国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国立天文台水沢収蔵資料から読み解く緯度観測所120周年(2016-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 馬場幸栄

研究プロジェクト一覧

目的・内容

国立天文台水沢VLBI観測所が収蔵する明治・大正・昭和期の未公開資料群(観測機器、観測記録、論文原稿、写真、書簡、会計記録、設計図面、録音テープ等)の調査と緯度観測所関係者への聴き取り調査を通して、明治32 年(1899年)から昭和63年(1988年)まで岩手県水沢で観測・研究を行った「緯度観測所」の歴史を再構築する。
さらに、緯度観測所と同観測所で活躍した科学者・技術者たちに関する展覧会・セミナー・講演会を定期的に開催することで、かつて緯度観測所とその科学者・技術者たちが世界の位置天文学・高層気象学・地球物理学を牽引する存在であったことを市民や研究者に広く発信し、近代科学技術の発展において緯度観測所とその科学者・研究者が果たした役割の再評価を促す。

活動内容

2017年度実施計画

前年度に引き続き、明治大正期の公文書・刊行物等から緯度観測所の敷地・建造物の変遷を調査するほか、国立天文台水沢VLBI観測所で発見したガラス乾板写真の被写体について聴き取り調査を実施する。また、緯度観測所が編綴した『土地建物関係書綴』のデジタル化および翻刻に着手しつつ、次年度予定しているデジタル化作業に備えて『雑部往復綴』の解綴・修復作業にも取り組んでゆく。さらに、本研究のこれまでの成果を発信するため、学会発表、展覧会、講演も積極的に行ってゆく。

2016年度活動報告

緯度観測所における初期の歴史を明らかにするため、(1)国立天文台水沢VLBI観測所収蔵手稿本・印刷物を対象とした明治大正期の主要出来事および職員在職期間の調査、(2)国立天文台水沢VLBI観測所が収蔵する明治大正期敷地・建造物関連史料のデジタル化、(3)明治大正期に在籍した緯度観測所所員についての聴き取り調査を実施した。
緯度観測所の手稿・印刷物を対象として行った明治大正期の主要出来事および職員在職期間の調査では、木村栄による「Z項の発見」以降も所員数の増加は極めて緩やかであったことや、比較的早い時期から地元水沢の女学校出身者および高等小学校出身者が積極的に採用されていたことが明らかになった。
明治大正期に作られた緯度観測所の敷地・建物関連史料は保存状態が悪く、現状のまま直接に閲覧することができなかった。そこで、『国有財産関係書類』等の簿冊3点については高精細デジタル画像を制作し、『土地建物関係書綴』については国立天文台水沢VLBI観測所の許可を得て解綴を施した。これにより、前者は現物を汚損せずに精読することが可能となり、後者は高精細デジタル撮影を行うことが可能となった。
明治大正期の緯度観測所所員については、国立天文台水沢VLBI観測所収蔵ガラス乾板から当時の写真を復元することによって彼らの様子を視覚的に再現するとともに、ご家族や元所員の方々の協力を得て聴き取り調査を行った。これにより、当時は多くの男性所員が詰襟を、女性所員が袴を着用していたことや、初代所長・木村栄がスポーツや芸術活動を通して所員とその家族および市民の交流を図っていたことなど、公的記録には記載されていない緯度観測所の日常が明らかになってきた。
これらの成果を図書館総合展、国際日本学コンソーシアム、日本測地学会特別展、奥州宇宙遊学館特別展・講演会、『国立天文台ニュース』で発表したところ、研究者や市民から好意的な評価を得た。