国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

大規模災害被災地における環境変化と脆弱性克服に関する研究(2008-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 林勲男

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、大規模自然災害による自然及び社会環境の変化を、被災地での現地調査に基づき、 その地域社会は被災をいかに受け止め、その社会の持つ脆弱性をどう評価し、 その克服に向けてどのような取り組みをしているのかの実態を明らかとすることを目的としている。 調査研究対象地域は、 1998年7月のパプアニューギニアのアイタペ津波災害被災地であるサンダウン州、 2001年1月発生のインド西部地震被災地のグジャラート州カッチ県、 2004年12月発生のインド洋地震津波災害被災地であるインドネシアのアチェ州、南インドのタミルナードゥ州、スリランカのコロンボ市・マータラ県・ハンバントタ県、タイのプーケット県・パンガー県である。

活動内容

2012年度実施計画

本年度の現地調査は、林がパプアニューギニアのサンダウン州において、災害後の再定住地での土地権問題と生業について現地調査を実施する(10月予定)。
2004年のインド洋地震津波災害被災地調査としては、高桑がスリランカ南部および南東部の復興住宅団地での被災者の生活に関して調査する(8月予定)。杉本は南インドで、津波災害復興過程での宗教の役割に関する調査を実施する(9月予定)。インドネシアのバンダアチェでは、研究協力者の齋藤が被災者の居住地移転と復興住宅に関する調査を実施する(2月予定)。タイでは研究協力者の鈴木がパンガー県とプーケット県にて、被災地の観光開発に伴う土地問題について調査をおこなう(8月予定)。
インド西部地震被災地に関しては、研究協力者である金谷がグジャラート州において集団移転に関する調査を8月に予定している。
田中は比較研究のため、インドネシアのバンダアチェにて、住宅建設に関する耐震性への認識について現地調査をおこなう(8月予定)。林は比較研究のため新潟県中越地震被災地(5月)、東日本大震災による東北被災地(5月、10月)、インドネシアのバンダアチェ(12月)にて、脆弱性克服の取り組みと土地利用について現地調査を実施する。研究協力者の柄谷は、比較研究のため、東日本大震災被災地の岩手県沿岸部にて、地域コミュニティ再建に関する調査を実施する(8月)。
牧と山本は本年度の現地調査は、別の調査資金で実施の予定である。

2011年度活動報告

林はパプアニューギニアのポートモレスビーで、1998年のアイタぺ津波災害発生以降の災害センターの体制と、教育メディアセンターの活動について調査をおこなった。2004年のインド洋地震津波災害被災地に関しては、杉本が南インド、タミルナードゥ州の津波被災地において、巡礼聖地の大祭を開催するに当たり協会と村会が展開したメディア戦略に焦点を当てることで、災害復興に果たす宗教の役割について調査を実施した。高桑は、スリランカのマータラ県の津波被災者定住地にて、青年層を中心とした環境整備活動に関して調査した。山本は、インドネシアのバンダアチェ市郊外に建設された中国慈善協会の再定住地で、入居している世帯に対して質問紙調査を実施した。齋藤は、やはりバンダアチェ市とその近郊で、集団移転問題に関して、首長選挙前という時期に注目してデータ収集をおこなった。また、林はバンダアチェ市に開館した津波ミュージアムの展示と運営、市内の文化遺産の修復状況に関して調査を実施した。田中は、比較研究の観点から、タイのバンコクの洪水災害について、被災した現地日系企業の復旧状況について調査し、各企業の対応状況について情報を収集した。タイ南部では、鈴木が少数民族モーケンの被災村落にて、支援がもたらした意識の変容に関しての調査をおこなった。
牧は、本年度は別の経費にて、東日本大震災の被災地を対象に、昭和三陸津波の復興計画の分析、昭和・明治三陸津波後の再定住地における被害状況についての調査を実施した。また、金谷と柄谷は、本年度は現地調査を実施せず、これまでの収集データの分析をおこなった。柄谷は比較の観点から、東日本大震災被災地の仮設住宅における地域リーダーの役割に関して、別経費で調査を実施した。

2010年度活動報告

2010年度は、初年度の実績を踏まえて以下の研究活動を展開した。
金谷はインド西部地震後の復興について、ローカル新聞に掲載された震災10周年の記事と、ダマルカー村の移転の調査を行った。林はニューオリンズにおいて、ハリケーン・カトリーナ災害の記憶・記録に関する調査を実施した。
2004年のインド洋地震津波災害被災地調査として、高桑は、スリランカ南部と南東部にてコミュニティの自律性に寄与する仏教寺院の役割について調査した。インドネシアのバンダアチェでは、齊藤が土地問題およびリロケーションに関してデータを収集し、林は津波ミュージアムの開館準備状況とメモリアルイベントについて調査した。また、山本はパンテリーク再定住地で、恒久住宅の増改築状況とその居住者の入居まで履歴、転入後の住まい方について調査を行った。タイ南部では、柄谷と鈴木が2009年度から2010年度に繰り越しが認められた経費によって、被災後の住民生活の変化と観光産業の動向に関する聞き取り調査を実施した。インド南部のタミルナードゥ州では、杉本がキリスト教会の援助について調査を実施した。比較研究の観点から、田中はフィリピンのマリキナ市にて、Engineered住宅とNon-Engineered住宅の建設プロセスの比較調査を実施した。
牧は本年度は他の経費で、インドネシアのバンダアチェにて、被災社会の流動性に関する現地調査を実施した。

2009年度実施計画

本年度の現地調査は、林がパプアニューギニアのサンダウン州において、1998年のアイタペ津波災害後の再定住地での土地権問題と生業について現地調査を実施する(7月予定)。研究協力者の金谷は2001年のインド西部地震の被災地において、移住村への移住経過に焦点を当てて現地調査を行う(2月予定)。
2004年のインド洋地震津波災害被災地調査として、高桑は、昨年度に選定したスリランカ南岸の新たに建設されたコミュニティと周囲の環境との関係およびコミュニティ内部に形成されつつあるネットワークに関して調査する(10月予定)。インドネシアのバンダアチェでは、齊藤が紛争事例を中心に、土地権を定める複数の法とその解釈および紛争当事者の戦略に関して調査を行う(2月予定)。タイでは柄谷と研究協力者の鈴木がパンガー県にて、地域再建に向けた共助・互助におけるコミュニティ・リーダーの役割や外部支援による影響について共同調査を実施する(8月予定)。
田中は比較研究のため、インドネシアのジョグジャカルタとインドのグジャラートにて、地震災害復興の状況と復興した住宅建設に関する耐震性への認識について現地調査する(インドネシアは8月、インドは12月予定)。林は比較研究のため、新潟県中越地震被災地の復興状況と中山間地域としての脆弱性克服の取り組みについて現地調査を実施する(5月、10月、1月予定)。
杉本・牧・山本の3名は本年度は現地調査は実施せずに、杉本と牧は昨年度収集したデータの分析を行ない、山本はこれまで収集したデータの分析を踏まえ、恒久住宅と住まい方に関する論文を執筆する計画である。
また、昨年度に開設したホームページ「災害と社会・文化」(http://www.r.minpaku.ac.jp/isaki/disaster/)に、本プロジェクトで得た情報と知見を随時掲載していく。

2008年度活動報告

初年度は、まず各メンバーのこれまでの研究についての報告と本プロジェクトの計画に関する会合を6月下旬に開催した。
現地調査は、金谷がインドのグジャラート州カッチ県において、被災地である染色産地の村の移住に伴う生活上の変化について調査した。林は本務の関係から調査可能な乾季にパプアニューギニアの現地に入れず、シドニーのニューサウスウェールズ州立図書館での文献調査と、大規模災害被災地復興の比較の観点から、1906年に発生したサンフランシスコ地震・大火災の復興過程に関して、図書館・博物館等で関連資料の収集を実施した。
2004年のインド洋地震津波災害被災地調査として、杉本がインド、タミルナードゥ州ナーガパッティナム県庁より公刊された津波災害報告書の分析を行い、同州中東部および南部の被災地の現状と復興過程における宗教のはたす役割について現地調査を実施し、関連資料を収集した。高桑はスリランカ南岸の2箇所の地区を選定し、異なる出身地域/職業の人々から形成される新たなコミュニティ建設の状況に関して現状を把握した。インドネシアのバンダアチェでは、田中が復興住宅の建設過程について、現場の職人に対するヒアリング調査を実施し、同様の形式であるフィリピンのNon-Engineered住宅の建設過程との比較検討を行なった。牧はバンダアチェ近郊に位置する2つの再定住地において、入居者の(1)元の居住地、(2)入居に至る経緯、(3)職業に関して調査した。齋藤はバンダアチェ被災地の土地権、特に、賠償金不払い事例における政府側と住民側の土地占有と権利に関する解釈の違いを調査するとともに、土地問題関係の資料を収集した。鈴木はタイ南部パンガー県のスリン諸島内にある「少数民族」モーケン村落において、被災後の生活変化に関する聞き取り調査を実施した。
山本と柄谷は、本年度は現地調査を実施せず、これまで収集したデータの分析をし、学会発表や論文として成果を公開した。