国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代ペルーの社会動態に関する学際的調査研究――比較研究のための視角構築(2001-2004)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 村上勇介(2004)/ 山田睦男(2001-2003)

研究プロジェクト一覧

目的・内容

1980年代以降、ラテンアメリカは、軍政から民政への移管、民主的政治枠組みの構築と大衆による政治参加の拡大、経済の自由化や構造改革の進展、新たな価値観の浸透など、社会の様々な側面で構造的な変動を経験してきた。このラテンアメリカにあって、ペルーをはじめとするアンデス諸国(ペルーの他、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ)は、特に多くの不安定要素を抱えてきた地域である。これらの国では、政治の不安定化、経済不振の慢性化、貧困状況の悪化、麻薬不正取引や汚職の蔓延、反政府武装組織の活発化、社会的連帯感の弛緩など、多くの問題が発生し、社会が混乱してきた。
アンデス諸国の不安定化の背景には、経済基盤の脆弱さ、大きな階層間格差、政治システムの未発達など、これらの国々が19世紀初頭の独立以来、克服できずにいる歴史的かつ基本的問題が横たわっている。加えて麻薬問題に象徴されるように、国際関係の中でも周辺に位置する地域であることの帰結でもある。1980年代以降に見られてきた構造的な変動のダイナミズムが、今後、アンデス諸国の安定と発展につながるか否かが、現在、問われている課題である。
本研究の目的は、上記のような認識に基づいて、(1)まず、1980年代後半から1990年代前半にかけ前述の問題が同時並行的に深刻化し危機的状況に陥ったペルーを主たる事例とし、その不安定の要因、特質、背景を、政治、経済、社会、歴史、文化など多面的なアプローチにより解明し、(2)その上で、近年の変動がペルーの政治、経済、社会にもたらした影響や変動を研究し、(3)これらの分析から得られたインプリケーションをアンデス諸国の比較を通じて検証し比較研究のための枠組を構築するとともに、その構造変動の特質および安定や発展のための諸条件、過程、制度を考察する、という3点にある。

活動内容

2004年度活動報告

研究の最終年に当たる今年度は、当初の計画の最終目的である比較研究の枠組作りに資する基礎研究を研究分担者が各々の視点から進めるとともに、比較分析枠組に関する議論を進めた。まず、研究分担者の調査研究については、新木がエクアドルの政治経済社会変動ならびに環境問題に関する基礎的な調査を実施した。佐野は、ペルーを中心にアンデス諸国の経済体制と構造変動の比較研究を実施した。安原は、ペルーを主たる対象として、金融システムの構造と安定性に関し分析を実施した。中川は、ボリビアにおいて、社会変動と人口動態に関する調査研究を行った。細谷は、ペルーを対象に、先住民社会の構造的変容ならびに民族間関係における動態と偏見などの意識の問題についての調査を実施した。村上は、ペルー、ボリビア、エクアドルを対象に、政治参加過程と地方レベルの政治の動態に関する調査研究を行った。幡谷は、コロンビアにおける社会変動について、貧困層集住地区の動態研究を通じて考察した。遅野井は、ペルーを中心に、アンデス諸国の政治経済変動の動態分析に従事した。山脇は、ペルーを対象に、社会変動のダイナミズムと階層間関係の変容について調査分析を実施した。二村は、コロンビアとベネズエラを対象に、政治体制の変動過程と政党制、政治暴力の問題に関する比較研究を実施した。
続いて、比較研究の枠組に関しては、海外研究協力者との議論の後、研究分担者の間での検討を進めた。より具体的には、政治分野では、政党制・政党間関係、政党凋落後の政治リーダーシップ、民主的な政治参加過程の態様、政治意識、地方分権化といった研究課題について比較研究のあり方が検討された。経済関連分野では、経済構造、金融システム、開発政策、農村経済、環境政策などの研究課題についての比較の枠組が探られた。社会・文化関係では、階層構造、民族間関係、暴力の問題などの点に関し比較研究の枠組設定の可能性が議論された。

2003年度活動報告

昨年度に引き続き、各自がそれぞれの研究テーマに関する調査研究を7月から3月の間に実施した。海外調査は、山田がアンデス諸国の比較都市史研究の調査のためペルーとメキシコへ、新木がエクアドルの社会変動に関する研究の実施のため同国へ、佐野がアンデス諸国の経済体制の比較研究のためペルーとアルゼンチンへ、中川がボリビアの社会変動に関する調査のためボリビアとブラジルへ、細谷がペルーにおける民族間関係の調査のため同国へ、村上がペルーの政治動態に関する調査研究のため同国へ、安原が経済発展の比較に関する研究のためペルーとメキシコへ、遅野井がペルーの政治変動に関する調査研究のため同国へ、各々赴き、資料収集や聞き取り調査などの現地調査を実施した。また、平成15年9月に大阪大学と国立民族学博物館を会場として開催されたラテンアメリカ・カリブ海研究国際連盟第11回大阪大会において、本研究の成果の一部を発表した。発表した者は、新木、佐野、細谷、村上、安原、山崎、山脇の7名だった。発表内容は、新木がエクアドルにおける民族と権力の関係ならびに地域通貨制の経験について、佐野がアルゼンチンと日本の経済構造動態の比較、細谷がペルーにおける先住民と政治暴力をめぐる記憶について、村上がペルーの地方選挙における政治参加の実態について、安原がアジアとラテンアメリカにおける金融危機の比較、山崎がラテンアメリカとアジアにおける汚職に関する比較、山脇がペルーにおける社会構造とその変容について、各々発表した。なお、来年度に向け、研究の成果の一部を取りまとめた研究報告書を出版すべく、準備を進めている。

2002年度活動報告

前年度に実施した調査研究を受け、研究分担者が各々の研究課題に基づき、7月から2月にかけて現地調査を実施することが主たる活動となった。具体的には、山田が国内でアンデス諸国に関する資料調査を実施した他、ペルーにおいては、佐々木(法政大学)がペルーの民族変容の現状、特に混血者のアイデンティティに関し、細谷(神戸大学)がペルーの先住民社会の変容、特にアンデス高地における政治暴力と記憶について、安原(南山大学)がペルーの経済発展と経済政策、特に中小企業の現状と振興に関し、村上(国立民族学博物館地域研究企画交流センター)がペルーの政治社会変動と政治参加、特に地方選挙過程における事例に関し、フィールド・ワークを実施した。ペルー以外では、二村(名古屋大学)がコロンビアとベネズエラの政治社会変動、特に最近の変動過程に関し、中川(城西国際大学)がボリビアの社会変動、特にブラジルへ移民したボリビア人と出身地の関係について、佐野(新潟大学)がアンデス諸国の経済構造の比較、特にアルゼンチンとの比較に関し、各々現地調査を行った。フィールド・ワークの実施に当たっては、研究代表者の所属部局が学術協力交流協定を締結している在ペルーのペルー問題研究所、ならびにここと提携関係にあるペルー以外の国の研究機関・大学の協力を得た。また、2月には、ペルー問題研究所が現地の研究者を招聘し本研究に関する報告研究会を開催し、村上が全体的な進捗状況を報告するとともに、その個別研究課題に関する発表を実施し、意見交換や議論を行った。

2001年度活動報告

本研究は、1980年代後半から90年代前半に様々な面で同時並行的に危機的状況に陥ったペルーを主たる例とし、その不安定の要因、特徴、背景を、政治、経済、社会、歴史、文化など多面的なアプローチにより解明し、その上で、近年の変動がペルーの政治、経済、社会にもたらした影響や変動を研究し、これらの分析から得られたインプリケーションをアンデス諸国(ペルーの他、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ)間の比較を通じ検証し比較研究のための枠組を構築するとともに、その構造変動の特質および安定や発展のための諸条件、過程、制度を考察する、ということを目的としている。この研究の初年度として、本年は、まず、これまでの準備を踏まえ、本研究が志向する学際的なアプローチの検討を行い、問題意識の共有化と共通理解を進化させるよう努力した。この後、研究分担者が各々の課題についての現地調査を昨年の7月から今年の2月にかけて実施した。具体的には、ペルーにおいて、遅野井がペルーの政治社会変動について、佐野がペルーの経済発展と経済構造について、村上がペルーの政治参加について、山脇がペルーの社会階層について、安原がペルーの経済発展と経済政策について、細谷がペルーの政治暴力とその記憶について、富田がペルーの政治過程について、各々フィールドワークを実施した。また、ペルー以外では、細野がチリでアンデスの経済発展の比較に関し、中川がボリビアで社会変動の比較について、幡谷がコロンビアで社会変動の比較について、新木がエクアドルで社会変動について、各々現地調査を行った。フィールドワークの実施に当たっては、研究代表者の所属部局が学術交流協定を締結している在ペルーのペルー問題研究所やこれと提携関係にあるペルー以外の国の研究機関・大学の協力を得た。