国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

モンゴルに関する画像記録を用いた地域像の再構築(2017-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 小長谷有紀

研究プロジェクト一覧

目的・内容

中央アジアおよびチベット・モンゴルを含む内陸アジアに向けて、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパやロシアからキリスト教宣教師や学術調査隊など多様なエクスペディションが実施された。これらのエクスペディションは、一般向け旅行記とは別に、学術的価値をもつ膨大な資料を残しており、現在もなお各国で資料整理が進められている。
本研究は、こうした整理にあたっている各国の研究者たちとともに国際共同研究のためのプラットフォームを構築し、これまでエクスペディション資料に関して、言語別、目的別、分野別に整理されてきた分断的状況を統合したうえで、モンゴルに関する画像記録に焦点を絞り、資料横断的に主題別に分析する。これにより、まずプレ社会主義期を可視化し、これまでの地域像の源泉である社会主義期およびポスト社会主義期に加えて、プレ社会主義期からポスト移行期を迎えた現在までの統合的な地域像を再構築する。

活動内容

◆ 2018年4月より転入

2020年度実施計画

毎年のように日本モンゴル学会の春季大会および秋季大会の日程に応じた研究会を行うことができないと予想される。また、海外調査についても新型コロナ感染対策のため、直ちに実現することは困難であると予想される。そのため、本年度は、前半期において、もっぱら、論文の執筆活動に当たる。
1)これまで国別に行ってきた調査の諸成果を統合し、総合的な取りまとめの論文「学術探検史」ないしは「写真史」を執筆する。
2)これまで情報を集積してきた写真コレクションを用いて、コンテキストの分析手法もしくはコンテンツ分析の事例について論文を執筆する。
後半期に海外での資料調査を兼ねたワークショップが可能になり次第、速やかに実施できるよう、事前にオンライン会議を実施する。国内の研究分担者間で実施するだけでなく、海外の研究協力者間でもオンライン会議を試みる。とりわけ、2021年度に国際共同展示を実施するための具体的なプランを作る。
なお、2020年11月に予定されている「スウェーデン・モンゴル・ミッショナリーの研究」(桜美林大学バイカル教授)の国際シンポジウムを遂行できるよう宣教師エリクソン氏による民族誌的写真の分析に協力する。
また、鳥取大学乾燥地研究所と共同で予備的に開始した「写真から見た自然環境の変化」の研究を本格化させる。

2018年度活動報告

19世紀から20世紀初頭におけるモンゴルへのエクスペディション資料とりわけ画像コレクションについて、各国で整理にあたっている研究者たちと、国際共同研究を推進するための体制をさらに整備し、具体的な写真コンテンツの分析を開始した。
まず、日本モンゴル学会の日程に合わせて打ち合わせを行い、最大の資料保有機関が集中するサンクトペテルブルグで国際ワークショップを開催することに決め、同ワークショップを12月にコズロフ博物館で開催した。同ワークショップでは、写真1点ずつに対してタグ付け作業を行なった事例をもとに、タグ付け方針をチーム全体で共有することができた。また、コズロフが地理学者として自然環境に関する写真が大量に保管されていることを受けて、植生の長期的な変化を写真から読み解く試みを提示し、今後、別途、プロジェクトを形成することとなった。さらに、写真の撮影技術史という観点から写真内容を検討した結果、それぞれの写真コレクションは、撮影者の意図に加えて、当時のカメラの技術的特徴が反映されていることを具体的に了解することができた。
同ワークショップに先立ち、スウェーデンにおいて現地調査を行い、スウェン・ヘディン学術調査隊ならびにスウェーデン国教会の宣教師エリクソンの記録写真について、整理にあたっているアーキビストたちとの共同研究体制を構築した。とくにミッショナリーは長期滞在型であるため、その記録は民族誌に他ならない。これについては別途動いている限定的テーマのプロジェクトとの協業の成果でもある。また、蒋介石とともにモンゴル貴族が亡命した台湾には資料が運ばれたため、アジアにおけるモンゴル研究中心の一つであり、写真資料について調査したところ、蒙蔵委員会の廃止とともにかなり失われていることが判明した。
2年目として、初年度に作成したHPについて、検討結果を受けて大幅に刷新し、情報を大いに充実した。