国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生理用品の受容によるケガレ観の変容に関する文化人類学的研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 新本万里子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、「トランスナショナリズム(Transnationalism)」を含む従来の移民研究における分析視点を補い、移民が出身先の家族や友人と関係を継続することや、出自の国家・民族を基盤として関係する側面だけでなく、移住先において、状況に応じて、移住先社会のマジョリティや他の移民と関係を構築することを明らかにする。具体的には、京都市・東九条地域において日本人、在日コリアン、さらにフィリピン人移住者が関係を構築する過程を焦点とする。これらの動向に注目することは、日本国内における、日本人と複数の出自の海外移住者が関係を形成する研究の前進となる。また、海外のフィリピン人移住者研究、在外コリアン研究にも発信し、フィリピン人移民、在外コリアンそれぞれが同胞以外の人びとと関係する過程に注目するという新しい視点を導入する。

活動内容

◆ 2018年4月より転入

2020年度実施計画

本科研による研究は2019年度を最終年度とする予定だったが、2020年度までの期間延長を申請し承認された。2020年度は、2019年度に積み残した研究計画を実施する他、次の研究にむけて計画を立てたい。
具体的には、国際学会で発表をするほか、書籍出版の準備を行う。また、新型コロナウィルス感染拡大防止の状況にもよるが、2019年度に計画していた補足調査を実施したい。この他、本科研の内容を通文化比較研究に昇華するため、他地域をフィールドとする研究者と共同研究の場を持ちたい。

2019年度活動報告

2019年度は、研究のとりまとめの年度として、補足調査を行うことと研究成果の公表を行うことを計画していた。
補足調査は、2020年3月にパプアニューギニアの東セピック州と東部高地州で実施することを計画していたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のために渡航が難しくなり、次年度に持ち越した。
研究成果の公表としては、サゴヤシ学会第28回講演会(2019年5月 於:立教大学)、日本文化人類学会第53回研究大会(2019年6月 於:東北大学)、国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会(2019年11月 於:東京大学)において口頭発表を行った。このうち、サゴヤシ学会第28回講演会での口頭発表は、サゴヤシ学会第28回講演会優秀発表賞を受賞した。また、日本文化人類学会第53回研究大会での口頭発表は、分科会「グローバル化時代に月経はどう観られるのか―ケガレ・禁忌・羞恥」での発表であり、この分科会メンバーと共に、次年度以降の研究を計画し、書籍の出版も予定している。国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会での口頭発表の内容は、国際開発学会の学会誌『国際開発学会』28(2)に、論文「パプアニューギニアにおける月経衛生対処に関わる教育と女子生徒たちの実践―月経のケガレと羞恥心をめぐって―」として掲載された。
この他、研究成果の公表として、2019年度は国際学会での発表と書籍出版の準備も計画していたが、いずれも次年度に持ち越しとなった。

2018年度活動報告

本研究は、生理用品の受容による月経のケガレ観の変容を、ジェンダーの視点から文化人類学的に考察することを目的としている。
 平成30年度は、パプアニューギニアの農村部と都市部において、生理用品へのアクセスと学校教育の影響、NGOによる衛生指導に関する調査を行った。また、首都ポートモレスビーでは、生理用品のほか、生理用品の宣伝媒体となっている雑誌、新聞、薬局のチラシ、ポースター等を収集した。平成30年度の研究実施計画では、生理用品を供給する企業によるイメージ戦略についても研究する予定だったが、調査の結果、パプアニューギニア国内で販売されている生理用品は、現在のところすべて輸入品であり、輸入品を販売している業者による販売活動において、生理用品に関するイメージ戦略には力が入れられてはいないと考えられた。また、農村部では雑誌等が流通していないこともあり、月経にまつわる文化的側面への影響は、現時点では、宣伝活動による企業のイメージ戦略よりも、むしろ実質的な生理用品の流通や、学校とNGOによる衛生教育が関わっていると考えられた。日本など先進国では、企業によるイメージ戦略が月経にまつわるイメージの転換に果たした役割が大きかったことと比べると、月経にまつわる慣習に影響を及ぼす要因の違いとして比較しうる資料となったと考えられる。東セピック州の調査地については月経にまつわる既存の社会的慣習についての調査をほぼ終えており、生理用品が普及し衛生教育が行われているという現在的な状況のもとでの、月経をめぐる女性たちの対応を明らかにできると考えられる。