国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

瀬戸内海及び西日本における多島海世界の民俗芸能の研究(2011-2014)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 笹原亮二

研究プロジェクト一覧

目的・内容

西日本各地には、瀬戸内海や五島灘・玄海灘等、多くの島々が存在する多島海的海域がある。そこでは古来、漁労・商業・交通等を生業とする海の民と、彼らを保護・支配する海の領主の活動圏として、島・海・沿岸地域から成る「領域」が形成されてきた。また、各海域は国内外を巡る航路上に位置し、人・物・情報が往来する「道」として外部と頻繁な交流・交渉が見られた。一方、個々の島は地理的制約から、天候等の自然状況や政治的・社会的要因により外部と隔絶し易く、個性や自律性を有する「コミュニティ」が形成された。更に、瀬戸内海は平家等の強大な政治勢力の活躍の場となり、五島灘や玄界灘は「異国」との境界となる等、それぞれ独自の地域性が形作られた。こうした海域の「領域」「道」「コミュニティ」という特質と各々の地域性が相俟って、各々の海域独自の歴史や社会が展開していった。
こうした海域の島々や沿岸地域には、海域外と共通しつつも各海域独自の特徴的な民俗芸能が分布する。その一方で、同一海域の同種の芸能にも様々な差異が認められる。こうした民俗芸能の多様性は、「領域」「道」「コミュニティ」という特質と地域性が交錯しつつ展開してきた、各海域の歴史的環境と民俗芸能の密接な関係の存在を示している。研究では、そうした海域の島と海と沿岸地域を一体として「島嶼世界」と捉え、それぞれの島嶼世界のおける民俗芸能の実態を、「領域」「道」「コミュニティ」の特質と地域性の中で歴史的に形成・伝承されてきた島嶼世界の民俗文化として解明する。

活動内容

2014年度活動報告

今年度は、だんじりと獅子舞(兵庫県南あわじ市・同県淡路市)、獅子舞と走り御輿と傘踊(岡山県笠岡市)、松山踊(岡山県高梁市)、備中神楽(岡山県倉敷市)、大宮踊(岡山県真庭市)、太鼓踊(広島県三原市)、椋浦法楽踊と中庄神楽(広島市尾道市)、神明踊(山口県柳井市)、神代踊(徳島県三好市)、阿波人形芝居(徳島県徳島市)、田野々の雨乞い踊(香川県観音寺市)、綾子踊(香川県まんのう町)、獅子舞(香川県さぬき市)、湯立神楽と獅子舞(香川県丸亀市)、ももて祭り(香川県三豊市)、継獅子舞(愛媛県今治市)、花とり踊(愛媛県愛南町)、お伊勢踊と伊予神楽(愛媛県宇和島市)、鳥坂鎮縄神楽(愛媛県大洲市)、四ッ太鼓と獅子舞(和歌山県御坊市)、御田植神事(大分県国東市)、島前神楽(隠岐郡西ノ島町)等について、現地調査を行った。
また、徳島県立図書館、愛媛県立図書館、倉敷市立船穂図書館、新見市立図書館、岡山県立図書館等の各地の図書館において、それぞれの地域の祭と民俗芸能に関する論文や報告書等の文献資料の調査を行ったほか、香川県立ミュージアム、愛媛歴史文化博物館において、それぞれの地域の祭と民俗芸能に関する映像資料の調査を行った。更に、宇和島市立伊達博物館(愛媛県宇和島市)、倉橋歴史民俗資料館・長門の造船歴史館(広島県呉市)、周防大島文化交流センター・久賀歴史民俗資料館(山口県周防大島町)等の各地資料館・博物館において、地域の歴史や文化全体に関する関連資料の調査を行った。
こうした調査を通じ、この地域全域における民俗芸能の多様性の一方で、同一系統の民俗芸能の地域的な分布の偏りの存在が明らかとなり、それが、特に、江戸時代以降のそれぞれの地域が経てきた歴史と密接に関わっている可能性が浮かび上がってきた。

2013年度活動報告

本研究は、島々・海・沿岸地域を一体の島嶼世界と捉え、そこでの民俗芸能を、歴史的に形成・伝承されてきた島嶼世界の民俗文化として解明することを目指し、瀬戸内海を初め西日本各地の多島海的海域や島々や沿岸地域の民俗芸能について調査を行い、相互比較を試みるものである。
平成25年度は、瀬戸内海東部の島々と本州・四国の沿岸地域の民俗芸能を中心に現地調査を行った。調査を行ったのは、五ツ鹿・牛鬼・四ッ太鼓・唐獅子・練り物(愛媛県宇和島市・愛南町・八幡浜市)、川名津神楽(愛媛県八幡浜市)、獅子舞(愛媛県今治市)、大三島神楽(愛媛県今治市)、かぶと踊(愛媛県新居浜市)、夏越しのお神楽(香川県観音寺市)、念仏踊(香川県綾川町)、ひょうげ祭(香川県高松市)、獅子舞・虎頭の舞(香川県東かがわ市)、太鼓台・地芝居(香川県土庄町)、獅子舞(香川県三豊町)、だんじり・山鉾・祭礼芸能(徳島県海陽町)、踊念仏・盆踊(徳島県徳島市・つるぎ町)、神踊(徳島県徳島市)、鷺舞(山口県山口市)、滝坂神楽舞・腰輪踊(山口県長門市)、本山神事・獅子舞(山口県周南市)、厄神舞(山口県山口市)、矢野神儀(広島県三次市)、名荷神楽(広島県尾道市)、だんじり歌・獅子舞(兵庫県洲本市・南あわじ市)、国分神楽・宇目神楽(大分県大分市)等である。
また、現地調査を行った民俗芸能を初めとした調査地域の民俗芸能に関する論文・調査報告・関連情報等の調査・収集を各地の図書館等において行った。調査を行ったのは、愛媛県立図書館、松山市立中央図書館、香川県立図書館、ちょうさ会館、徳島県立図書館、山口県立山口図書館、下関市立図書館、大分県立図書館、島根県立古代出雲歴史博物館、島根県立図書館等である。現地調査と文献等の関連資料の調査を併せて行うことで、現地調査を行った民俗芸能に関する理解が促進し、本研究を効率的に進めることができた。

2012年度活動報告

本研究は島々・海・沿岸地域を一体の島嶼世界と捉え、そこでの民俗芸能を歴史的に形成・伝承されてきた島嶼世界の民俗文化として解明することを目指し、瀬戸内海を初め、西日本各地の多島海的海域における島々と沿岸地域の民俗芸能について調査を行い、相互比較を試みるものである。
平成24年度は、瀬戸内海の島々と本州・四国の沿岸地域の各地の民俗芸能を中心に現地調査を行った。調査を行ったのは、継獅子(愛媛県今治市)・御田植祭(愛媛県西予市)・盆踊(岡山県笠岡市・愛媛県今治市)・踊念仏(岡山県真庭市)・祝島の神舞神事(山口県上関町)・風流踊(山口県山口市・長門市)・だんじりの巡行に伴う芸能(岡山県笠岡市・広島県三原市)・神幸祭に関わる芸能(愛媛県松山市・今治市・伊方町・宇和島市)・地芝居(愛媛県松山市・岡山県奈義町)・神明祭に関わる芸能(山口県上関町・広島県竹原市)・藤縄神楽(愛媛県大洲市)等である。
加えて、現地調査を行った民俗芸能を初めとした各地の民俗芸能に関する論文・調査報告書等の文献等の調査・収集や情報収集を、各地の図書館等において実施した。調査を行ったのは、岡山県立図書館・笠岡市立中央図書館・広島県立図書館・広島市立中央図書館・福山市立中央図書館・呉市中央図書館・竹原市立図書館・山口県立山口図書館・山口市立中央図書館・防府市立防府図書館・周南市立徳山図書館・柳井市立柳井図書館・萩博物館・香川県立図書館・愛媛県立図書館・松山市立中央図書館・今治市立中央図書館等である。
こうした各地の民俗芸能に関する文献等の関連資料の調査を現地調査と並行して行うことで、本研究全体をより適切かつ効果的に進めることができた。また、各地の民俗芸能はそれが行われる祭と不即不離なので、祭自体の分布・内容構成等の地域的なあり方を把握することの重要性・必要性を確認した。

2011年度活動報告

本研究は、島々・海・沿岸地域を一体の島嶼世界と捉え、そこでの民俗芸能を歴史的に形成・伝承されてきた島嶼世界の民俗文化として解明することを目的として、瀬戸内海や九州北部・西部等の、西日本各地の多島海的海域における島々と沿岸地域の民俗芸能について調査を行い、相互の比較を試みるものである。初年度の平成23年度は、瀬戸内海の島々と本州・四国の沿岸地域、及び九州北部・西部の多島海的海域とその沿岸地域の民俗芸能について、論文・調査報告書等の文献や関連資料の調査・収集や情報収集を、各地の図書館等において実施し、本研究の対象となる地域全体の概括的な状況を把握した。調査を行ったのは、岡山県立図書館・倉敷市立中央図書館・広島県立図書館・広島市立中央図書館・福山市立中央図書館・山口市立中央図書館・香川県立図書館・高松市立図書館・愛媛県立図書館・松山市立中央図書館・佐賀県立図書館・長崎歴史文化博物館・長崎市立図書館・熊本県立図書館等である。加えて、こうした調査の課程で得た情報に基づき、各地の民俗芸能に関する現地調査を行った。調査を行ったのは、戸島八幡宮祭礼のだんじりと木遣り歌(岡山県倉敷市)・能登原のとんど(広島県福山市)・一宮神社祭礼の御神幸と祭囃子(広島県尾道市)・十二神祇神楽(広島県廿日市市)・萩原神楽(広島県三原市)・祭礼の造り物(広島県三原市)・早長八幡宮祭礼の御神幸と木遣り歌(山口県光市)・住吉神社祭礼のだんじりと獅子舞(香川県高松市)・立川神楽(愛媛県内子町)・鹿踊(愛媛県西予市)等である。こうした現地調査を並行して行うことで、文献等の関連資料の調査をより適切かつ効果的に進めることができた。これらの地域の民俗芸能は、同系統の島々を挟んだ対岸での一致や遠方の一致等、現在の行政区分に収まらない様々な形態の分布が認められ、島々や海路を介した伝播を精密に追うことの重要性を改めて確認した。