国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ブルガリアにおけるヨーグルトをめぐる諸言説の生成と展開(2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書) 代表者 マリア ヨトヴァ

研究プロジェクト一覧

目的・内容

1.刊行の目的:ブルガリア研究の空白を埋める
ブルガリアは、冷戦時代の枠組において、東欧のなかでもソ連に最も忠実な国として冷視されてきた。研究面でもソ連圏と同一視され、個別の研究はほぼ皆無であった。こうした背景において本書は、ブルガリアの代名詞でもあるヨーグルトを対象とした初めての文化人類学的研究の成果である。ヨーグルトを主題として、1940年代から現在まで、ブルガリア人の生活文化と国民意識の変容を解明し、従来の研究の空白を埋めることが、本書刊行の大きな目的である。
2.刊行の内容:ブルガリアにおけるヨーグルトをめぐる諸言説の生成と展開
本書は、ブルガリアと日本を架橋するヨーグルトをめぐる様々な言説を取り上げ、歴史的に生成されてきた経緯をたどりながら、ヨーグルトが伝統的な食品からグローバルな健康食品、そしてナショナル・アイデンティティを包摂する食品へと変化していく過程を考察した文化人類学的研究の成果である。具体的な考察点は、(1)科学研究における“ブルガリアヨーグルト”という言説の誕生、(2)社会主義期における“ブルガリアヨーグルト”の確立、(3)“ブルガリアヨーグルト”の国際化、(4)ポスト社会主義期における“ブルガリアヨーグルト”の再帰性、という4点である。そこから結論では、ブルガリアという小国家がソ連やEUの「属国」ないし「周縁国」として軽視されてきた歴史を背景に、輝かしい言説を包摂するヨーグルトが自己規定のために極めて重要な役割を担っていることを導き出した。