国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

グローバル化時代における海外コリアンのホスト社会への適応と葛藤(2003-2006)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 朝倉敏夫

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究課題の目的は、多様な海外コリアンのあり方を視野に収め、世界諸地域に居住する海外コリアンを比較する研究のための基礎的資料収集にある。それらの資料を用いて、海外コリアンの問題をより一般的な移住、移動、多民族共生などの現代的諸問題に対してアプローチすることができるような理論的フレームの検討、および基礎的なデータベース作成を目的とする。

活動内容

2006年度活動報告

本研究課題の目的は、多様な海外コリアンのあり方を視野に収め、世界諸地域に居住する海外コリアンを比較する研究のための基礎的資料収集である。それらの資料を用いて、海外コリアンの問題をより一般的な移住、移動、多民族共生などの現代的諸問題に対してアプローチすることができるような理論的フレームの検討、および基礎的なデータベース作成を目的とした。
本研究課題の最終年度である2006年度は、これまでの調査研究で得た資料を検討することを主な作業とした。そのために研究班全体で韓国における海外コリアンに関する資料調査および収集をソウルにて行い、また現地の研究者を交えた共同研究会を行った。加えて各研究分担者は、各担当地域(アメリカ、カナダ、ウズベキスタン・カザフスタン、中国、および国内:在日コリアン)に関し、短期間の補足的な調査をおこなった。それらの補足調査の成果を踏まえ、各研究分担者が学会、公的研究会などで発表するとともに、調査研究成果を『国立民族学博物館調査報告69』として公表した。またその一部を『民博通信 118』にも公表する予定である。
基礎的データベースに関しては、昨年まで進めてきた海外コリアンに関する主要文献のリスト化を充実させ、海外コリアン研究の全体像を俯瞰につとめたが、近年、在日コリアン関連の資料・文献が急増し、その内容も多岐に渡っている現状を鑑み、各研究分担者が研究成果を踏まえた視点からの文献解題を作成・編集し、今後の在外コリアン研究を展開する可能性を踏まえた枠組みの見通しを示した。
『民博通信 118』「特集 海外コリアンはどう暮らす」(責任編集 朝倉敏夫)

2005年度活動報告

本研究の第一の目的は、多様な海外コリアンのあり方を視野におさめ、世界諸地域に居住する海外コリアンを比較研究するための基礎的資料の収集にある。そのため研究メンバーは世界各地の海外コリアンについて、それぞれ分担して研究を行っている。
本年度は、グローバル化の中で流動性が高まり、転換点を迎えつつある中国社会に着目し、中国東北部黒龍江省牡丹江市、ハルビン、瀋陽、北京、天津、青島において、中国朝鮮族の村落および都市集住地に関する共同調査をおこなった。中国東北部、北京、天津の中国朝鮮族に関しては、研究代表者の朝倉と研究分担者の岡田、韓とともに、ハワイのコリアン研究をしている洪賢秀が同行し、それぞれの分担地域と比較する視点で調査した。また中国朝鮮族出身で現地の事情に通暁している神戸大学院生の安成浩君が調査を補助した。19世紀末から中国東北部に移住した朝鮮族は農村で集住村を形成していたが、改革開放経済の導入、1990年代の韓中国交回復以後、都市への移住、海外への出稼ぎ労働が拡大し、急速に拡散・流動化している。本年度の調査では、農村の変化と都市部での集住の現状について、観察、聞き取り調査をおこなった。また、近年の現象として、北京、青島などへの韓国企業進出に伴い、現地に移住・定着した新在中韓国人(韓人)がコミュニティを形成しつつあり、これと朝鮮族との相互関係など、新しい現象を把握できた。これに加えて島村は、こうした現状を鑑み、青島での調査を別途おこなった。
林は、昨年度のオーストラリア、シドニーのコリアンタウンにおける共同調査の補充・追跡調査をおこなった。
研究協力者の李愛俐娥は長年継続しているカザフスタンにおける調査を今年度も実施し、資料収集をおこなった。
在日コリアンを担当している島村を中心に研究メンバー全員で、福岡の在日コリアン居住地での調査を実施し、西南学院大学において検討会を実施した。また、最終的な成果の一つとなる、在外コリアン関連研究の文献リストと解題の作成に向けて、朝倉と岡田は韓国での在外コリアン関連の文献資料収集をおこない、メンバー全員が具体的な作業に着手した。

2004年度活動報告

本研究の第一の目的は、多様な海外コリアンのあり方を視野におさめ、世界諸地域に居住する海外コリアンを比較研究するための基礎的資料の収集にある。そのため研究メンバーは世界各地の海外コリアンについて、アメリカ、中国、日本などの諸地域において、それぞれ分担して調査研究を継続し、また当該地域の文献資料(行政資料、統計、新聞など)の収集を行った。具体的には、中国朝鮮族担当の岡田は中国・黒龍江省、在日コリアン担当の島村は福岡市と北九州市、林は華僑の移動ルートに沿って流動化、拡散する新しいコリアン移民について、神戸市およびフィジーにおける現地調査を行った。フィジーには、木材輸入業、水産業、および投資のための韓国からの移民が、約1,000人居住している。林は、首都のスパと国際空港のあるナンディにおいて調査し、韓人録などの資料を収集し、コリアン移民についての新しい知見と資料をもたらすような大きな成果をあげた。また、文献資料の収集のため、林と島村は韓国に、岡田は東京に出張し、大学図書館、国会図書館(日本、韓国)における資料調査をおこなった。
なお、前年度研究分担者の韓景旭は在外研究のため、本年度は不参加である。また中央アジアの高麗人研究をしている李愛俐娥(同志社大学研究員)とハワイのコリアン研究をしている洪賢秀(科学技術文明研究所研究員)に、研究協力者として、本研究の遂行上必要な専門知識を提供し、あわせて調査研究に加わっていただいた。
研究分担者による個別の調査研究に加え、本年度は、近年になってコリアンの移民が急増しているオセアニア・太平洋地域に着目し、オーストラリアを共同調査した。オーストラリアには、研究代表者の朝倉と研究分担者の岡田とともに、李愛俐娥と洪賢秀が同行し、それぞれの分担地域と比較する視点で調査した。オーストラリアのシドニーには、30年前からコリアンが移住し始めたが、近年その数が急増し、郊外にはコリアンタウンが形成されている。このコリアンタウンを踏査するとともに韓人会、教会、韓国系新聞社などで聞き取り調査を行った。
また、年度末に、共同研究会を研究代表者が所属する国立民族学博物館にて開催した。この研究会では、今年度の成果の検討、来年度の研究計画の打ち合わせに加えて、昨年度、今年度収集した基礎資料を整理、分析するための、予備作業として収集文献のリスト化、それぞれの資料や文献に関する解説、解題などのデータベースのひな形作成をおこなった。

2003年度活動報告

本研究の第一の目的は、多様な海外コリアンのあり方を視野に収め、世界諸地域に居住する海外コリアンを比較研究するための基礎的資料の収集にある。そのため研究メンバーは世界各地の海外コリアンについて、それぞれ分担して研究を行っているが、本年度は、本研究の初年度にあたり、またハワイへの移民100周年にあたるため、次ぎの2点に関し、共同調査を行った。
1つは、2003年8月下旬に、移民100周年を迎えたハワイにおいて、その記念事業に関わった「ハワイ大学韓国学研究所」のエドワード・シュルツ教授、「駐ホノルル大韓民国総領事館」の丁完聲副総領事へのインタビューを行った。また、ホノルル市内における韓国人経営の店、1980年代以降に移民してきた韓国人商人を対象にして調査を行った。
2つは、2004年2月に、韓国において海外コリアンへの研究・支援を行っている「在外同胞財団」において、資料の収集を行うとともに、同財団の李光奎理事長との意見交換を行い、今後の研究協力関係を結んだ。また、沿海州のコリアンを支援するNGO団体である「東北亜平和連帯」を訪れ、その活動状況について調査した。
このほか、本研究テーマに関連する文献リストの作成に着手した。