国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アオウミガメを例にした稀少動物に対する人為空間の構造的理解に向けての比較研究(2019-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援 代表者 高木仁

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、地球上で稀少となっている動物に着目して、人類がそれを巡ってどのような人為環境の空間を作り上げているのかを研究することである。これまで申請者はカリブ海にて草食性のウミガメが最も多く漁獲されているモスキート・コースト先住民自治州にて学術調査研究を行ってきたが、そこで見えてきたのは先住民らの残虐性のみだけではなく、近代化された社会における動物の強い管理統制志向でもあった。
本研究では更に広くカリブ海や大西洋、インド沖へと赴き、大航海時代から始まったとされる英国人(旧英領ジャマイカ・英領ケイマン諸島・旧英領トリニダード・トバゴ島・セーシェル諸島)による開発史を追跡して更に理解を深めていく。

活動内容

2020年度実施計画

次年度は、これまでの熱帯地方の人間とアオウミガメの文化への理解に対して行われてきた平面空間的な理解を踏襲しながら、さらに垂直空間に対する人間文化を研究して、その理解を深めていく。
次年度の研究では、これまで博士論文にて研究してきたカリブ海のミスキート・インディアンのような関わり方を一つの属性として考える(0属性)。もうひとつは、私たちのような近代科学の技術によって支えられる文明社会に暮らし、主に稀少動物(アオウミガメ)を守り、育てながら暮らす文化を別属性として対極に置く(1属性)。
次年度の研究では、そのように人間の動物に対する関りを大きく二つに分類し、これまでの調査で得られた世界の大洋から代表サンプルを選び、そして、その空間における0属性と1属性を対比的に描写して、異なる属性が混在するような低解像度の3次元マップを作成する。これが、これまで米国の文化地理学者のパーソンズの仕事に代表されるような熱帯地方の人間と稀少動物(アオウミガメ)の空間的理解とは大きく異なる点である。
次年度は、そのように現代社会における人間の稀少動物(アオウミガメ)への関与を二分類し、そこで参照される文化情報の収集に努めていく。世界の最先端研究では、ソーシャルネットワークサービスを使って、世界各地の研究者がウミガメ類に取り付けた全地球測位システムからの情報を集めて、リアルタイムにウミガメ類が海中でどのような回遊動向にあるのかを知ることが出来るようなデータベースが作成されてており、日進月歩で新たな研究が発信されている。そうした現状を踏まえて、稀少動物(アオウミガメ)に対する人為的空間の新たな側面を発見していく作業になるだろう。
そのようして作成した3次元マップを元にして、現代社会における稀少動物(アオウミガメ)への関与又は人為的な資源利用の空間についての理解を深めていく。

2019年度活動報告

本年度は、これまでの申請者のカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を発展させるため、広く世界の大洋でどのように人々が稀少動物のアオウミガメを介した生活を営んでいるのかを、古典文献や最近の報告資料から分析する作業に従事した。上記作業によって明らかになって来たことを以下にまとめた。
1)南太平洋のパプア・ニューギニア、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島、オーストラリア北部(トレス海峡)、ミクロネシア連邦、インドネシア東部の近海域で、かなり類似性を持ったウミガメを介在した文化が存在することである。調査した文献によれば、これらの海域の民族はウミガメに対して類似した呼称を有するなど、文化的にも共通点が多い。現代のインド洋ではソマリア近海でのみ漁獲・消費が現在でも行われているが、1980年に提出された文献では、その利用は海域全体にわたっており、イスラム教徒の暮らすスワヒリ海村などでは大きな変化が生まれている可能性が示唆されることとなった。大西洋・カリブ海では19世紀の開発の中心となった英国とつながりの深い地域(ベリーズ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ)のクレオール海村や先住民の土地での漁獲が現在でも続いており、特に英領ケイマン諸島が周辺の民族へと及ぼした影響の大きさが本研究によって明らかとなって来た。
2)こうした直接的な消費地の他にも、アオウミガメの生息域や繁殖域の外の国々では、全地球測位システムを用いて、アオウミガメの回遊路や動態をリアルタイムに把握するなどの管理統制努力がみられる。南西諸島で行われているアオウミガメの保護や回遊路の把握もそうした試みの一つとしてとらえてみたい。次年度は上記で得られた研究結果をもとに稀少動物(アオウミガメ)に対する人為空間を構造的に理解するための3次元マップの作製するなどして、新たな見解を提示していきたいと考えている。