国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

世界の開発援助機関と援助活動に関する文化人類学的研究(2005-2008)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 田村克己

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、世界各国の開発庁や国連機関、国際的なNGOやNPOとそれらの援助活動を調査することを目的としている。すなわち、アメリカ、イギリスなど世界各国の開発庁、ワールドバンクや国連環境計画などの国連機関、グリーンピースなどの開発支援NPO・NGOの目標、基本方針、開発援助プロジェクトとその実際の活動、文化人類学など社会科学が開発援助プロジェクトの立案・実施・事後評価において果たす役割を調査し、比較する。さらに、現地の開発援助活動やそれらの諸影響を現地で調査し、個々の開発援助機関を検討することにより、より妥当な開発援助のための提言を行う。

活動内容

2008年度活動報告

平成20年度は、海外調査を実施するとともに、これまでの成果のとりまとめと成果を公開するために一般公開のシンポジウムを開催した。(1)田村克己は、2009年3月15日から3月22日までベトナムのホーチミン市においてJICA南部事務所や人材センターなどで開発援助に関する聞き取り調査とニャチャンにおいて文化遺産の保存についての調査を実施した。(2)松園万亀雄は、2008年8月11日から8月25日までケニアにおいてケニア医学研究所、JICAケニア事務所、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター、キシイ町において援助活動に関する調査を実施した。また、研究協力者の石田慎一郎は、2008年7月28日から8月28日までケニア・ナイロビ市、メル町、マウア町、キシイ町において開発援助機関およびその活動についての調査を実施した。(3)関雄二は、2009年2月21日から3月7日までユネスコが認定した世界文化遺産であるペルー国ワラス県チャビン・デ・ワンタル遺跡の社会的活用について、遺跡周辺の住民や地方自治体に対して聞き取り調査を行い、遺跡を管轄するペルー国文化庁が進める文化政策の整合性や軋轢について考察した。(4)岸上伸啓はこれまで収集してきたデータを分析し、各国援助機関による援助活動における文化人類学の役割について研究を進めた。(5)2009年3月8日に国立民族学博物館において日本文化人類学会と共催でこれまでの研究成果を報告し、今後の実践人類学的研究を考える目的で「人類学の挑戦―これまでとこれから」を開催した。(6)これらの調査や分析、シンポジウムを通して、日本の場合とは異なり、海外の開発援助機関は文化人類学や文化人類学者を援助プロジェクトのための事前調査や立案、評価において活用していることが判明した。日本の文化人類学者が開発援助などの実践にいかに参与していくことができるかは今後の大きな課題である。

2007年度活動報告

平成19年度は、グアテマラ、カンボジア、ケニアにおいて実施されている開発援助とその諸影響について現地調査を行うとともに、英国の研究・教育機関と援助機関における調査研究・教育・実践に関する調査を実施した。さらに成果の1部を出版した。
関雄二は、2008年2月27日から3月9日までグアテマラにおける和平協定後の平和構築活動の一環として虐殺資料館を建設したNGO組織にインタビューを行い、プロジェクト遂行上、人類学的な知識の利用が可能かどうかについて研究した。
田村克己は、2008年3月15日から3月24日までカンボジアにおいてJICA等の事務所の活動および保健プロジェクトの現場を調査した。あわせてアンコールワット遺跡の文化財保存に関する援助プロジェクトについて調査を実施した。
研究協力者の石田慎一郎は、2008年1月12日から2月3日まで、ケニア共和国イースタン州メル・ノース県において開発NGO、セルフヘルプグループに関する調査を実施した。さらに国際NGOハビタット・フォー・ヒューマニティによる住宅建設支援事業にについて調査成果を取りまとめた。
岸上伸啓は、2007年10月28日から11月4日まで英国のサセックス大学開発研究所、ケンブリッジ大学社会人類学部、英国開発庁において英国における国際協力に関する研究・教育・実践に関する調査を実施した。
松園万亀雄は、昨年度までの成果をとりまとめ、国際医療保健協力とアフリカにおける人間開発に関する編著を2冊刊行した。また、研究代表者と研究分担者は、2007年12月1日から2日に国際ワークショップ「オランダの社会研究所とNGOおよび世界銀行の国際協力」を実施した。その成果の一部は、民博のホームページに掲載した。
上記の調査研究活動の結果、国際協力の現場や教育において文化人類学の知見や方法を有効に活用することが必要であるとの認識を得た。

2006年度活動報告

平成18年度は、ケニア、グアテマラ、タイ、ベトナム、ミャンマーにおいて実施されている開発援助とその諸影響について現地調査を行うとともに、オランダ、ベルギーの開発研究所と援助機関の教育・研究活動や開発活動に関する調査を実施した。
松園万亀雄は、2006年8月7日から21日までケニア共和国におけるケニア医学研究所を中心に日本のODAによる医療援助事業の実態に関する現地調査を行った。石田慎一郎(研究協力者)は、2007年2月8日から2月24日までケニア共和国における開発援助NGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」による住宅建設支援事業に関する調査を行った。
関雄二は、2007年2月18日から3月4日までグアテマラにおいて文化政策や観光開発に人類学者がどのように係わっているかに関する実態調査を行った。
樫永真佐夫(研究協力者)は、2006年10月29日から11月24日までベトナムとタイにおいてソンダーダム建設が黒タイ村落生活に及ぼす諸影響に関する調査を行った。
田村克己は、2007年3月23日から3月31日までベトナムとミャンマーにおいて博物館などの文化開発の現状に関する調査を行った。
岸上伸啓は、2006年11月28日から12月7日までオランダの外務省開発部や社会開発研究所、ベルギーの開発協力庁などにおいてオランダとベルギーの開発援助および開発援助研究に関する調査を行った。 また、研究代表者と研究分担者は国際シンポジウム「ノルウェーの開発協力」を2006年11月23・24日に開催した。その成果の一部は、民博のホームページで公開した。
上記の現地調査とシンポジウムの結果、開発援助の計画や実施において文化人類学・社会学の知識や視点を活用する必要性が再認識された。
国際シンポジウム『ノルウェーの開発協力:ベルゲン大学、クリスチャン・マイケルセン研究所、NGO』

2005年度活動報告

田村と樫永(研究協力者)は、ベトナムにおける開発援助活動の現状について予備調査を実施し、問題点の明確化を図った。
関は、グアテマラにおいて各国援助機関(EU、スペイン、イタリア)やNGO、先住民団体を訪問し、内戦終結後の開発援助、とりわけ1996年の和平協定以降進められてきた人権、先住民の権利に関わる開発援助の現状、ならびに当該事業における人文社会科学の役割についてインタビュー調査を実施した。
石田(研究協力者)は、ケニアにおけるNGOの援助活動に焦点をあわせ、プランによるフォスターペアレント事業と給水事業、ならびにハビタット・フォー・ヒューマニティによる住宅建設支援事業の現状に関する調査を実施した。
岸上は、カナダのモントリオールにおける都市在住のイヌイットによるコミュニティー形成および開発に関する現地調査を実施した。また、ノルウェー開発協力庁、ベルゲン大学開発研究所および人類学部、クリスチャン・マイケルセン・インスティチュート、ドイツ技術協力公社(GTZ)において、開発の基本方針や開発における社会科学(者)の役割に関する調査を実施した。
松園は国際開発銀行において、岸上は国際協力機構において、開発援助に関する研究およびワークショップ開催について意見交換を行い、国立民族学博物館にて、世界銀行とカナダ開発協力庁の開発援助活動における社会科学(者)の役割に関する国際ワークショップを実施した。これらの現地調査やワークショップから、各国の開発援助機関やNGOによる開発援助活動において人文社会科学的な知識が十全に活用されていない現状が明らかになり、有効活用による事業改善の可能性と、それに向けて取り組むべき課題を確認した。