲得活動に関する映像記録の編集」
11月22日
大村敬一「伝統的な生態知識(TEK)について」
11月23日
竹川大介「ソロモン諸島における海の民の認知地図について」
全体討論
2000年3月4日
大島稔「カムチャッカ半島西海岸レスナヤにおけるサケ資源の利用と伝統的民俗知識」
岸上伸啓「カナダ・イヌイットによるシロイルカの捕獲と分配:海洋資源の利用と管理」
3月5日
松本博之「ジュゴンと管理:一九九九リサーチ・レポート」
総合討論
研究成果

初年度1999年は、岸上と秋道が問題提起をするとともに、共同研究員は1999年度に実施した海外調査の成果報告をおこなった。報告された事例を比較検討した結果、北方民と南方民の資源利用と管理方法に大きな違いがあることが分かった。北方では利用している海洋資源の種類が少なく、かつ海洋資源は彼らの食料である。彼らは国家とともに資源の保全に取り組んでいる。一方、南方民の資源利用は、ホンコンなどの市場で売ることを目的とする商品となる資源の開発である。特定の商品となる資源が枯渇すると、他の地域へ移動し、同一もしくは別種の資源開発をおこなう。多くの場合、資源管理はおこなわれていない。この差異は、資源の多様性が大きいかどうか、人口密度、資本主義経済とのかかわり方などによると考えられる。