国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

映像人類学とアーカイブズ実践――活用と保存の新展開(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 大森康宏

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究では、映像人類学における映像制作と作品資料の分析を通じて、その活用のための検索システム、保存そして知的財産にかかわる制度の構築をめざすものである。それによって生じてくるアーカイブズ化に向けた映像制作の方法論の研究も進める。
以上の目的のために海外の映像アーカイブズを実地調査し、国立民族学博物館の映像資料と比較研究しながら、アーカイブズに関する創造的なモデルを確立する。

活動内容

2017年度実施計画

1)本年度は最終年のため、国立民族学博物館の映像資料を活用して、管理方法とデータ(デジタルおよびアナログフィルム)の長期保存法等について基本設計を試みる。
2)日本以外の国のデジタル映像の保存と管理の動向については、オランダ、アメリカ、フランスなどを調査し、映像インタビューの制作を試みる。
3)以上の調査結果をもとに、国立民族学博物館のアーカイブズに関する将来構想の映像解説DVDを完成する。

2016年度活動報告

昨年に続き、海外でのアーカイブズの実態調査と映像による記録を実施した。
久保は、民博所蔵映像アーカイブズ資料の保存と利用の両立を図るために、映像資料の一部について、デジタル化作業を行うとともに写真資料保存用フォルダーを購入した。これら資料は、将来的に他の映像資料と合わせて、総合的な映像データベースとして構築し、研究利用などに供する予定である。
園田は、パリ郊外のフランス国立フィルムセンター収蔵庫を訪ね、フィルム保存の最新情報を聞き取り調査し、加えて大森と協力してデジタル映像に関するインタビューを実施した。
村尾はイギリスの大英博物館、オランダの熱帯博物館およびライデンの国立民族学博物館、ドイツ・ケルンにある民族学博物館にて映像とアーカイブズに関する調査、資料収集を行った。
大森はフランスでのアーカイブズ化に関する聞き取りインタビュー映像収録を実施すると共に、クレルモンフェランの短編映画祭のデジタル映像保存と活用について調査した。ドイツではラウテンシュトラウフヨースト博物館での大森が制作したフィルムの展示活用に関して聞き取り調査を実施した。

2015年度活動報告

平成27年度は、20世紀にデジタル化された映像の制作と保存(アーカイブズ化)の実態を、主として海外の主な映像研究所やアーカイブズを対象に調査した。日本文化人類学会、国立民族学博物館所蔵の映像資料については資料整理にとどめ、アーカイブズ・データベースの基本設計はその方向性が確定したところで試作することとした。海外調査は、ドイツ、オーストリア、フランスで充実した調査を実施できたが、アメリカ、イギリス、オランダなどはテロ事件などの関係で、情報提供はあったものの、十分な調査に至らなかった。各研究分担者の実績は以下のとおりである。
久保は、データベースの基本設計のためのソフト開発を推進した。映像作品自体の情報、編集に関わる記述、保存媒体の関係記述、映像利用関係を整理しデータ構造モデルを提案した。その有効性を確認のため、デジタル化したものに実験的に適用してモデルの有効性を示した。
園田は、海外の映像研究所アーカイブズとの間で調査に関する交渉および調整を担当し、大森、村尾の現地調査をスムーズに進行させた。
村尾は、大森と協力してドイツ、オーストリア、フランスにて海外調査を実施し、映像制作所などを訪れた。また、映画祭に参加し、アーカイブズ化に向けた制作について調査した。その結果、著作権の自由化という問題が大きな課題であることが明らかとなり、アーカイブズ機関側は制作者と映像利用者の仲介にどこまで関与するのか、管理上の問題を国別または研究所ごとにまとめた。