国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

欧米・日本におけるアラビアンナイトの受容と中東イスラム世界イメージ形成(2002-2005)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 西尾哲夫

研究プロジェクト一覧

目的・内容

日本にとって今日ほど、イスラム文明との対話が焦眉の課題となっている時代はない。日本では、イスラム世界との歴史的交渉がなかったこともあって、イスラム世界における民衆文化の研究は殆どなされてこなかった。日本人のイスラム世界観を決定づけたものは、民衆文化の精華とも言えるアラビアンナイトである。この物語集は300年ほど前にヨーロッパに紹介され、文学のジャンルを超えた多彩な影響を各方面に及ぼした。アラビアンナイトの「発見」は、近代世界の方向付けとしても作用したのである。ヨーロッパ世界はアラビアンナイトの彼方にどのような中東イスラム世界を見ようとしたのか。ヨーロッパ文化に受容されたアラビアンナイトはいかなる変貌をとげたのか。日本がアラビアンナイトの彼方に見たものは、実は鏡にうつった西洋近代の幻だった。こうして培われたイスラム世界観が、日本におけるイスラム・イメージの土壌となって、ゆがんだイスラム世界像を養ってきたのである。
本研究では、(1)中東イスラム世界におけるアラビアンナイト形成史をたどりつつ、この物語集がイスラム教徒民衆の世界観を反映するようになった経緯、彼らの異文化理解に与えた影響を確認し、(2)欧米・日本におけるアラビアンナイトの受容、当該地域の文化的・社会経済的状況下における変容、中東イスラム世界に対するイメージ形成に及ぼした影響を分析し、欧米・日本における中東イスラム世界イメージの形成過程におけるアラビアンナイトの役割を明らかにする。

活動内容

2005年度活動報告

The Arabian Nights and Orientalism 中東イスラム世界におけるアラビアンナイト形成史をたどりつつ、この物語集がイスラム教徒民衆の世界観を反映するようになった経緯、彼らの異文化理解に与えた影響を確認し、欧米・日本におけるアラビアンナイトの受容、当該地域の文化的・社会経済的状況下における変容、中東イスラム世界に対するイメージ形成に及ぼした影響を分析し、欧米・日本における中東イスラム世界イメージの形成過程におけるアラビアンナイトの役割を明らかにするために以下の研究をおこなった。
1.アラビアンナイト研究基礎データ作成の継続:
(1)アラビアンナイト・モティーフ索引の作成を継続。
(2)アラビアンナイト原典電子コーパスに基づくアラブ民衆文化語彙事典データベースの作成を継続。
(3)アラビアンナイト研究書誌情報の収集と文献目録の作成を継続。
(4)日本招来中東関連文化財目録の作成を継続。
2.アラビアンナイト研究のための現地調査:
中東イスラム世界と地理的に直結しているという歴史環境から中東イスラム世界イメージを民衆レベルで今もなお伝承しているシチリアにおいて、中世におけるキリスト教徒とイスラム教徒の戦闘をテーマとする「ロランの歌」に取材した人形劇等の民衆芸能を調査した。
3.研究成果の公刊:
英文による研究成果の論文集 The Arabian Nights and Orientalism: Perspectives from East and West. をロンドンの出版社I.B.Tauris社より出版した。

2004年度活動報告

中東イスラム世界におけるアラビアンナイト形成史をたどりつつ、この物語集がイスラム教徒民衆の世界観を反映するようになった経緯、彼らの異文化理解に与えた影響を確認し、欧米・日本におけるアラビアンナイトの受容、当該地域の文化的・社会経済的状況下における変容、中東イスラム世界に対するイメージ形成に及ぼした影響を分析し、欧米・日本における中東イスラム世界イメージの形成過程におけるアラビアンナイトの役割を明らかにするために以下の研究をおこなった。
1.アラビアンナイト研究基礎データ作成の継続:
(1)海外共同研究者Sironval氏(国立民族学博物館外国人客員教官として~平成16年5月まで来日)が提供するデータをもとにアラビアンナイト・モティーフ索引の作成を継続。
(2)アラビアンナイト原典電子コーパスに基づくアラブ民衆文化語彙事典データベースの作成を継続。
(3)アラビアンナイト研究書誌情報の収集と文献目録の作成を継続。
(4)日本招来中東関連文化財目録の作成を継続。
2.アラビアンナイト研究のための現地調査:
(1)中東イスラム世界の語り物芸・伝統芸能の社会的機能とその現代的変容に関する現地調査。
(2)漫画やアニメを中心にアラビアンナイト視覚イメージ分析のための画像・映像資料等収集。
(3)フランスにて千一夜の翻訳者として名高いマルドリュスの遺品のカタログ化作業を実施。
3.特別展示の開催:
アラビアンナイトの日本における受容をテーマとし、ガランによるアラビアンナイトの仏訳300周年を記念して特別展示「アラビアンナイト大博覧会」(平成16年9月9日~12月7日 於・国立民族学博物館)を開催した。
4.国際会議への参加と発表:
ガランによるアラビアンナイトの仏訳300周年を記念して開催された国際会議(パリ)に参加し、発表をおこなった。

2003年度活動報告

中東イスラム世界におけるアラビアンナイト形成史をたどりつつ、この物語集がイスラム教徒民衆の世界観を反映するようになった経緯、彼らの異文化理解に与えた影響を確認し、欧米・日本におけるアラビアンナイトの受容、当該地域の文化的・社会経済的状況下における変容、中東イスラム世界に対するイメージ形成に及ぼした影響を分析し、欧米・日本における中東イスラム世界イメージの形成過程におけるアラビアンナイトの役割を明らかにするために以下の研究をおこなった。
1.アラビアンナイト研究基礎データ作成の継続:
(1)海外共同研究者Sironval氏(国立民族学博物館外国人客員教官として平成15年11月~平成16年5月来日)が提供するデータをもとにアラビアンナイト・モティーフ索引の作成を継続。
(2)アラビアンナイト原典電子コーパスに基づくアラブ民衆文化語彙事典データベースの作成を継続。
(3)アラビアンナイト研究書誌情報の収集と文献目録の作成を継続。
(4)日本招来中東関連文化財目録の作成を継続。
2.アラビアンナイト研究のための現地調査:
(1)グローバル化のなかで芸術性の高い舞踊に脱却しようとする動きと、伝統的舞踊に回帰しようとする動きのあるオリエンタルダンスについて、エジプトにてその現代的変容を取材。
(2)漫画やアニメを中心にアラビアンナイト視覚イメージ分析のための画像・映像資料等収集。
(3)フランスにて千一夜の翻訳者として名高いマルドリュスの遺品のカタログ化作業を実施。
(4)日本における中東イメージの展開に関して、アラビアンナイトの挿絵を描いた赤羽末吉らの画像調査。
3.研究会の開催:
アラビアンナイトの日本における受容をテーマとし、ガランによるアラビアンナイトの仏訳300周年を記念して開催する特別展(国立民族学博物館)のための準備の研究会をおこなった。

2002年度活動報告

アラビアンナイトがイスラム教徒民衆の世界観を反映するようになった経緯、異文化理解への影響、欧米・日本での受容および変容、中東イスラム世界に対するイメージ形成に及ぼした影響を分析し、同物語集が欧米・日本における中東イスラム世界イメージの形成過程で果たした役割を明らかにするために以下の研究をおこなった。
1.アラビアンナイト研究基礎データ作成:
(1)海外共同研究者Sironval、El-Shamyの提供データをもとにアラビアンナイト・モティーフ索引を作成。
(2)海外共同研究者Marzolphが編纂中のアラビアンナイト百科事典に基づき、原典電子コーパスによるアラブ民衆文化語彙事典データベースを作成。
(3)アラビアンナイト研究書誌情報収集、文献目録作成。(4)日本招来中東関連文化財目録作成。
2.アラビアンナイト研究のための現地調査:
(1)エジプトで観光産業として生き残ろうとしているシャーイル(部族吟遊詩人)、文化変容をみせているベリーダンス産業の活動を調査。シンガポール・香港・日本におけるベリーダンス文化の現状調査と映像取材をとおして、東アジアにおけるアラブ文化受容とイメージ形成を分析。
(2)中東イスラム世界の異世界イメージ、アラビアンナイト視覚イメージ分析のための画像・映像資料等収集。
(3)アラビアンナイトを翻訳したガランおよびマルドリュスに関して、現地での予備調査実施。
(4)日本における中東イメージの展開に関して、アラビアンナイトの挿絵を描いた蕗谷虹児らの画像調査。
3.研究会開催:
欧米・日本におけるアラビアンナイト受容をめぐり、国立民族学博物館と林原共済会の共催による国際シンポジウム「アラビアンナイトとオリエンタリズム」を開催。同シンポジウムの報告書は、国際的アラブ研究雑誌Journal of Arabic Literature (Brill)の特集号として出版予定。