国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

コイネー・フルフルデ語による都市居住マンダラ山地出身者の民間説話研究(2003-2004)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 江口一久

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的はコイネー・フルフルデ語をつかって、都市に居住する北部カメルーン・マンダラ山地出身者の民間説話を調査研究することにある。そもそも、コイネーとは、ヘレニズム時代に、アフリカから小アジア地方までつかわれたギリシャ語で、古典ギリシャ語にくらべ文法の簡略化されている。それにならって、北部カメルーンは、「コイネー・フルフルデ語」とよばれる。
マンダラ山地には、約三十種類ほどのチャド語系の言語をはなす民族がすんでいる。チャド語系の諸言語はどれも難解で外部者の理解をこばんできた。しかしながら、カメルーン独立後、平地民との交流のおかげで、この山地民の多くは、コイネー・フルフルデ語をこなすようになってきた。本研究では、そのコイネー・フルフルデ語を駆使して、都市居住者の民間説話をコイネー・フルフルデ語で調査し、資料集積し、それらを既存の母集団の民間説話と比較しようとしている。
できれば、これ並行して、既収集のチャド諸語の原語民間説話資料を整理し、比較可能なものにしておきたい。現地調査では、チャド諸語をはなす人びとの民間説話のインベントリーの作成に力をいれたい。

活動内容

2004年度活動報告

国内においては、昨年度収集された資料を文字化し、モチーフ、話型などの比較をおこなった。同時に、すでに出版されているマンダラ山地民の社会・文化にかかわる研究論文などをよみ、今後の問題点をあきらかにした。「コイネー・フルフルデ語」のテキストの英文のレジュメを作成し、比較可能な資料にした。そのあと、北部カメルーンのフルベ族の民間説話との比較研究をした。その比較資料をもって、フィールドにのぞんだ。フィールド調査は、雨期明けの一月から二月にかけておこないた。フィールド調査では、西部のマンダラ山地民、すなわち、マンダラ、マダ、ムヤン、ズルゴ族などの集中する、トコンベレ、モラ、マルアなどで、インフォーマントから直接民間説話の収集をおこなった。かれらのフルフルデ語学習歴をしるために、民間説話と同時に語り手たちのライフヒストリーもあつめた。
北部カメルーンの都市だけでなく、マンダラ山地民の出身地の村落なども、物質文化や精神文化をしるために、訪問調査をおこなった。とくに、イスラム化されていないかれらの村落には、さまざまな民間信仰につかわれる事物があるので、そういったものには、注意をはらった。
帰国後、いくらがんばっても、内容を理解するのは、困難だから、収集した民間説話は、現地において、文字化の一歩手前の状態、すなわち、外部のものには、わからない表現、とくに、歌などの徹底的な聞き取りをおこなった。
いままで、収集整理された資料を報告書としてまとめて、国立民族学博物館調査報告として、出版の準備をすすめている。
この研究で得られた資料は、データ・ベースとして、インターネットで公開する予定である。

2003年度活動報告

本年度は、国内資料をつかった文献学的調査とカメルーン北部におけるフィールド調査をおこなった。国内資料としては、すでに収集されている北部カメルーンのマタカム族、ムヤン族、ズルゴ族、マダ族などの録音資料と出版物があげられる。録音資料は文字化できるものは、文字化をこころみた。文字にできないものは、現地のフィールドワークのさい、文字化をした。すでに、国内で文字化したものについても、再度インフォーマントとともに、内容把握と正確な記述を追求した。マンダラ山地の民族は、コイネー・フルフルデ語が上達したといっても、植物名、動物名などについては、なかなか適当なフルフルデ語の単語をさがすことができないのが、常であるので、動植物名の同定には、さらに研究をつづけなくてはならない。
今回の調査で感じたことは、マンダラ山地民のコイネー・フルフルデ語と都市居住の若年層のフルベ族のコイネー・フルフルデ語が酷似していることと、公用語のフランス語の影響が無視できないということである。
昔話の内容からすると、やはり、山地民の語る物には、都市居住のフルベ族のあいだではきけないものがいまでも多数あるということがいえる。今回、継続調査をしてきたマタカム族のインフォーマントが、あらたな昔話を数十話かたってくれた。合計すると、一人で、三百話ほどかたったことになる。昔話が都市居住者のあいだでも、綿々とかたりつがれていることの証左となる。都市居住者の民族アイデンティティーは、なかなか外部のものには、わからないが、かれらのネットワークにのることができれば、これからの調査も容易になるとかんがえられる。
今回つよく感じたのは、山地民の昔話のキーワードが、「肉」、「イヌ」、「変身」などであるということをつけくわえたい。