国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

オーストロネシア諸語における代名詞の数の体系の歴史的発達経緯の解明(2003-2005)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 菊澤律子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

東南アジア・太平洋及びマダガスカルで話される「オーストロネシア諸語」は、単一の言語、すなわち、オーストロネシア祖語から発達したと考えられているが、現在では、音韻・文法・語彙ともに多様な特徴を示す。代名詞の数の体系についても例外ではなく、数の区別がなく人称の対立のみが見られるもの(インドネシア諸語の一部)、単数・複数の二数対立を持つもの(フィリピン諸語の一部など)、双数が加わった三数対立をもつもの(ポリネシア諸語など)、さらに少数(または三数)を含む四数対立を持つもの(フィジー語など)、それ以上の数の区別をするもの(ヴァヌアツ諸語など)など、さまざまである。本研究では、このように多様なオーストロネシア諸語の代名詞の数の体系について、その史的変遷の経緯と動機付けを明らかにすることを目的とする。具体的には、 1)これまでに再建された各下位祖語それぞれの代名詞について、近年入手可能になった新しい言語データを加え、上位祖語との比較という視点を加味した上で、必要であれば修正を加える。 2)オーストロネシア祖語から現在みられる諸言語までの変化を、それぞれの下位言語群について示す。 3)2)に基づいて、数体系の変化とそれに伴う形態変化のパターンを類型論的に分析し、オーストロネシア諸語全体に起こった数の体系の変化の流れと、それに関与した言語学的特徴を明らかにする。

活動内容

◆ 2005年4月より東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所より民博へ転入

2005年度活動報告

まず、これまでに再建された各下位祖語それぞれの代名詞について、近年入手可能になった新しい言語データを加え、上位祖語との比較という視点を加味して再検討した。次に、オーストロネシア祖語から現在みられる諸言語までの変化をそれぞれの下位言語群についてまとめ、その結果に基づいて数の体系の変化とそれに伴う形態変化のパターンを類型論的に整理し、オーストロネシア諸語全体に起こった数の体系の変化の流れと、それに関与した言語学的特徴を考察した。その結果、オーストロネシア諸語における数の発達は、高砂外オーストロネシア祖語(Proto-Extra Formosan)の時点で存在したパラダイムのギャップを整合化する方向へ三つの異なる発達をとげた結果、現在のフィリピン・タイプ、マレー・タイプ、オセアニア・タイプが生まれたことを示した。さらに、オセアニア・タイプでは、諸言語において動的な数の変化がみられていること、その理由は、他の二タイプと異なり、結果として発達したパラダイムが安定したシステムになっていないためであることを示した。