国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アフリカ熱帯雨林における狩猟採集民の生態資源獲得の行動に関する人類学的研究(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 彭宇潔

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、アフリカ熱帯雨林地域の狩猟採集民の生態学的領域での行動が決定される過程を、生態、社会、行動の関係で説明するための人類学的な解釈モデルを構築することである。このために、生態学的領域の範囲、社会関係や価値観といった社会、文化的基盤と、活動時における即時的な環境変化への対応といった生態学的行動に着目したフィールド調査をカメルーン東部に居住するバカを対象として行う。具体的には、1)生業活動をおこなう生態環境の地理、地勢に関するデータ、2)親族・姻族等の社会関係・近隣集団との関係に関するデータ、3)諸活動に含まれる行動に関する定量的・経時的なデータを収集、分析し、それらの関係を明らかにする。そのうえで、従前に得られた結果についてバカ側の評価、解釈を加えた検証を行い、外的な行動モデルと内的な当時者の視点を接合させた生態資源の獲得に関する人類学的モデルの構築を行う。

活動内容

2020年度実施計画

2020年度(最終年度)は、新型コロナウィルス肺炎の拡大によって、海外調査・海外渡航がほぼ不可能になった。本研究課題の計画では、最終年度はこれまで2年間で集めたデータの再整理と総括を実施することで、海外への渡航は本来必要ではないが、国際ワークショップや国際学会への参加がほぼ不可能になった。その代案はオンライン開催が予想されるが、研究者間の共同作業は予想より遅くなるだろう。また、インターネットを通して現地の助手と連絡しながら、データの補足や事実確認などの作業が依然として必要だと考えられる。しかし、カメルーンの事情によってできなくなる可能性もある。それを防ぐ方法はないが、できるだけ日本での整理・総括作業を早く進めて、現地の助手と連絡を取れるうちに確認するしかない。

2019年度活動報告

2019年度には8月から9月にかけて約三週間のフィールドワークを実施した。主には1)狩猟採集民バカを対象に、道路沿いでの定住村の成員構成と、採集のための一時的な採集キャンプの成員構成及びそこまでのルートと対象資源の位置を記録した;2)焼畑農耕民ンンジメを対象に、定住村の成員構成、成員たちのほかの親族の居住地、ンジメ語における親族名称及び親族成員の個人名について聞き取り調査によって記録した。
具体的には1)の居住地と成員構成について、定住村では短期から中期での成員構成が固定しているが、長期(十年以上)でみると成員の入れ替えが起きていた。一方で、一時的な採集キャンプでは、構成成員は短期でも流動性が高いが、採集キャンプの位置は数年経ても変わらないことが多いことが明らかになった。2)の農耕民の社会構造と居住形態に関しては、親族間の居住距離が広がる傾向がみられる。ンジメでは特定の親族が子どもの名づけ親になる慣習があるが、そうした親族間の関係は彼らの居住地や移動先が決められることはない。女性の結婚による移出以外、生業活動(畑や出稼ぎなど)によって居住地が決められるのがほとんどである。また、農耕民は親族間の訪問はバカほど頻繁ではないが、労働力の借用による親族間の移動がよくみられる。
上記の1)のデータをこれまで集めた事例とデータと合わせて、バカの居住形態に関する投稿論文は掲載決定になった。上記の2)で集めた焼畑農耕民の事例をバカのと比較しながら通文化的な分析をした結果を、2020年2月のアメリカ通文化研究学会でポスター発表をした。そうしたデータに基づいて、狩猟採集民と近隣民族との社会的関係と、彼らの同地域での資源利用の実態の相関関係を議論する英文の投稿論文を執筆している。また、環境知覚に関する投稿論文は、映像に基づく行為分析及び参与観察で得た事例の整理が終了して、論文執筆の作業に移行した。

2018年度活動報告

2018年度は12月から1月にかけて約3週間渡航して、カメルーン東南部で約2週間のフィールドワークを実施した。主には(1)バカ・ピグミーたちが獲得する対象の資源の地理的情報の収集と、(2)バカたちが利用する森の中の道と資源の位置に関する知識の聞き取り、(3)個人に対する移動・移住史の聞き取り、そして(4)キー・インフォマント(以下KIと略す)に対して環境知覚に関する追跡調査をおこなった。資源の地理的情報とそれに関連するバカたちの知識については、彼らが主に川と地形を目印に覚えて、他者との共同経験を語ることによって情報を共有するということがわかった。その調査結果を、2018年5月の日本アフリカ学会で口頭発表で報告した。また、個人の移動・移住史については、主にその個人の婚姻状態と共同居住者との人間関係は個人の移動・移住の理由になることがわかった。その結果とこれまで実施した親族に関する調査結果を含めて、バカたちにおける社会関係と居住・移動に関する論文を執筆しているところである。環境知覚の追跡調査については、本来計画したKIにカメラを設置することをやめて、調査者(研究代表者)につけてKIの行動を撮影する方法に変更した。変更後の調査方法はKIを含む集団活動のメンバーを多数撮影することができ、KIに対する行動研究により良い方法である。この調査を通してバカたちは森を歩く実践の中で周囲の環境を知覚するには主に視覚と聴覚に頼っているが、嗅覚にもしばしば頼っていることが明らかになった。それに関して、論文執筆のためのデータ分析をおこなっているところである。