国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

三線が引き出す社会関係、価値、感情――大衆楽器が人びとに与える効果の研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 栗山新也

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、沖縄や沖縄の移民・出稼ぎ地で継承されてきた三線が、人びとに対してどのような効果を与えてきたのか明らかにすることを目的とする。具体的には、三線がどのような社会関係を媒介してきたのか、またどのような価値や感情を引き出してきたのか明らかにする。そのために、①ハワイの沖縄系移民の子孫が所有する三線の調査、②関西(大阪・兵庫)、関東(東京・神奈川)の沖縄出身者が所有する三線の調査、③沖縄の古典音楽・民謡(沖縄本島・八重山)の師匠が所有する三線の調査、を実施する。

活動内容

2020年度実施計画

今後は、新型コロナウイルス感染拡大の影響からインフォーマントに直接接触する調査は難航すると推測される。これを踏まえ以下の作業を進めていきたい。
(1)関東や関西、東海などの地域の三線の所有者の聞き取りを分析する。(2)三線に関する記述が残る書籍や新聞記事を収集・分析する。(3)三線職人からの聞き取りを分析する。(4)他の楽器と比較しながら、三線の楽器として特徴、あるいはモノとしての特徴を明らかにする。

2019年度活動報告

本研究は、沖縄や沖縄の移民・出稼ぎ地で継承されてきた三線が、人びとに対してどのような効果を与えてきたのか明らかにすることを目的とする。具体的には、三線がどのような社会関係を媒介してきたのか、またどのような価値や感情を引き出してきたのか明らかにする。
当該年度は、関東、関西、東海地区の三線の所有者や三線店などに対して聞き取り調査を進め、三線製作によって媒介されるネットワークや三線が人から人へと継承される過程でどのような価値や感情が付与されるかについて明らかにした。
 三線所有者への聞き取りについては、それぞれの芸能活動の歴史について明らかにしながら、三線にどのような人間関係が積み重なっているか、また所有者が三線に対してどのような価値や感情を付与してきたのか、その推移を明らかにすることができた。
 三線店での聞き取りは、三線の所有者についての情報や各地域での沖縄芸能関係の団体や芸能活動を行う個人について貴重な情報を得ることができた。また三線製作において形成される独自の人間関係やネットワークについても明らかにすることができた。
 また沖縄で発行されている三線関係の新聞記事の収集をすすめ、三線の由緒・来歴などについての情報を収集した。
 大阪での調査の成果は、七月社より2020年4月に発刊された共著本、久万田 晋・三島 わかな編『沖縄芸能のダイナミズム──創造・表象・越境』に論文「三線に積み重なる価値と人間関係―大阪の事例から」として掲載された。

2018年度活動報告

本年度はの目的は、関西(大阪・兵庫)、関東(東京・神奈川)の沖縄出身者が所有する三線の調査を行うことだった。
大阪市、尼崎市を中心とする関西、及び東京都や川崎市、横浜市鶴見区などを中心とする関東は、戦前の沖縄からの出稼ぎが集中した地域である。本年度は、出稼ぎの移動に伴って移動した三線が、人びとに対してどのような効果を与えてきたのか明らかにするため、当該地域の沖縄出身者の子孫(二世、三世…)が所有する三線を調査した。
具体的には関東などで調査を行い。師匠が所持する三線について調査し、ア)三線がいかなる人間関係を媒介してきたのか、イ)三線がいかなる価値を喚起してきたのか、ウ)三線がいかなる感情を喚起してきたのかの三点を明らかにした。また三線に関するする文献資料についても収集し分析を進めた。