国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移民の身体ポリティクス:インド舞踊のグローバル化とエージェンシー(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) 代表者 竹村嘉晃

研究プロジェクト一覧

活動内容

2020年度実施計画(今後の研究の推進方策)

令和2年初頭より新型コロナウィルスが世界中に感染拡大したことで、本研究課題の遂行最終年となる令和2年度の研究計画は、当初の予定にある在外研究とフィールドワークが遂行可能であるのか不透明な状況が続いている。外務省が発する海外渡航情報や共同研究の受け入れ先であるシンガポール大学とローハンプトン大学(イギリス)の研究協力者や関係部署との連絡を密にし、期間延長や変更などを含めて実施計画を再検討する。
また本研究課題の全体に関する成果公表として、研究協力者を招聘した国際シンポジウムを年度末に開催する予定でいるが、同様に新型コロナウィルスの感染状況や共同研究者の状況などを考慮しながら、日程調整を行っていく。
これらと並行して、研究成果の一部としてこれまでに公開した研究発表をまとめた論文の執筆を進めていく。
本研究課題においてはインド舞踊のグローバル化に焦点をあてて実演家のグローバルなネットワークと創作活動、シンガポールの文化政策との接合などについて考察してきたが、インド系ディアスポラたちのなかでもこうした古典芸術とは馴染みのない人々が受容する芸能文化、なかでも宗教やポピュラーカルチャーの文脈で活動する音楽実演家たちの実態分析が必要であることが課題して浮かび上がってきた。この点については、新たな研究課題として本研究後の研究計画を策定するつもりだが、シンガポールを事例にその動向をできるかぎり把握できるよう努めていく。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

令和元年度は、シンガポール大学人文社会科学部南アジア研究プログラムに客員研究員として籍を置き、共同研究を推進すると共にシンガポールのインド芸能の発展に貢献した個人のライフヒストリー、独立前後の政治動向と芸能との接点、インド系舞踊家たちのグローバルなネットワークや海外との共同制作の実態について文献調査とフィールドワークから解明することを目的に研究に従事した。
フィールドワークはシンガポールのほかに、タイ(2019年5、7月)、スリランカ(同年12月)インド(2020年1月)で短期調査を実施した。そこでは、ASEANにおけるラーマーヤナの受容動向や国際的共同作品の制作過程、スリランカにおけるバラタナーティヤムの受容・表象をめぐる民族間の軋轢、インド系シンガポール人実演家たちのインドでのネットワーキングや公演活動の実態などが明らかになった。
当該年度は、国際学会やシンポジウムで積極的に研究発表を行った年でもあった。2019年7月にタイ(The 45th International Council for Traditional Music World Conference)、10月にアメリカ(The 48th Annual Conference on South Asia)、11月にシンガポール(The 3rd Asian Consortium of South Asian Studies Conference)、12月にスリランカ(UVPA International Research Symposium 2019)で研究発表を行い、参加した海外研究者と意見交換や情報共有、本研究課題における問題点などの助言を得たことはたいへん有益であった。最新の研究動向や概念をどのように本研究の課題と結びつけていくのか、理論的な枠組みの構築が今後の鍵となる。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

執行2年目となった本年度は、共同研究の受け入れ先であるシンガポール大学での研究活動とフィールドワークに多くの時間を費やした。シンガポールでのフィールドワークを順調に進め、その成果を国際学会やシンポジウムなどで積極的に発表し、海外研究者との意見交換や情報共有、ネットワーキングなどができたことと、研究協力者との意見交換や問題意識の共有ができたことをふまえ、本研究の課題の進捗状況は概ね順調に進展している。
今年度の課題として残ったのは、研究協力者と個別での情報共有や意見交換はできたが、プロジェクト全体として枠組みを共有したり、全体を統一する概念の構築や議論の発展が十分に進んだとはいいがたい点である。