国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

紛争後社会のレジリエンス:オセアニア少数民族の社会関係資本と移民ネットワーク分析(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 丹羽典生

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、オセアニア地域を対象として紛争後の社会におけるレジリエンス(紛争・災害などから復興する力)について、少数民族との関係から解き明かすことを目的としている。世界的にみて紛争は、1980年代後半以降グローバル化の影響のもと一部で悪化したが、近年は関係修復の局面に入っている。
本研究では、紛争によって分断化された社会の中でオセアニア少数民族が繰り広げる社会関係の修復に関する戦略を分析する。具体的には、ローカル社会のもつ社会関係資本の差異と特質の活用からグローバル化されたネットワークを利用する戦略までを分析することを通じて、紛争後の分断をいかに乗り越えるのかという、レジリエンスのメカニズムについて考察する。

活動内容

2020年度実施計画

本年度は、ポスト紛争期における少数民族が社会関係資本を活用しながら、分断された社会関係をいかに修復しているのかを調査の中心とする。その際特に注目するのは混血を通じた関係である。彼ら少数民族は先住民との長年にわたる婚姻関係を通じて、民族的・文化的に同化の過程にある。クーデタの帰結として先住民の権利が特権化されるなか、少数民族は混血であることを逆手にとり、先住民に有利な政策(援助や奨学金など)が見いだせる際には、先住民側のアイデンティティを前面に出す傾向がある。この点は、文化・言語のレベルで先住民化している彼らの在地の論理に根差したレジリエンスの戦略でもある。
ただし少数民族のあいだにも、先住民との混血の実態とその活用には差異がある。そこで本研究では、政治的危機的状況におかれた少数民族がいかなる適応戦略を行っているのか、実態とその活用の両面に焦点をあて調査を行う。フィジーの都市部及び少数民族の集落における集約的な民族誌的調査を計画している。
混血が生み出された歴史的社会的背景については公文書館、統計局、関係省庁及び古文書館にて資料の収集分析を行う。混血を通じたポスト紛争期の関係修復の戦略については、それぞれ集落における調査と要となる人物(宗教指導者、集落長、政党の代表など)へのインタビューから解き明かす。
以上が当初に立案した計画ではあるが、現在の新型コロナウイルス感染症の世界的拡大に伴い、調査のめどが立たない状況である。主要なフィールド調査地であるオセアニアの多くは入国にも規制がされており、文献調査を行うヨーロッパの国においても同様に調査ができる状態ではない。これらの状況が年度後半に改善されれば適宜調査を遂行するが、そうでなかった場合はウェッブ上で可能な文献調査を適宜進める。最終的には、予算の次年度の繰り越しを検討する。

2019年度活動報告

研究初年度ということで代表者を含めた4人のメンバーの間で意見交換しつつ、研究調査と成果の公開をすすめた。海外調査としては、主たる調査対象であるオセアニアのフィジーで行った。フィジーの中でもそれぞれが担当する少数民族集落でのフィールド調査と関係者への聞き取り調査を適宜行った。代表者はフィジーの離島における少数民族のフィールド調査とあわせて南太平洋大学や同図書館にて関係資料の収集と閲覧を行った。国内では、アルバイトを雇用しつつ、これまでに収集してきた関係資料の整理・統合とデータベース化を進めた。主たる対象は、過去の研究論文、政府関連資料のほか、新聞記事で、それらを電子化して、整理することで研究メンバーの間で情報の共有化を進めることができた。
口頭発表等としては、研究分担者が主宰する国立民族学博物館の共同研究「オセアニア・東南アジア島嶼部における他者接触の歴史記憶と感情に関する人類学的研究」にて、1件の発表を行った。あわせて文化人類学会において、研究関係者と情報交換を行い今後の研究の進め方について意見を交わすのみならず、数多くの研究発表を拝聴することで研究課題と関連する研究課題についての知見を深めた。また論文などでは、代表者は論集とエッセイ集をあわせて2冊編集したが、それぞれには本研究課題とも間接的ながら関わる内容が含まれている。それ以外には分担者が短い論考3本、エッセイ4本程度刊行した。