国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

オーストラリア先住民ヨルタ・ヨルタの環境管理のための社会運動と実践(2009-2010)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 友永雄吾

研究プロジェクト一覧

目的・内容

2007年に実施したフィールドワークにより、ヨルタ・ヨルタの土地権回復運動に関する現状が明らかになってきた。たとえば、1999年に設立されたマレー河とダーリン河下流域を本来の領域とするヨルタ・ヨルタを含む10アボリジナル集団の「ネイションズ」は、水域資源の管理をめぐる決定権や交渉権を獲得している。また、2004年にビクトリア州と「ヨルタ・ヨルタ・ネイション・アボリジナル法人」の間で締結された「土地と河川の利用に関する共同管理協定」では、河川に加えマレー河周辺の州立公園管理に関する交渉権の一部をヨルタ・ヨルタにもたらした。これらの事例は、ヨルタ・ヨルタの土地権回復運動が求める集団の権利獲得のための主張を後押しするものとなっている。
この研究の目的は、先住民が獲得し継承してきた森と川に関する知識にもとづき資源利用と管理に関する具体的な方法を、「先住民ネイションズ」と「共同管理協定」により進められる「文化地図」と「森林管理モニタリング」に注目しつつ明らかにすることにある。

活動内容

2010年度活動報告

まず、ヨルタ・ヨルタの森と川の資源利用と管理のための知識に関する具体的な方法については、人為的な火災による「森林管理方法モニタリング」と「文化地図」の具体的な活用法に注目し、補足調査を実施した。前者モニタリングは2010年3月をもって修了した。それは当該地域にそれまで少量であった降雨量が急上昇したためである。文化地図の活用は、2010年夏に実施したヨルタ・ヨルタ代表からの聞き取りによると、本地図作成を詳述した本が出版されたこと、さらにニューヨークの国連や世界銀へヨルタ・ヨルタが出向き地図の成果報告をしたこと、また地図作成を近隣先住民集団に拡大させるためコーディネータ2名が設置されたことが判明した。
次いで、私有地、国立公園さらに共有地の運営・管理方法については、2010年に国立公園が設置されて以降、公園内の案内掲示板が増設した。また、ヨルタ・ヨルタが運営するセンターの拡張工事、5名のレンジャーのポジションが創出された。一方、非先住民が所有するホテルやビジター・センターの外装工事もおこなわれた。
さらに、利害関係者がもつ資源利用と管理をめぐる異なる視点と知識については、ヨルタ・ヨルタの文化を伝え、就学機会促進のための要になるダルニヤ文化センターとヤンビーナ先住民トレーニング・センターの再開が延期されていることが判明した。また、環境NGOと都市知識人からはバルマ森林国立公園に隣接しニューサウスウェールズ州が管轄するミラワ州立公園の国立公園化を目指すネットワーク形成とそれにもとづく運動が展開されている。
最後に、2010年度に投稿した2本の査読論文を改定し、2011年3月に総合研究大学院大学にて受理された「オーストラリア先住民ヨルタ・ヨルタの環境管理のための先住民運動にかんする文化人類学的研究」をもとに、現在、出版社と自著出版の交渉を進めており、出版は2012年3月の予定である。

2009年度活動報告