国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

大規模災害に関する集合的記憶の物象化・物語化と防災教育(2018-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 林勲男

研究プロジェクト一覧

目的・内容

大規模災害の被災地では、遺構や遺物の保存・公開、モニュメントの建立、被災体験の語り継ぎなど、被災経験を後世に継承していこうとの活動が生まれる。他方、こうした活動は、被災の苦悩や悲痛さを喚起するものとして、反対もしくは距離を置く人びとも存在する。本研究は、大規模災害の集合的記憶を、モノを介して保存・伝承(物象化)したり、言葉により語り継いでいく(物語化)活動をプロセスとして、それぞれの地域社会の動態の中で捉える。具体的には、①1999年の921大地震(集集大地震)の台湾中部被災地、②2004年のインド洋大津波のスマトラ島アチェ州被災地、③2008年の四川大地震の被災地、そして④2011年の東日本大震災被災地で、それぞれの地域専門家を中心に現地調査を実施する。その上で、各被災地において、遺構やモニュメント、語り継ぎ活動が、地域づくりや防災・減災にどう活かされているかを明らかにする。

活動内容

2020年度実施計画

3年目に当たる本年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により研究実施計画に変更が生じる可能性が大きい。それを踏まえた上で、先ず6月までに研究会を開催し、各メンバーの昨年度の研究進捗状況を共有した上で、本年度の研究計画について確認する。特に2020年1月に神戸にて開催された「2020 世界災害語り継ぎフォーラム」に関して主催した分科会以外についてもレビューをおこない、成果としての出版の充実に努める。
個別の調査研究としては、研究代表者の林は、災害記憶の社会化・集合的記憶の形成に関わる事例調査を日本国内で実施する。また、比較のためインドネシアのバンダアチェもしくはカンタベリー地震被災地であるクライストチャーチで調査を予定している。佐藤は、東日本大震災被災地にて、災害遺構とモニュメントに関する調査を実施する。石原は中国の四川大地震被災地とニュージーランドのカンタベリー地震被災地にて、関連する災害遺構の保存とモニュメントの建立の経緯と現状及び博物館や語り部の活動について調査を予定している。定池は台湾にて、921集集地震関連の防災教育に関する参与観察をおこなう。阪本は12月にインドネシアのバンダアチェにて、追悼式典・記念式典についての調査を実施する。ボレーは、インドネシアのアチェ州にて、共同墓地や記念碑、メモリアルに関しての調査を実施する。齋藤は同じくアチェ州にて、「津波観光」に関わるホストとゲスト双方に関しての調査を継続して実施する。
2020年1月に開催された「2020 世界災害語り継ぎフォーラム」の成果は2021年度中に日・英語にて出版する計画であり、その執筆・編集等の作業も実施予定である。

2019年度活動報告

現地調査は次のとおりである。佐藤が高知県にて津波碑に関する調査とデータ分析をおこなった。定池は、台湾921集集地震被災地との比較のため、北海道胆振東部地震被災地で生活復興期におけるコミュニティの変化と防災教育の状況に関する調査をおこなった。インドネシアのバンダアチェでは、齋藤がアチェ津波博物館と発電船博物館の展示と来館者に関して、ボレーがアチェ津波博物館、アチェ市文化観光局にて防災興育活動の現状と今後の展開に関して、阪本が2004年の津波災害犠牲者の追悼式典の変遷に関してそれぞれ調査を実施した。石原は、四川大地震被災地にて災害遺構に関して調査した。林は、房総半島太平洋岸にて元禄大津波の記録としての石碑並びに犠牲者供養行事に関して、文献並びに現地調査を実施した。また、アチェ津波博物館館の展示と防災教育に関する調査と、追悼式典への参与観察をおこなった。
2020年1月24日から25日に神戸で開催された「2020世界災害語り継ぎフォーラム」にて、本科研で分科会「災害遺構と記憶の継承」を主催した。石原が座長となり、林が趣旨説明をおこない、国内から3名、海外から2名が災害遺構について、その保存と防災教育に向けた利用の現状と課題について報告し、ディスカッションをおこなった。また阪本は、「語り継ぎとローカルコミュニティ」の座長の役目を果たした。また、他の研究分担者も全員がこのフォーラムに参加して、これまでの研究成果に基づいて発言し、人的ネットワークの拡充に努めた。このフォーラムの成果は2021年に英日語で刊行予定である。