国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東南アジア・オセアニア島嶼地域における生業・経済形態の歴史的変遷と実態の解明(2003-2005)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 小野林太郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は対象地域であるボルネオ島やスラウェシ島を主とする東南アジア多島海域とオセアニア地域での考古・民族学的調査の実施を一つの目的としている。具体的には、考古学的研究においては主に動・植物遺存体の分析研究から過去における生業・経済形態の復元を試みる。これに対し、民族学的研究においては主に現在の対象地域に生きる人々の生業・経済に関わる生態人類学的データの収集が挙げられる。得に本研究では遺跡周辺で実践される漁撈活動や農耕と人々の食物消費の実態に焦点を当てている。即ち、本研究はこれら二つの視点による調査・分析を同時に実施することにより対象地域における人々の自然資源利用に関わる生業・経済活動の実態と変遷の歴史をやや長期的な時間の中で把握し、考察するものである。

活動内容

2005年度活動報告

本年度の研究実績としてまず挙げられるのはインドネシア・北スラウェシ州に位置するサンギヘ・タラウド諸島における考古学調査を実施がある。これは前年度に同地域で実施された民族考古学的調査の継続調査として計画されたものである。この調査はジャカルタにあるインドネシア考古研究センターおよびマナド博物館をカウンターパートとして計画されたもので、2005年度には、これまで本格的な考古学調査が実施されてこなかったサンギヘ諸島での発掘調査と豊富な考古遺跡が確認されているタラウド諸島での発掘調査を同時に実施した。また発掘調査と共に遺跡周辺における現在の村民によって実践される漁撈や農耕といった生計活動に関する世帯調査も補助的に行っている。
2005年度に発掘調査を実施した遺跡は、タラウド諸島のカバルアン島に位置する交易・歴史時代に相当する開地遺跡群とサンギヘ諸島の大サンギヘ島に位置する岩陰遺跡である。これらの発掘調査では大量の貝類遺存体・動物遺存体・土器片を含む豊富な遺物が収集された。これら出土遺物の詳細な分析は現在も進行中であるが、発掘調査の概要と出土した土器片を対象とした胎土分析による成果の一部は既に投稿論文として発表した(現在、印刷中)。
また11月から12月にかけてはミクロネシア連邦のヤップ諸島に位置するファイス島にて漁撈・農耕活動に関する民族考古学調査を実施した他、同島内で実施された考古学調査に参加し、多くの遺物を収集した。これらの出土遺物は現在、国立民族学博物館に保管されており、分析中である。
この他、2004年度にマレーシアのサバ州で行った調査成果の一部を国際学会にて発表した。

2004年度活動報告

本年度の研究実績としてまず挙げられるのはマレーシア・サバ州における実地調査の実施がある。これは2003年度にボルネオ島サバ州東岸に位置するセンポルナで実施された生態人類学的調査の継続調査として計画されたものである。この調査は6月8日から7月4日の約1ヶ月に渡って実施され、昨年度の調査では十分な滞在期間が取れなかった村落での世帯調査と3~5日間単位における調査村落での食料摂取調査を行った。
また7月10日~9月12日にかけてはインドネシア・北スラウェシ州に位置するサンギヘ・タラウド諸島における考古学調査を実施した。この調査はジャカルタにあるインドネシア考古研究センターおよびマナド博物館をカウンターパートとして計画されたもので、2004年度には、これまで本格的な考古学調査が実施されてこなかったサンギヘ諸島での遺跡踏査と豊富な考古遺跡が確認されているタラウド諸島での発掘調査を実施した。また発掘調査と共に遺跡周辺における現在の村民によって実践される漁撈や農耕といった生計活動に関する世帯調査も補助的に行っている。
2004年度に発掘調査を実施した遺跡はタラウド諸島でも最も古いと推定される旧石器時代遺跡と比較的新しい交易・歴史時代に相当する開地遺跡が挙げられる。発掘の結果、前者の遺跡からは発掘面積6㎡に対し、総計9,465点の剥片石器、27,000gの貝類遺存体、580点の土器片が出土した。これら出土遺物の詳細な分析は現在も進行中であるが、発掘調査の概要と現時点での成果は東南アジア考古学会やオセアニア学会等で発表した。またマレーシアでの調査成果に関しても生態人類学会をはじめとする幾つかの学会・研究会において発表した。

2003年度活動報告

本年度の研究実績としてまず挙げられるのはマレーシア・サバ州における実地調査の実施がある。これは2003年度6月に実施されたマレーシアでの事前調査と11月より3月に渡って実施された実地調査に分けられる。事前調査においては調査地訪問の他にマレーシアでの現地調査に必要となるカウンターパートの選択と交渉および中央政府への申請届けを行った。その結果として10月にマレーシア中央政府より申請許可が降り、11月より本格的な実地調査を開始した。
この調査はボルネオ島サバ州東岸に位置するセンポルナで実施された。またその内容はこの地域に住むバジャウ系住民の資源利用及び経済形態に焦点を当てた生態人類学的調査である。実際にはセンポルナ海域に点在する島々に形成されているバジャウ系住人の村落群から主に3つの村落を歴史的背景、周囲の生態環境、総世帯数、主要生業活動等の差異を考慮して選択し、数週間から一ヶ月に渡って住み込み調査を実施した。この住み込み調査では村内における全世帯を対象とし、各世帯内における家族構成、主要生業活動、経済状況(収入と支出)、資源利用と密接に関わる道具・技術に関する情報および食生活に関する詳細なデータを収集した。その結果、この実地調査では約250世帯からデータを収集でき、主要生業活動および経済状況は各村落の立地条件や歴史背景によってかなりの相違があることが確認されている。
この他の実績としては国立歴史民俗学博物館および国立民族学博物館において主に歴史・民族学的資料を中心とする文献資料の収集がある。また実地調査および文献調査によって得られたデータは本年度購入されたコンピューターを使用して整理・管理されている。