国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アフリカの無形文化を対象にした民族誌映画の制作による応用映像人類学的研究(2018-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 川瀬慈

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、エチオピアの無形文化を対象にした民族誌映画を事例に、映像を活用した文化保護モデルの構築を目指すことである。近年、無形文化の保護を推進しているUNESCOは、アフリカの無形文化を映像によって記録し活用する方法を推奨している。しかしその記録については、研究者や国際機関が一方向的に行う傾向が強く、現地社会の人々の声が反映されているとは言い難い。さらに、国際機関が掲げる記録・保護すべき無形文化の理念と、地域住民の無形文化に対する認識の間に溝があり、対象地域における映像記録の活用に関する議論が十分に行われていない点が指摘できる。本研究では、UNESCOによる保護すべき「無形文化」について、応用映像人類学的な観点から検討し、今日消滅ないしは著しい変容を強いられているアフリカの無形文化を対象にした望ましい映画制作・活用の指針を示す。

活動内容

2020年度実施計画

研究計画の大きな変更等はないが、オンライン(Zoom)を活用した意見交換、インタビューが予想以上に実り多い情報収集の機会となることが昨年度わかった。今後オンラインを通した研究課題に関連するインタビュー、意見交換をアフリカ現地の研究者、無形文化を担う関係者、さらには同じ問題意識を持つ、各国の研究者と積極的に行っていきたいと考える。

2019年度活動報告

2019年度は、8月にエチオピア北部でのフィールドワークを行い、エチオピアの無形文化を対象にした映像記録に携わる現地の人類学者、民族音楽学者や映像作家にインタビューを行うことができた。そこでは、現地の研究者、関係者による無形文化を対象とした映画制作の目的やアプローチ、撮影・編集における具体的な創意工夫について情報を収集することができた。さらに、彼ら、彼女たちの作品や記録がアジスアベバ、メケレ、ゴンダール、あるいはエチオピア国外の博物館やアーカイブ等でいかに活用されているかについても調べることができた。
2019年度は、研究成果として、研究課題に関連する2本の論文、1冊の編著、そして1本の民族誌映画を公開することができた。さらに、12月に東京において行われた第2回東京ドキュメンタリー映画祭・川瀬慈特集《エチオピアの芸能・音楽・憑依儀礼》において、過去に制作したアフリカ無形文化に関する映画3本を発表し、映像人類学や、アフリカの無形文化に関心を持つ研究者と記録の方法論に関して議論することができた。年度末の新型コロナウィルスの世界的な蔓延による研究計画の若干の変更等はあったが、アフリカ、欧米の研究者とオンラインを通した意見交換を積極的に行い、貴重な情報を収集することができた。今後、これらのデータを分析し、エチオピア、ひいてはアフリカの無形文化記録に携わる各国の研究者の視点や方法論と比較検討し、考察し論文にまとめていきたい。

2018年度活動報告

平成30年度はアフリカ現地でのフィールドワーク、出版、国際会議の企画、実行等、インプット、アウトプット両面を積極的に行うことができた。
まず、8月のエチオピア北部でのフィールドワークにおいて、ティグレイ州メケレで活動を行うゴンダール出身のアズマリ、ムカット・ムルカン氏による演奏活動を映像記録した。特に、結婚式をはじめとする祝祭儀礼の場における地域社会の人々と芸能者の相互行為について詳細に記録できた。今後編集を行い民族誌映画を制作する。
出版関係では、世界思想社より、単著『ストリートの精霊たち』を出版した。本書は、これまで川瀬が民族誌映画による記録の対象としてきたエチオピア北部の芸能者等と川瀬との交流や関係性の変化を主なテーマとしている。平成30年度は、川瀬が制作した過去の民族誌映画の上映と本書の解説を組み合わせる形で、各地で上映、講演活動を繰り広げた。
10月の国際エチオピア学会研究大会(於:エチオピア、メケレ大学)では、エチオピア無形文化の人類学的な映像記録をテーマにした民族誌映画上映プログラムを主宰者として企画、実行した。本プログラムでは、エチオピア、ドイツ、米国、ノルウェーの映像人類学者とともに、互いの学術映像の視点、アプローチ、さらには作品の保管や活用のありかたについて、2日間にわたり、密に議論できた。また12月には、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示を担当する人類学者等とともに京都人類学研究会・季節例会シンポジウム『人類学とアートの協働』を開催した。本シンポジウムでは、制作実践に基軸をおいた文化人類学者、アーティスト、キュレーター間の領域横断的な議論を行い、人類学な映像制作実践におけるアートの語法の援用について意見交換できた。