国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本・中東イスラーム関係の再構築――中東イスラーム地域研究の新地平(2002-2004)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 臼杵陽

研究プロジェクト一覧

目的・内容

これまでわが国において蓄積されてきた中東イスラーム世界に関する研究成果は、それ自体、質の高いものではあったが、分野的にいくぶん偏りがあったのも事実である。とりわけ、政策論的な含意を持った政治・経済研究における蓄積が少なかったことは否めない。また、この分野における「専門的研究」とさまざまな「交流の現場」の間に、十分な協力関係が築かれていないことも大きな問題であった。
以上に鑑み、本研究は、地域研究、援助、外交、ジャーナリズム、ビジネスなど、さまざまな分野で中東イスラーム世界と関わり合ってきたわが国の人材と、中東の諸機関や研究者などからなるネットワークを構築しつつ、今後の中東イスラーム地域研究における「研究」と「現場」の関係がどうあるべきかを具体的に探ることを目的とする。(なお、本研究は、平成9年度から5年間にわたって行われた新プログラム方式による科学研究費補助金研究プロジェクト「現代イスラーム世界の動態的研究」(通称「イスラーム地域研究」)の枠内で立ち上げられたプロジェクト「再考 日本とアラブ」の研究対象を、アラブ地域から(アラブを含む)中東イスラーム世界全体に広げるものである。)

活動内容

2004年度活動報告

「日本・中東イスラーム関係の再構築-中東イスラーム地域研究の地平」は以下のように二つを目的として研究活動を行い、研究成果を達成した。第1は1930年代の日本・アフガニスタン関係に関する史資料のデータベース化である。平成16年度も山口県防府市の尾崎家所蔵の尾崎三雄文書の整理を続けている。故尾崎三雄氏は1935年に農業指導のためにアフガニスタン政府に派遣されて技師である。尾崎文書でとりわけ重要なのは新たに発見された尾崎氏のアフガニスタン滞在時の日誌であり、この日誌の入力作業を継続している。また、アフガニスタンで撮られた写真・画像資料のCD-ROM化の作業も公開に向けて進展した。さらに、蔵書、地図、民具なども系統的に整理して尾崎氏の見た1930年代アフガニスタン像の再構築を進める予定である。
第2は日本・中東イスラーム関係を英米などの旧植民地宗主国との国際比較の視点から再検討するという作業である。そのために平成17年2月5日に「植民地主義を比較する―エジプト、朝鮮半島、イスラエル、日本を事例として」を開催した。植民地主義をキーワードとして、第二次世界大戦前の日本がイギリスによるエジプト支配を朝鮮半島経営に利用しようとした点、また満州への日本人移民とイスラエルのユダヤ人入植の共通性などが議論された。

2003年度活動報告

「日本・中東イスラーム関係の再構築-中東イスラーム地域研究の新地平」の2年目は2003年3月に勃発したイラク戦争とその余波をどのように捉えるかという問題意識に占められることになった。というのも、この戦争が終了して戦後復興がイラク社会における主要な課題として浮上するとともに、日本の積極的な役割と国際的な貢献が政治的、経済的にも期待されるようになったからである。このような状況にかんがみ、本プロジェクトとしては中東イスラーム世界が日本をどのように見ているのかという視角からの議論が極端に少なかったことを念頭に置き、日本が中東イスラーム世界、とりわけ、アラブ世界のメディアにおいてどのように見られるかを議論するために、2004年2月29日、カイロにおいてワークショップ「アラブ・メディアおよび文学からみた日本イメージ」を開催した。ワークショップにおいてはアラブ側からメディア関係者、文学研究者、日本研究者、日本側から本プロジェクト関係者および在カイロ新聞社特派員の参加を得て実り豊かな議論を行った。なお、本ワークショップの記録は来年度、成果として何らかのかたちで公表する予定である。
また、アフガニスタン関連のプロジェクトも今年度も継続された。まず、本プロジェクトが資料整理の対象としている尾崎家文書に関わる進展があった。すなわち、尾崎三雄・尾崎鈴子著『日本人のみた1930年代のアフガン』(石風社)が刊行され、尾崎家の資料の一端が単行本として世に知らしめられたので、本プロジェクトもこの刊行に棹差すかたちでさらに尾崎家との協力関係を強めて、写真などの画像資料のCD-ROM化とノート、メモ類の文書の整理を行ったわけであるが、今後もさらに進めていく予定である。

2002年度活動報告

本科研費研究においてはとりわけ日本と中東イスラーム世界、とりわけ、アラブ世界との関係のなかでも日本経済の安定成長にとって死活的な意味を持つエネルギー開発分野、すなわち、石油開発事業を取り上げて、同事業に関わってきた企業関係者、またその事業を報じてきたジャーナリスト、さらに国家として側面的にサポートしてきた外交官などのインタビューを行ってきた。また、これまでなかなか日の目を見なかった石油開発の関係者の記録を再刊することによって日本とアラブとの関係をより一層広く知らしめることになった。具体的には、今年度、「日本・中東イスラーム関係の再構築」研究会編「日本とアラブ――思い出の記」(1~3)再刊・合冊版、2002年を、これまでほとんど目にふれることのなかった初期における湾岸地域と関係をもった人々のメモワールの再刊が第一の成果である。また、「日本・中東イスラーム関係の再構築」研究会編「日本とアラブ――思い出の記」(4)、2003年をも刊行した。本記録は本科学研究費メンバーがこれまで行ってきた7名の関係者、具体的には、アラビア石油などの石油開発会社、JICA専門家、外務省関係者、元特派員などといった日本と湾岸産油国との緊密な関係を築き上げてきた関係者とのインタビューの記録である。これが第二の成果である。この2つの記録を通じて、日本とアラブとの関係を、石油開発を通じて再構築することになる。またこの2つの成果は、今後の日本のエネルギー政策の人的資源を考える上で貴重な歴史的な資料としてこれからも大いに資することになろう。