国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

パプアニューギニアにおける森林開発を通してみたマレーシア華人のネットワーク(2007-2009)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 市川哲

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究はマレーシアおよびパプアニューギニアで森林開発に従事する華人に注目し、これらの人々が構築するトランスナショナルな社会空間とネットワークの実態を明らかにすることを目的とする。従来の華人のネットワークに関する研究では都市部に居住する人々や中国から他の国々へと移住する人々を対象としたものが多く、またトランスナショナルな領域に関する研究では、華人の国際会議や国際組織の設立、投資活動や企業の動向を取り扱う傾向があった。これに対し本研究では、森林開発という自然環境への人為的な介入が、華人系林業企業の国外での操業や、企業関係者の華人の国際移動やコミュニティの形成、華人と他の民族集団との交流や接触という、トランスナショナルな現象を引き起こすことに注目する。それにより先行研究が扱ってこなかった領域を明らかにすることを試みる。

活動内容

◆ 2009年5月より立教大学へ転出

2009年度実施計画

本年度の研究実施計画は以下の二点である。
(1)国外でのフィールドワーク
マレーシア華人のトランスナショナルなレベルでの活動とそのネットワークの特徴を明らかにするために、マレーシアおよびパプアニューギニアという二か所でのフィールドワークを予定している。マレーシアではサラワク州およびサバ州で、森林資源の開発に従事している華人を対象とした現地調査を予定している(2009年8月に約2週間を予定)。またパプアニューギニアでは、首都ポートモレスビーおよびニューアイルランド州ケビエンでの華人コミュニティを対象とした調査を予定している(2009年9月に2週間を予定)。
(2)国内外での研究発表
これまでの調査成果を公表するために、国内外の学会会議での研究発表と学術雑誌への投稿を計画している。具体的には、2009年7月に台湾で開催されるSociety for East Asian Anthropology、および2009年8月に韓国で開催されるInternational Conference for Asia Scholars 9での研究発表にエントリーしている。

2008年度活動報告

2008年度も前年度に引きづき、以下の三点を中心とした調査・研究活動を行った。
1.に関してはアジア太平洋地域、特に東南アジア島嶼部やオセアニアにおける資源利用と人口移動の相互関係に関する文献資料の収集を行った。特に近年、太平洋地域における中華人民共和国の企業や起業家による天然資源の開発に関してはいくつかの報告書や研究論文が刊行されているため、それらを参照することにより、パプアニューギニアにおけるマレーシア華人をより大規模なアジア太平洋地域におけるトランスナショナルな資源開発と人口移動の脈絡の中に位置づける作業を行った。
2.に関しては、2008年7月から8月にかけてマレーシアのサバ州およびサラワク州を訪問し、サバ州の首都コタキナバルおよびサラワク州の都市シブにおける華人コミュニティと現地住民コミュニティを対象とした現地調査を行った。特にシブでは福州系華人のファミリーヒストリーの収集を行った。
3.に関しては、2008年7月にマレーシア、コタキナバルにて開催されたBiennial Conferences of Borneo Research Council 9thおよび2008年12月に香港で開催されたInternational Conference on "Globalization: Culture, Institutions and Socioeconomics"(organized by The Chinese University of Hong Kong and Washington University in St. Louis)にて研究発表を行い、研究成果を国際的な場で公表した。

2007年度活動報告

2007年度はパプアニューギニア(PNG)で森林開発を行うマレーシア華人の活動とネットワークに関する調査を行うために、1.国内での文献調査、2.国外での現地調査、3.国内・国外での研究発表を行った。以下、具体的な活動内容について述べる。
1.に関してはPNGにおける森林開発の概況と、マレーシア華人の国際的な活動に関する研究に関する文献資料の収集と分析を行った。その結果、PNGにおける森林開発に関しては統計資料に依拠した報告書や環境問題に在地住民が如何に関わっているかをテーマとした研究が多いが、PNG国内の森林伐採に関し無視できない存在となっているマレーシア華人やマレーシア企業をテーマとしたものはほとんど存在しないことが明らかになった。また、マレーシアから国外に移住する華人に関する研究も、断片的な報告にとどまり、本格的な民族誌は存在しないことが明らかになった。
2.に関しては、2007年7月30日から9月21日にかけてマレーシアを訪問し、首都クアラルンプールおよびサラワク州の州都クチンで関連する資料収集を行った。またクアラルンプールではマラヤ大学および華社研究中心を、クチンではマレーシア大学サラワク校を訪問し、それぞれ現地の研究者との意見交換を行った。さらにサラワク州のラジャン川流域のシブ、カピット、ブラガといった都市を訪問し、森林伐採に従事する人々や、マレーシアからPNGへと移住する人々に関する調査を行った。
3.に関しては、日本国内では日本文化人類学会の研究大会、立教大学「人の移動と文化変容研究センター」が主催した国際シンポジウム、および日本華僑華人学会の研究大会で研究発表を行い、これまでの調査研究の成果を公表した。また日本国外では、2007年8月にクアラルンプールで開催された第五回世界アジア研究者会議で英語による研究発表を行った。