国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

南日本・東南アジアの野生サトイモの民族植物学的・遺伝子学的緊急研究(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 ピーター J. マシウス

研究プロジェクト一覧

目的・内容

南日本、東南アジアにおける野生サトイモ(Colocasia esuculenta)の民族植物学的調査(現地におけるサトイモノ歴史・用途・管理)を行う。遺伝子比較により、南日本(琉球列島)の野生サトイモの起源を同定する。植物の自然史・文化史、琉球列島におけるヒトの定住と生活の歴史、必要とされる野生サトイモ個体群の保全といった観点から、得られた成果を解釈する。

活動内容

2013年度活動報告

今年度は、分析を進めることと執筆、学会での発表に集中した。フィリピンの中部から南部にかけて収集した、Colocasia esculenta(29サンプル)の葉緑体の5つの遺伝子座と、Alocasia macrorrhizos(15サンプル)の葉緑体の3つの遺伝子座の配列に関する新しいデータを得ることができた。データの分析は現在も進行中である。このプロジェクトの主たる成果として、第11回国際サトイモ科植物学会をハノイで開催した(学会発表を参照)。今年度末に出版した『On the Trail of Taro』にもこのプロジェクトにより行われた研究を紹介した。

2012年度活動報告

平成24年度、ベトナム北部とフィリピン北部・中部・南部で野外調査を行った。全地域において野生種のサトイモ・野生種の他のColocasiaを、またフィリピン中部と南部において野生種と栽培種のクワズイモ(Alocasia macrorrhizos)を観察し植物標本を収集した。AraceaeのクロロプラストDNA(cpDNA)分析に最適であるさまざまな遺伝子座を同定した。(Ahmed et al. in press)現在、これを用いて、アジア・太平洋地域から収集された多くの標本(野外調査により新たに加えられたものと国立民族学博物館内に保管されているDNAアーカイブからのもの)について分析を進めている。
これから研究成果として公表を予定していることは、(1)熱帯の2倍体サトイモの多くは1つの大きな母系cpDNA系統に属していて、インド-アジアに起源をもつと考えられる(2)温帯の(寒冷な気候に適応した)3倍体サトイモの多くは2番目に大きいcpDNA系統に属していて、東アジアに起源をもつと考えられる(3)野生種には多くのcpDNAの系統があるがこのうち2つの系統のみが大部分の栽培種サトイモに寄与している(4)ベトナム北部で収集した標本の中には、形態学上は異なっているが、類似のあるいは同一の葉緑体ゲノムを示すものがあることから、この地域において異種間の交配が起こったと考えられる。ベトナムの野生種サトイモはこれまでに見つかった南と北の双方の系統を起源としているのかもしれない。食用の植物として、また、ブタの餌として人類が利用し伝播した結果として、この野生種のサトイモの交配が起こった可能性もある。

2011年度活動報告

南日本、東南アジアにおける野生サトイモ(Colocasia esuculenta)の民族植物学的調査(現地におけるサトイモの歴史・用途・管理について)を、沖縄(5月)・奄美大島と徳之島(9月)・ヴェトナム(10月)・フィリピン(11月)で行った。それぞれにおいて、遺伝子学的調査に必要となるサンプルの収集も行った。
ルソン島(フィリピン)での調査からは充分なデータが得られ、論文出版の準備段階に入った。
フィリピン・ヴェトナム・琉球諸島での野外調査で得られたサンプルの分析方法に関して討議中である。
ヴェトナムでの調査から、広範に分布する野生サトイモ(C. esculenta)の存在を確認できたが、さらなる調査が不可欠である。
琉球諸島における野生サトイモの分布は散在的なものであったが、いくつかの地域では豊富に存在していた。日本における野生サトイモの広がりに関する歴史的な解釈のためには遺伝子の解析が必要である。