国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本手話言語の変質に関する研究 (2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(萌芽) 代表者 川口聖

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、危機・少数言語としての日本手話言語の保護の必要性に焦点を当てることで、これまで日本手話言語はどのように変質されてきたかを把握し、その実態を明らかにすることを目的としている。具体的には、現代の日本は、自然言語としての日本手話言語(音声日本語とは異なる文法体系を持つ手話言語)と人工言語としての手指日本語(日本語の文法に合わせた手話、日本語対応手話とも言う)の二言語が両存しているが、様々なコミュニティの形態それぞれにおいて二言語がどのように使い分けられているかを明らかにする。さらに、これまでの手話に関わる言語政策の変容によって、日本手話言語にどのような影響をもたらしてきたかを数値化することで、日本手話言語の変質を明らかにする。

活動内容

◆ 2019年4月より転入

2020年度実施計画

1.手話使用インフォーマントに対し、本格的な調査を進める。伝統的手話保存活動のタスクチーム・メンバーによる助力をいただきながら、できるだけ多くの手話使用者に予備調査としてのビデオ収録の協力をいただき、その中から10人程絞って、撮影用簡易スタジオを設置して、本調査としてのビデオ収録の協力をあおぐ。
2.古くからある手話映像データをできるだけ多く集めていき、更に、その集めたVHSデータをMP4等のデジタルデータに変換して、DVDやHDD等に保存する作業をすすめる。
3.アノテーション作業の協力者に、アノテーション・ソフトの使い方をマスターしていただき、手話の分析作業をすすめていただく。まずは、手話言語学に興味がある聾者を何人か集めて、手話言語学とアノテーションに関するワークショップを何度か開催し、その参加者の中から協力者を募り、古くからある手話映像データの分析から始める。
4.国際的な学会に参加して、手話言語学に関する学術的な情報を収集していく。手話データの数値化について、仮説としてすでに考案してあるが、その根拠を固めるための議論をすすめる。
5.日本の手話言語に関する定義や手話言語研究手法などの見直しを行い、これまで研究発表してきた内容を更に深めるとともに論文投稿していく。

2019年度活動報告

1.手話使用インフォーマントの探し方と古くからある手話映像データの集め方について、大阪市聴言障害者協会の伝統的手話保存活動チームの協力を得て、その協議を3回行った。1933年、小中学校等の教育現場で手話の使用が禁じられる前まで、手話教育を受けたことがある聾者、あるいは、1948年、聾学校の就学義務化が始まる前まで、無就学になってしまった聾者が使用している手話は、日本語の影響が少ないため、古くからある伝統的手話になっていると仮定して、その対象になる聾者の手話映像データを集めている。
2.手話使用者12人に対し予備調査を行った。口コミだけで、いきなり伝統的手話を使用するインフォーマントを見つけるのは困難であるため、予備調査として、聾者が多く集まるイベントに参加する何人かにビデオ収録を突然お願いして、その中から対象者を見つけて、改めて本調査としてのビデオ収録をお願いする方法をとることにした。大阪府で聾者が多く集まりそうなイベントを2つ選んで、そのイベント責任者に、事前に許可をいただいた。そして、参加者同士の手話会話を眺めながら、協力できそうな人を見つけて、承諾を得た上で、イベント会場外において、5分以下の手話スピーチをお願いした。
3.手話言語学に関するワークショップを1回行った。口コミだけで、手話のアノテーション作業に協力いただける人を見つけるのは困難であるため、手話言語学に興味を持たせるようなテーマを掲げて、ワークショップを行い、その参加者の中から見つける方法をとることにした。
4.手話言語学研究に関するワークショップや手話言語政策に関する国際会議や手話言語学研究に関する国際学会に参加した。手話言語学研究の最新動向や手話言語学研究倫理など、知見を深めた。

2018年度活動報告

1.手話使用インフォーマントの探し方と古くからある手話映像データの集め方について、その協議を5回行った。大阪市聴言障害者協会が、失われつつある、古くからある手話を保存する目的で、伝統的手話保存活動という事業を行っている。そのためのタスクチームに本研究に加わっていただき、約10人のメンバーと共にすすめている。そこで、1933年、小中学校などの教育現場で手話の使用が禁じられる前まで、手話教育を受けたことがある聾者、あるいは、1948年、聾学校の就学義務化が始まる前まで、無就学になってしまった聾者が使用している手話は、日本語の影響が少ないため、伝統的手話になっていると仮定して、その対象になる聾者の手話データを集めている。
2.手話使用者15人に対し予備調査を行った。口コミだけで、いきなり伝統的手話を使用するインフォーマントとして協力いただける人を見つけるのは困難であるため、予備調査として、聾者が多く集まるイベントに参加する何人かにビデオ収録を突然お願いして、その中から対象者を見つけて、改めて本調査としてのビデオ収録をお願いする方法をとることにした。大阪府では、聾者が参加できるイベントが数多く開催されており、その中から、聾者が多く集まりそうなイベントを3つ選んで、そのイベント責任者に、事前に許可をいただいた。そして、参加者同士の手話会話を眺めながら、協力できそうな人を見つけて、承諾を得た上で、会場外において、5分以下の手話スピーチをお願いした。
3.手話言語学に関する講演会を1回行った。口コミだけで、手話のアノテーション作業に協力いただける人を見つけるのは困難であるため、手話言語学に関するテーマを掲げて、講演会を行い、その参加者の中から見つける方法をとることにした。こうして、「言語の意味を知ろう~なぜ手話は言語なのか~」というテーマで講演会を開催し、16人の参加者を集めた。